「主体性育む」と小中学校で広がる「自由進度学習」 理念倒れに終わらない成功ポイント

自由進度学習を導入した理科の授業では、生徒が自分のペースで課題を終え、教員が自作した学習ゲーム「消化吸収すごろく」に挑戦していた=7月、神戸市長田区の長田中学校

教員が一方的に教える従来の授業スタイルではなく、子供たちが自分のペースで学習を進める「自由進度(自己決定型)学習」を導入する学校が増えている。学習内容や方法を自ら決めることで、学力だけでなく主体性も磨かれるとされ、注目を集める。専門家は「きちんと環境を整備して取り組めば確実に効果がある」と広がりを期待するが、一体、どんな教育方法なのか―。

グループで意見交換しながら課題に取り組む長田中学校の生徒ら。室内には教員自作の体験課題や学習ゲームもある

「『個で学ぶ』を大切にしてください」。7月中旬、神戸市立長田中学校の2年の教室で、持田樹教諭が生徒に呼びかけた。

同校は昨年7月から理科の授業に自由進度学習を取り入れている。この日は「動物の行動の仕組み」を学ぶ単元で実施。事前に課題となるプリントを持田教諭が配布しており、生徒は計6時間の授業時間内に各自のペースで課題を進める。

時間配分や解く順番などは自由。生徒はタブレットで自身の授業計画を確認し、多くが教室を出ていった。教室だけでなく、廊下や多目的室なども「学びの場」として使える。

多目的室には顕微鏡などの実験器具が並び、教員が自作した学習用のすごろくなど生徒の興味関心を呼ぶ工夫を凝らした教材も配置している。課題のプリントを他の生徒と意見交換しながら進める生徒や、プリントを早々に終えて学習ゲームに挑戦する生徒も。動画学習をしたり、見守っている教員を呼び止めて質問したりする姿も見られた。

同校では昨年10月に国語、社会、音楽の授業にも自由進度学習を導入。1つの授業時間に複数の科目を扱う「合科的自由進度学習」も取り入れている。

持田教諭は「個々の生徒で学ぶペースはちがうが、一斉授業では対応できない。自由進度学習ではそれぞれのペースに合わせて学びを深めることができる」と説明。同校の松村唯史校長は「これまでは子供たちが失敗しないようレールを敷いているような面があったが、変えていきたい。自由進度学習では当然失敗も起こりえるが、やり直す時間もある。そして失敗も学びになる」と強調する。

課題を終えて教員が自作した学習ゲーム「感覚器官カルタ」に取り組む長田中学校の生徒。疲れたら反応が遅くなるかを体験しながら確かめられるゲームという

重視される「個別最適な学び」

現行の学習指導要領を踏まえた中央教育審議会の令和3年の答申では、「令和の日本型学校教育」として、「個別最適な学び」を掲げた。新型コロナウイルスによる臨時休業や、学校現場へのICT教育導入など時代の変化に伴い、主体的な深い学びの実現や、個に応じた指導の充実を図る内容。自由進度学習はこの方向性に合致した教育のあり方でもある。

すでに取り組みを進めている学校もある。

広島県廿日市市の市立宮園小は令和2年9月に導入。「自分を育て、みんなで伸びる」を教育目標とし、専門家に相談しながら全学年で年間70~80時間程度を自由進度学習にあてる。教員の説明中心の「直接指導」ではなく、空き教室を活用して児童の体験を重視した「学習コーナー」を設けるなど「間接指導」に力を入れてきた。

当初は教員の間で教材準備への不安もあったが、年々蓄積されることで作成の負担は少なくなっているという。同小の向井畑透校長は「子供たちが、わからなくても何とかしようと粘り強く最後まで自分で考えるようになった。これは将来にも役立つ力。現場の教員も確かな手応えを感じている」と話した。

愛知県東浦町では半世紀近く前から個別化・個性化教育を実践している。現在は町内の7小学校と3中学校のすべてで自由進度学習を導入。総授業数の1~2割程度は子供が主体的に取り組む時間に充てている。

授業が合わない生徒が半数越え

学習指導要領では平成元年以来、「個に応じた指導」は総則に掲げられてきたものの、取り組みは局所的なものに留まってきた。

文科省による義務教育に関する令和5年の調査では、現在の授業を「難しすぎると思うか」との問いに「あてはまる」と答えた小学4年の児童は28・2%。逆に「簡単すぎる」との回答は27・3%で、双方を合わせると半数を超えている。

上智大の奈須正裕教授(教育方法論)は「授業内容がわかるために『待たされている子』と、わからずに『せかされている子』が教室の半数を超えている。一斉授業のペースに合わない子供は学びを深めさせてもらえていない」と現在の授業の問題点を指摘する。

そのうえで「自由進度学習は個々の『考える時間』を保証する。教えるべきことを教え、子供にしっかり任せれば自己調整能力は伸び、学力のばらつきも縮まっていく。学校側が教材などの学ぶ環境を整え、正しく取り組むことが大切だ」と話した。(地主明世)