波打ち寄せるホーム、出られない改札 JR鶴見線の海芝浦駅、都会のローカル線終着駅

京浜運河に面した海芝浦駅。首都高速湾岸線の「鶴見つばさ橋」など絶景が広がる
ホームからは海を隔てた工業地帯の景色が広がり、一般乗客は改札から出られない-。こんな特徴から、さまざまなメディアで取り上げられているJR鶴見線の「海芝浦駅」(横浜市鶴見区)。暑い最中に訪れてみると、大勢の家族連れやカップルが海からの風を受けながら「ここだけの駅」を楽しんでいた。

海芝浦駅に併設されている「海芝公園」。ゆったりと景色を楽しめる
海芝浦へ向かう旅は鶴見線の起点、鶴見駅から始まる。同じJRの京浜東北線とは離れた行き止まりの高架ホームから発着するのは、鶴見線の前身が鶴見臨港鉄道という私鉄だったからだ。ひっきりなしに列車が発着する京浜東北線とは違い、どこか「ローカル線」のムードも漂う。
列車は市街地を抜けて工業地帯に入ると、海芝浦へ延びる支線の起点、浅野駅に到着する。カーブに造られた支線専用ホームから運河を横目に進むと、列車は海芝浦にたどり着く。
波が打ち寄せるホームに降り立った乗客からは歓声が上がる。目の前に広大な京浜運河が広がり、対岸を走る首都高速湾岸線の高架や「鶴見つばさ橋」が一望できる。そのほか、煙突やタンク、遠くには横浜ベイブリッジが見える。訪れた人々はスマートフォンでの撮影に夢中だ。
駅に公園併設
駅は東芝エネルギーシステムズ京浜事業所の敷地内にあり、改札は事業所の入り口に直結しているため、一般客は出られない。その代わりに整備されたのが改札を右手に進んだ場所にある「海芝公園」だ。ベンチに腰掛けながら、海を眺められる。公園は午後8時半まで開放されており、夜景も気軽に楽しめる。
ただ、よほど時間に余裕がある場合以外、あまりゆっくりとはしていられない。朝夕の通勤時間帯以外、海芝浦にやってくる列車は1時間半に1本程度。ほとんどの訪問客は折り返し時間の15分ぐらいで駅を見学して帰っていく。都会のローカル線だけに、ダイヤには注意したいところだ。

海芝浦駅の駅名標。「運転本数が少ないのでお帰りの時間をご確認下さい」という案内がある
海芝浦から鶴見へ折り返し、京浜東北線に乗り換えて横浜まで30分もかからない。今度は海の方から海芝浦駅を眺めてみたい。横浜のウオーターフロントにある各乗り場からは、みなとみらいや京浜工業地帯の夜景を楽しむクルーズ船が出ており、これらに乗船すれば、幻想的な工場夜景の中、薄い明かりがともる夜の海芝浦駅を海の上から見ることができる。
沿線は個性派ぞろい
横浜市と川崎市の工業地帯を走るJR鶴見線。工場で働く人たちの重要な通勤の足となっている。鶴見-扇町を結ぶ「本線」、それぞれ海芝浦、大川へ向かう2つの支線を加えて全長9・7キロの路線だ。
鶴見駅に掲げられているパネルによると、鶴見線の歴史は大正15(1926)年、貨物専用鉄道として鶴見臨港鉄道が開業したのが始まり。昭和5年の全線電化とともに旅客輸送が開始された。18年に国有化され、62年の国鉄分割民営化でJR東日本が継承した。
戦後の高度成長期に工場の拡大とともに多くの専用線が敷かれ、貨物輸送でにぎわったが、トラック輸送への切り替えなどで徐々に規模は縮小していった。
そんな歴史を持つ鶴見線は海芝浦のほか、扇町、大川が終着駅だ。扇町はホーム1面、1線の小さな駅。貨物の取り扱いがあり、構内には電気機関車が止まっている。大川も駅の形は同じ。発着は朝夕しかない。あまり列車が来ないため、ホームには「本線」の武蔵白石駅まで15分で歩けるという案内が貼られている。

鶴見駅の鶴見線ホーム。「都会のローカル線」の起点駅だ
鶴見を出て次の駅は国道15号近くにある「国道駅」。アーチ状の高架下には5年の開業当時、商業施設があったという。現在、商店はなく、薄暗いが、これが昭和にタイムスリップしたようだと、人気スポットになっている。
起点の鶴見を除いてすべてが無人駅の鶴見線。「安善駅」は安田財閥の安田善次郎、「浅野駅」は鶴見臨港鉄道を設立した浅野総一郎と京浜工業地帯の礎を築いた財界人の名前が由来の個性的な駅もある。途中下車して、ひとつずつ訪ねるのもいいだろう。(鮫島敬三)