「イギリスで日本の軽自動車が人気」は本当か? 実際に人気なのはアルファードや日産の「あの車」

2024年11月にYouTubeにアップロードされたマット・ワトソンの動画。ホンダの軽スポーツカーS660を個人輸入したという内容で、130万回再生されている。

「イギリスで軽自動車が人気らしい」──そんな噂を耳にしたことはないだろうか。

発火点は日本でも有名な自動車系YouTuber、マット・ワトソンがホンダ・S660を個人輸入した動画や、現地の若手インフルエンサーたちが日本の軽を珍しがってレビューした映像だった。SNSでも「イギリスで日本の軽が爆売れ」といったポストが数万リポストされるなど、あたかも「イギリスで軽がブームになっている」かのようなストーリーが生まれた。

この噂は果たして本当なのだろうか? 結論から言うと、残念ながらフェイクだ。だが、実際には軽よりもミニバンが選ばれていたり、とある日本車がクラシックカーとして高い人気を誇っていたりする。

現地で筆者が撮影した写真を交えつつ、イギリスにおける日本車事情を解説してみよう。

「軽自動車ブーム」という虚構はなぜ生まれた?

イギリスで日本の軽が爆売れというストーリーは実際のデータを見ればあっけなく崩れる。

日本自動車工業会(JAMA)がまとめた『日本の自動車工業2024』によれば、2023年に日本からイギリスに輸出された軽四輪乗用車はゼロ台。つまり正規ルートでの輸出台数は一台も存在しない。「イギリスで軽自動車が爆売れ」という話は完全な虚構だ。ブームどころか、統計的にはゼロに等しい。そもそも軽自動車は日本独自の規格であり、欧州の型式認証に対応していないため、メーカーが公式に輸出することはあり得ないのだ。

にもかかわらず、「イギリスで軽が売れている」と思い込んでしまうのは、悲しいかな私たち日本人の願望が大きい。国内市場の縮小に不安を抱く中で、「我々の軽は海外でも評価されているに違いない」と信じたい心理が、誤報を受け入れる土壌をつくる。

そしてイギリス人は「日本の奇妙な小型車がYouTubeでバズっている」と面白がるだけで、日常の足として本気で欲しがっているわけではない。この視線のすれ違いが、軽ブームという幻想を増幅させてしまった。

軽が通用しないイギリスの道路事情

イギリスの小道で便利なフィアット500

とはいえ、イギリスの国土は小さく、道も狭い。軽自動車がマッチしそうに思える。

だがイギリスの道路事情では日本の軽はどうしても非力に写ってしまう。片側一車線の田舎道でも制限速度は60マイル(約96km/h)。高速道路に出れば70マイル(約113km/h)が当たり前で、合流や追い越しでは瞬時に加速できなければ危険ですらある。660cc・64馬力の軽では、この速度域に対応するのは厳しい。

また、制度の壁も厚い。日本では軽は税制優遇で維持費が安いが、イギリスではその恩恵はない。CO₂排出量のデータが未登録の並行輸入車は古い基準で一律課税され、年間約£160(約2万8000円)の自動車税を支払わされる。日本の3300円とは雲泥の差だ。これは排気量660ccの車としては割高で、さらに保険料も「部品調達が不透明」という理由で高めに設定される。日本で軽が支持される最大の理由である「維持費の安さ」は、イギリスに持ち込んだ瞬間に消えてしまう。

さらに文化的嗜好も決定的に違う。日本の軽は規格の制約から背が高い箱型フォルムを採らざるを得ない。だが欧州では、小さな車といえばVW・ポロやルノー・クリオのようなハッチバック、あるいはクロスオーバーSUVが主流だ。スズキ・ワゴンRやホンダ・N-BOXのような「小さいのに四角い」デザインは、ヨーロッパ人の目には「配送業者が使う商用バン」にしか映らない。デザイン的に安っぽく見える時点で、家族用のファーストカーとして選ばれる可能性は限りなく低い。

つまり、イギリスでは「速度レンジが高すぎる道路事情」「税制と保険料の不利」「デザイン嗜好の不一致」という三重苦が、軽の普及を徹底的に阻んでいるのだ。

個人輸入を可能にする「裏」の仕組み

本来イギリスで買えないはずの2代目キューブ

それでもロンドンの街角で見かける軽は確かに存在する。それは正規ディーラー経由で手に入れた車ではない。公式統計で「ゼロ台」とされるにもかかわらず現実に存在するのは、輸入の壁を越えるための「裏」の仕組みが働いているからだ。