警察犬の常識変えた“ハイブリッド犬”イルミナ号追悼 「人間ができないと思い込んでいただけだと気づかされた」

2025年2月に息を引き取った警察犬イルミナ号。“警察犬の常識”を覆したといわれています。「人間ができないと思い込んでいただけだと気づかされた」。臆病な性格で警察犬としての適性を疑問視されたイルミナ号を見捨てず、その才能を引き出した相棒の警察官に話を聞きました。

■“警察犬の常識”を覆した警察犬イルミナ号

警察犬慰霊祭 日テレNEWS NNN

「(亡くなった警察犬は)鑑識課員の一員として全力で職務に取り組んでいただきました。それに深い感謝の意をこめて、今日は追悼させていただきました」

2025年9月23日、東京・板橋区では、「警察犬慰霊祭」が行われました。警視庁の鑑識課長ら28人の警察官が、警察犬299頭をまつる慰霊碑の前で黙祷を捧げました。

警察犬イルミナ号 日テレNEWS NNN

黒い毛並みのラブラドール・レトリーバー、警察犬イルミナ号。今年2月、引退後に引き取られた警察官のもとで息を引き取り、埋葬されました。

イルミナ号は警察犬として、117件の現場に出動。その嗅覚で、ある時はスーツケースに隠された拳銃と実弾を見つけ、またある時は、倉庫に隠された大麻を発見。

引退までに警視総監賞2件、刑事部長賞3件、鑑識課長賞4件、警察署長賞10件と数多くの賞を受賞した「名警察犬」でしたが、それだけではなく“警察犬の常識”を覆した犬でした。

■「警察犬として活躍できるのか?」臆病だったイルミナ号

警視庁鑑識課 吉野警部補 日テレNEWS NNN

「まだ1歳半だったイルミナ号を引き取りに行ったら、隠れてしまった。臆病な子で人と会うとおしっこを漏らしてしまう。この子は警察犬として活躍できるのだろうかと思った」

そう語るのは、警視庁鑑識課警察犬係の吉野公佳警部補(54)。これまで通算20年、キャリアの半分以上で、警察犬係を担当してきた“プロフェッショナル”です。

プロの目から見て、臆病な性格だったイルミナ号について、当初は警察犬としての適性を疑問視していたといいます。

「彼女は引き取られる前は『らら』と呼ばれていたんですが、実は私の長女も同じ名前で。娘と同じ名前でかわいいというか、愛着がわいてきて」

その愛着からか連日交番に一緒に立ち、まずは人に慣れる訓練をしました。

「交番の訓練で人に慣れさせ、室内が苦手だったので屋外活動の行方不明者の捜索を一緒にして、1年くらい向き合っていくうちに臆病な子ではなくなってきました。知らない人や場所を気にしなくなり、『探す』という気持ちが強くなっていったんだと思います」

現場で活躍するイルミナ号の姿を見て吉野警部補は、ある思いを抱きました。

「イルミナ号は薬物や銃器のにおいも覚えられるのではないか…」

■“犬は複数のにおいは記憶できない”という常識

当時の“警察犬の常識”、それは「犬は複数のにおいは覚えられない」というものでした。

現場でひとつの物のにおいを嗅がせて探したり、事前に銃器など特定のひとつの物のにおいを覚えたり…。「行方不明者捜索」「薬物捜索」「銃器捜索」は特別な技能で、ひとつの分野に特化して訓練を繰り返し、その専門の警察犬として活躍していました。

イルミナ号は「行方不明者捜索」を専門にしていましたが、吉野警部補は、上司に複数のにおいを覚えさせてみることを提案。しかし、上司は「犬はそこまで万能じゃない、複数のにおいは記憶できない」と提案は却下されてしまいました。

諦め切れない吉野警部補は後日、別の上司に改めて提案すると、その上司は「やってみろ」と背中を押してくれました。

吉野警部補と一緒に訓練を重ね、人や新しい場所に対する恐怖がなくなったイルミナ号は、「薬物捜索」「銃器捜索」の検定にも合格。“犬は複数のにおいは覚えられない”という当時の常識を覆し、“ハイブリッド警察犬”が誕生した瞬間でした。

■イルミナ号が教えてくれたこと

「ここまでできるんだって勉強させてもらった。イルミナが特別というわけではなく、人間がやってみなかったから『できないと思い込んでいた』だけだった」(吉野警部補)

イルミナ号は警察犬の常識を覆すだけではなく、警察官たちの“考え方”を変えてくれたと吉野警部補は話します。

「昔は、ひとつの分野を決めたら根性論で『これを探せ』というように強制的にやらせていたけど、今は、犬の適性をみて、犬に考えさせて導き出す。得意不得意をみて、その子にあわせて柔軟に対応する。どの子にも早く現場で活躍してほしいし、イルミナ号にみたいに途中で変わるかもしれない」

吉野警部補は、イルミナ号が警察犬の可能性の幅を広げてくれたと話していましたが、取材の終わりに、こうつぶやきました。

「犬は昔から変わらないけど、人間が変わったってことですね」

現在、警視庁鑑識課には30頭ほどの警察犬が所属、そのうちハイブリッド犬は5頭。吉野警部補ら警察犬係とイルミナ号の後輩たちは、今日も訓練を続けています。