世界陸上マラソンは「周回コース」、かつては「単純往復」も…東京を駆け抜けた42・195キロの変遷をたどる
陸上の世界選手権(世界陸上)東京大会は9月13日に開幕する。国立競技場を発着するマラソン競技は女子が14日、男子が15日の午前7時30分にスタートで、都内の観光名所を巡りながら1周13キロのルートを2周する一部周回コースで行われる。首都東京では世界選手権が前回行われた1991年を含めてこれまでに多くのマラソン大会が実施され、名勝負が生まれてきた。記憶に残る大会に注目し、コース図とともに東京の42・195キロの変遷をたどる。(編集委員 千葉直樹)
1964年東京オリンピック

まずは1964年の東京オリンピック。日本が戦後20年足らずでたくましく復興した姿を世界に発信した大会だった。マラソンはまだ男子だけが行われていた時代で、コースは国立競技場(東京都新宿区)を発着点に、新宿駅から甲州街道を西にひた走り、調布市飛田給(現・味の素スタジアム前)で折り返し。
時は高度経済成長の真っただ中で、急速に増加する車の数に道路整備が追い付かず、首都の道路交通は過密で行き詰っていた。そんな中で決定したのが甲州街道を往復するルートだった。「第18回オリンピック競技大会公式報告書(64年、大会組織委員会編)にはマラソンのコース選定の理由が記されている。
「国立競技場が都心に近い市街地内にあるため、ここを起点、終点とするコースは、どの方向を選ぶにしても繁華街を通過せざるをえない。道路の一般交通がきわめて混乱している東京市街地をできるだけ避けて、すみやかに郊外に出られるコースを検討した結果、江戸時代からの街道である甲州街道が選ばれた」

1964年東京五輪のマラソン。大きな声援の中、調布市飛田給の折り返し点を通過する円谷幸吉選手(77番)ら(1964年10月21日)
道路幅が広くて歩道があり、舗装もされ、比較的平坦なコースとして選ばれたのが甲州街道で、調布市が折り返し点となったのは、国立競技場からの距離で決まった「偶然」だった。
折り返し点が置かれたのは、南側の旧街道と並行してオリンピック開幕の3年前にバイパスとして開通した新しい甲州街道の上だった。北側には米軍施設や住宅の「関東村」があり、当時、聖火ランナーを務めた人の話によれば、道路沿いには畑の中に倉庫、住宅が建っていたという。
1991年世界選手権東京大会

1991年、東京で前回に行われた世界陸上のマラソンでは、国立競技場を発着に、都心を抜けて南下する「平和島折り返し」コースが採用された。2006年まで行われた東京国際マラソン、08年まで行われた東京国際女子マラソンと同じコースで、国立競技場をスタートして四谷見附、水道橋、日比谷を経由し、第一京浜を南下して泉岳寺、品川、青物横丁から平和島口の大森海岸交番前(大田区)を折り返し、復路は往路を逆にたどって国立競技場に戻るルートだ。
それ以前に東京で行われていたマラソンでは、往路が国立競技場から赤坂見附を通り、西新橋から日比谷通りに入って平和島へ向かっていたが、途中から往路も四谷、水道橋を通るルートに変わり、91年世界選手権でも使われた。
序盤は下って、終盤は上る、いわゆる「四谷の坂」は、21年東京五輪、25年世界陸上とはルートが少し異なるが、勝負どころの復路の難所であったことには変わりなかった。男子で優勝した谷口浩美は、上りの最もきつい残り4キロ付近でラストスパートすると、独走態勢を固めて逃げ切った。
2021年東京オリンピック・パラリンピック

コロナ禍で1年延期となった2021年東京オリンピック・パラリンピック。五輪のマラソンと競歩は、8月の暑さ対策を理由に、会場が札幌市に移転となり、異例の経過をたどった。コースは新装の国立競技場を発着点として都内の名所を回るルート。組織委員会は国際陸上競技連盟から「東京を象徴する場所を経路に入れてほしい」との要請を受け、東京スカイツリーや浅草、銀座、東京タワーなどの名所が視界に入り、都内の7つの区を通るコースが作られた。最高点は序盤と終盤に通過する四谷4丁目(新宿区)の標高約34メートルで、序盤と終盤のアップダウンのほかはおおむね平坦なコース。最終的には、風光明媚な皇居外苑エリアの距離を少し伸ばして決定した。
パラリンピックで使用されたコースで日本マラソン陣は視覚障害T12で道下美里が金メダルを獲得するなど、メダル3つと活躍した。札幌に移転したコースでは変則的な周回方式が採用された。
東京マラソン

ニューヨークやロンドンに並ぶような大都市マラソンを目指して2007年から始まった東京マラソンはコースが何度か変更され、21年からは都庁スタート、東京駅前・行幸通りにゴールする現在のコースで行われている。
当初は都庁前を出て、有明の東京ビッグサイトでゴールするルートで行われていたが、17年からは隅田川にかかる蔵前橋を渡って両国、門前仲町を経て深川・富岡八幡宮で折り返すルートに変更された。
東京マラソン財団のデータによると、近年の出走者数はコロナ禍の年を除いて3万5千人を超え、24年までの累計参加者数は55万人余りに達した。トップランナーと市民ランナー、車いすランナーらが参加する世界規模の市民マラソンに成長した。
2025年世界選手権東京大会

世界陸上マラソンは「周回コース」、かつては「単純往復」も…東京を駆け抜けた42・195キロの変遷をたどる
2025年の世界陸上選手権のコースは国立競技場発着で、23年10月に行われたパリ五輪代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」と重なる部分が多いコースだ。
国立競技場をスタートして、外苑西通りから富久町西(新宿区)を右折して靖国通りへ。外堀通りを経由して東京ドームを見ながら神保町へ。そこから秋葉原、日本橋、銀座、東京駅などを巡る1周13キロの周回コースを2周するのが大きな特徴だ。
競技の国際統括団体であるワールドアスレチックス(世界陸連)は近年、周回コースを推奨する傾向にある。五輪では2012年ロンドン大会で初めて周回コースが初めて採用され、16年リオデジャネイロ大会もカーニバル会場を発着点として海岸沿いを3周するコースだった。21年東京五輪マラソンの移転先となった札幌市のコースも周回だった。
今回の世界陸上の周回コースには1周あたり3度の折り返し(秋葉原、銀座4丁目、東京駅中央口)がある。周回を終えて神保町から帰路の終盤戦に入り、37キロ付近から40キロ付近まで続く上り坂が勝負どころとなりそうだ。