女性に抱きつき逮捕され、大手メディアを懲戒解雇に 困難極めた再就職と「前科者の社会復帰をどう支えるか」の重い問い

罪を犯したり、勤務先を懲戒解雇になったりした人たちが再就職をするのは容易ではない。再犯の心配もある。それでも続く人生をどうすべきか。自らも逮捕・懲戒免職の過去を持つ中村元さんに話を聞いた。
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「エントリーシートに『懲戒解雇』と書いたら、すべての企業で書類選考すら通りませんでした」
そう話すのは、中村元(げん)さん(38)。
早稲田大学を卒業し、大手メディアに就職した。成果を上げ、同期の中でもトップクラスの評価を得て、いわゆる「エリート人生」を歩いていた。だが2017年秋、30歳の時に酒に酔って女性に抱きついたとして逮捕された。逮捕時に全国ニュースで実名報道もされた。裁判で執行猶予付きの有罪判決を受け、17年末に会社を懲戒解雇となった。
仕事、社会的信頼、将来、すべてを失った。自業自得であることは分かっていたが、現実を受け入れられず 「このまま地球ごとなくなってしまえば」とすら思った。
妻と幼い子どもがいた。離婚も覚悟したが、妻は「家族だから」と支えてくれた。家族のためにも一日でも早く働かなければと、解雇された翌月から再就職活動を始めた。
■転職サイトが突然、利用停止に
しかし、「前科者」に対する社会からの風当たりは、やはり厳しかった。
前科の事実を伏せて書類を出せば、面接には辿り着ける。しかし、面接で事実を打ち明けると、もれなく不採用の通知を受けた。そこで、エントリーシートに「懲戒解雇」と書いて応募すると、書類選考ですべて落とされたのだ。
ある転職サイトでは、ある日突然、前触れもないまま利用停止になった。ハローワークでは「前科者向けの求人があるにはあるが、ブルーカラーの肉体仕事しかなく、あなたに向いているとは思えない。自力で就活したほうがいい」とはっきり言われた。
24年版の「犯罪白書」によれば、23年の刑法犯の検挙人数は約18万人。行き場のない前科者が孤立し再犯することがないよう、国は元受刑者・少年院出院者らの社会復帰支援を進めている。元受刑者らを受け入れる「協力雇用主」と呼ばれる企業も増えている。ただし、それらはあくまでも刑務所・少年院を出た人向けの支援であり、中村さんのように執行猶予になる人や、不起訴で終わるケースは想定されていない。

■わいせつ行為や性犯罪の前歴は再就職がより困難に
職種にも偏りがあり、ホワイトカラーや専門職の受け皿は乏しい。とりわけ、わいせつ行為や性犯罪の前歴は、社会的な不安や企業の風評リスク回避の観点から、再就職のハードルがより高くなる可能性がある。「犯罪白書」(15年版)によると、性犯罪の有罪確定後、5年以内に性犯罪で有罪確定した人の割合(再犯率)は13.9%。これに対して傷害・暴行は29.4%、窃盗は28.6%と、罪状別では性犯罪以外の再犯率がより高い傾向にあるが「性犯罪=再犯」という認識の広がりもあり、当然、世間の目は厳しくなる。
中村さんは、「大前提として、法律を犯した人間を積極的に雇いたいと思う会社なんてあるわけがない」と言う。
「仮に面接官が人柄や能力を評価したとしても、社内の不安や取引先からの信用低下などを懸念し、不採用にする企業が多いのは当然のこと。公務員や大企業社員など社会的ステータスの高かった人ほど罪の重さにかかわらず実名報道されやすい傾向もあるため、社会復帰へのハードルの高さが刑事罰の大小と比例しないのも感じています」

■ブログに綴った再就職までの道のり
中村さんは、書類の書き方や面接での回答、事件の伝え方などあらゆる面で試行錯誤を重ねた。ただ、事件のことを隠すことは一度もせず、すべて面接で正直に打ち明けたという。
こうして36社に応募した末、再就職活動を開始してから約1カ月後にWEBマーケティング系のベンチャー企業に、正社員として再就職することができた。前職での実績を評価されたことに加え、前科を隠さず誠実に向き合った姿勢や、仕事を通じて社会貢献していきたいという熱意に期待をかけられての採用だった。
収入は前職より約4割ダウンした。それでも、培ってきた知識を生かし、がむしゃらに働いて成果を出し、やがて社内でも重要なポジションを任せられるほど信頼を勝ち得ていったという。
再就職後の18年末、ブログ「ぼくだからできること。」を開設し、逮捕から再就職に至るまでの経験をつづった。批判されたらすぐに閉じようと思っていたが、似たような境遇の人やその家族から「生きる希望をもらった」「絶望から前を向けるようになった」などの声が多数寄せられた。
■社会が前科者を拒絶するのは「自然な反応」
こんな自分でも、世の中の役に立てるのかもしれない――。
自らの恥ずべき経験を生かし、必要としてくれる誰かの役に立ちたいという思いが湧いてきた。23年6月に独立し、前科者や経歴に“ワケ”専門的な知識も身につけた。相談はZoomを使い、マンツーマンで行う。全国から相談が寄せられ、これまで延べ300人以上が利用。多くは逮捕歴や前科がある人、懲戒解雇などの経験者だ。
伝えるのは、まず大前提として、事件から逃げずに過ちと向き合い、絶対に再犯しないと誓うこと。面接でも包み隠さず事情を説明できるようにすること。その上で自身の特徴や強みを生かした職業について考え、面接や書類で最大限アピールできるようトレーニングを積んでいく。個別コンサルティング利用者の約9割が、過去のスキルや経験を生かしホワイトカラーの企業に再就職しているという。
中村さんは、「社会が前科者を拒絶するのは自然な反応」と言う。
「しかし、死刑や無期懲役以外は必ずいつか社会に戻ってきます。そうした人たちを排除すれば、行き着く先は自ら命を絶つか、失うもののない『無敵の人』となって他人に危害を加えることになりかねません。そうなれば、社会全体の不幸につながってしまうと考えています」

■仕事がないことが再犯の引き金に
「犯罪白書」(23年版)によると、刑務所を出た後、22年に再入所した8180人の約7割が無職だった。仕事がなく、経済的困窮に陥ることが、再犯の引き金になりやすいとされる。
中村さんは、過ちを犯した人たちの社会復帰が難しいのは当然であり、自業自得であることに変わりはないという。だから、前科者を無理に受け入れてほしいのではなく、前科者が存在する現実を社会が正しく認識してほしいと訴える。それが、新たな被害者を生まないことにつながる、と。今後は警察やハローワークなどと連携し、インターネットを利用しない人たちにもサービスを届けるなど、より多くの人がサービスを利用できる体制を築いていきたいと話す。
「過ちを認めて更生したのであれば、その人たちを排除するのではなく“生かしていく”ほうが賢明だと思うのです。人生を諦めることなく前を向き、新しいキャリアの中で活躍してもらうことが企業の成長や経済活動の活性化につながるものだと信じています」
罪を犯した人々の社会復帰をどう支え、新たな被害者を生み出さないようにするか。社会は難しい課題をつきつけられている。
(AERA編集部・野村昌二)