工事中に破損事故?「終活アパート」建設で知った「外国人労働者」の現実

建設業でも外国人労働者が貴重な戦力に

厚生労働省が2025年1月に発表した「外国人雇用状況」の届け出まとめのデータによると、2024年10月までに建設業に就いた外国人労働者は17万7902人。4年前の2020年は11万898人で、2023年は14万4981人と右肩上がりに増えている。人手不足の日本で、貴重な労働力となっているのだ。

作家の町田哲也さんは、76歳の母がひとりで暮らす実家が傾いていると気づき、終活のために土地を購入してアパート建設をすることを決めた。土地探しや金策をクリアし、着々と進めていく中で、直面したのが「どのようなアパートを作るか」という問題だ。間取りのことだけではなく、気候変動が進む昨今、脱炭素対策も重要となる。大手ディベロッパーのCMでも知られるようになった「ZEH(ゼッチ/ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」を作るためには、補助金が出るといっても十分ではない現実があった。

太陽光パネルの設置は補助金が出るとしてもさらに1000万円近く予算が上乗せになる計算で断念。せめて持続可能な街づくりに貢献をしようと考えていた矢先、現場監督から一本の電話が入る。

工事中の破損トラブル

田尻さんから電話があったのは、1階からはじまった床の設置工事が、2階にさしかかったころだった。床の設置工事をする業者が、隣家との境界にあるブロックとフェンスを破損してしまった。先方にすぐに謝罪したものの、子どもしかいなかったので再度説明に行く必要があるという。

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周囲の環境を調べる際に、ぼくも事前に近所の家は把握していた。まだ建ててから10年程度の家だ。これからも近所つき合いは長く続くだろう。翌日は、ぼくも現地を見に行くことにした。

「ここですか?」

工務店から挨拶に来たのは、田尻さんの部下だった。突然の事故だったため、田尻さんにはすでに予定が入っており、この日はどうしても動けないという。スーツ姿に菓子折りを抱えた若者が、思い詰めた表情で立っている。

「ブロック塀が傾いてしまいました。放置するのも危険なので、許可をもらったうえで壊れた部分は外しています」

地面にはブロックの塊が立てかけられていた。ブロックについていたフェンスも切断されている。ケガ人が出なかっただけでも、不幸中の幸いといえるかもしれない。

「電話でも謝罪したのですが、元どおりに直せばいいとはいっていただいています」

工事をしていたのは、外国人の作業員だ。外国人だから事故が起きたわけではないが、その後のフォローを考えると、謝罪したというものの細かいニュアンスまでうまく伝わったか不安がある。直接工務店の方が話してもらえるのは安心感があった。

ぼくたちが話している姿を、数人の作業員がじっと見ている。ぶつけてしまった作業員が、成り行きを見守っているのだろう。不安そうな表情が気になって、ぼくから声をかけてみた。

「どこから来たんですか?」

「フィリピンです」

思った以上にはっきりとした発音だ。「日本語が上手ですね」というと、緊張感が解けたのか、4人ともヘルメットのしたに笑顔を見せた。

家族を呼び寄せるのが夢

陽気な性格なのは、表情を見ればわかる。フィリピン人スタッフばかりが働く、同じ会社から派遣されているという。一番年長は67歳のサミュエルで、日本で働いて20年のベテランだ。リーダー格が44歳のロメールで、日本に来て9年になる。次に37歳のエルメーロで、日本は5年目。一番若いのが34歳のホセリーノで、まだ2年目だという。彼らはほとんどが、会社がある埼玉県に、共同で暮らしている。

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彼らはもともと、入国してもビザが有効な3年間しか働くことができなかった。3年間働いた後は、一時的にフィリピンに戻って再度日本に来るというローテーションを繰り返していたが、東京オリンピックを機にビザが5年に延長。それ以来、フィリピン人の出稼ぎが増えたという。

彼らが日本で働くことを選ぶのは、賃金がいいからだ。同じ仕事をしても、フィリピンの7倍は稼げる。テストさえ通ればいいので、ビザの延長に面倒はない。フィリピンにいる家族をいつか呼び寄せるのが夢だという。

悩ましいのは、為替と物価の上昇だ。円安が進んだことで給料が目減りし、物価上昇は生活費に大きく響く。外食や買い物をしていれば金がなくなってしまうので、毎日食事は自炊だ。お米を炊いて、豚肉や鶏肉や卵をおかずにする。弁当も毎日、各自で作って持ってきていた。

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「ダイジョウブ? ダイジョウブ?」

話している間も、彼らはブロック塀を気にしていた。こんな事故を起こしたのは、はじめてだという。できればずっと今の職場で働きたいのだろう。外国人に限らず、こういった雇用の場を提供することも、アパート建築の社会的な価値なのかもしれなかった。

「中間検査」の立ち合い

田尻さんより中間検査への立ち合いを依頼されたのは、1月末のことだった。3階建て以上の集合住宅は東京都の検査を受ける必要があり、全体の骨組みができた段階で中間検査が実施される。書類を見ながら建物を確認していく流れで、30分程度の予定だった。

検査官は一人。民間の会社に委託されており、田尻さんも何度か担当してもらったことがあるという。細かく確認するタイプの検査官で、建物に問題はなかったが、隣地との塀について指摘がいくつかあった。

一つは南側の敷地との間にあるブロック塀で、今まで意識して見なかったが、2メートル以上あるブロック塀が道路にはみ出ている。セットバックするうえに高さを削る必要があるという。入り口は景観に大きく影響するだけに、注意が必要な部分だった。

もう一つは西側の駐車場との境界で、フェンスとブロックがかなり古く、すでに壊れている部分もある。こちらもセットバックしたうえで、修繕する必要があった。田尻さんにすると、事前の想定の範囲内だという。すでに対策はできているという言葉が頼もしかった。

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地元の不動産屋にどう受け止められるか

駅に帰る道すがら、ぼくは不動産屋さんに立ち寄ることにした。新しいアパートがどう受け止められるかを、自分で確認しておきたかった。

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この街を30年以上見ているという不動産屋のおじさんは、今一番ニーズがあるのは1LDKや2LDKだといった。1Kは、収益性はいいかもしれないが、供給も多いので部屋がすぐに埋まらない可能性があるという。

夫婦や家族で住むには40平米くらいが一番よく、家賃は10万円ほどではないかという。少し安いというのが、ぼくの実感だった。もう少し高くしないと収益性に合わない。どうすれば価格に見合う価値を見出すことができるか。単なる不動産事業ではなく、アパートという商品の価値を高めるための戦いでもあった。