「学部と修士を最短5年の一貫制に。文系も修士号を取得して、グローバルに」東京外国語大・春名展生学長【後編】

■学長インタビュー

50歳という若さで東京外国語大学の学長に就任した春名展生さん。これから東京外国語大学は何を目指し、どんな学びを構築していこうと考えているのでしょうか。春名学長が考える大学改革や、東京外国語大学の未来について聞きました。(聞き手=朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長、写真=今村拓馬)

AIにできない、人と人をつなぐ力

——AI(人工知能)によって自動翻訳が発達し、言語を学ぶ意義が問われつつありますが、外国語大学の学長としてどう考えていますか。

言語を学ぶ意義が揺らいでいるのは確かだと思います。ただ、機械に取って代わられる部分がどんなに大きくなっても、そうでない部分も常に残ります。例えば、国際交渉で相手を説得するには、相手の感情と向き合い、多様な価値判断をする必要があります。それは機械では難しいでしょう。機械では難しい部分が明確になったことによって、逆に人に期待される部分がかなり高度なものになっていると思います。いろいろな知識や経験を総動員して相手と向き合えるような高度なコミュニケーション能力が必要です。

——では、そのような能力を磨ける大学だということを、打ち出していく必要がありますね。

そうです。言い換えれば、それはさまざまな人と人をつなぐ力です。本学の学生は70%以上が卒業までに留学します。大学で言語や文化・歴史を学び、留学し、戻ってきて、その経験を生かして就職します。海外で何を学んでくるのかは、これまで個々の学生によるところが大きかったと思います。今後は、彼らが海外で培ったものをさらに洗練させ、実践的な力にすることを、大学がより自覚的に行っていくことが必要だと思っています。

——「実践的な力」とは、具体的にはどんな力ですか。

文化と文化、国と国をつなぐだけではなく、異分野の人ともつながれるような力です。例えば、地球の持続可能性を考えるなら、人文系の知識だけでも、工学系の技術だけでもできません。文理融合や産学連携など異分野横断的な経験を通して、越境しながら人と人をつなぐ。その力を教育の中に組み込むイメージです。教育期間も少し長くし、学部年ではなく、修士課程まで含めて最短5年にする必要があると思っています。

■学長インタビュー, AIにできない、人と人をつなぐ力, 修士号の取得がグローバル基準, 「第二の東大」は目指さない

春名展生学長

修士号の取得がグローバル基準

——慶應義塾大学の伊藤公平塾長も、文系の学部・修士5年制を提案しています。やはり4年では短いと感じますか。

具体的には、学部の最初の2年間は言語能力を含めて基礎を身につけ、3年目で1〜2年の留学、帰国後の1〜2年でPBL(Project Based Learning:問題解決型学習)的な教育を行う。つまり、柔軟性を持たせた形で学部修士一貫制にして、卒業時にはみんな修士号を持つ形が望ましいと思っています。

本学には海外で就職する学生が結構いますが、海外で少し高度な知識労働や国際機関の仕事をしようと思ったら、修士号が必要です。それがグローバル基準です。日本では、工学系はともかく、人文系はほとんど学士号だけで就職しますよね。日本人学生も修士号取得を目指さないと、グローバル化の中で太刀打ちできなくなると思います。

しかし、日本では逆に就職活動が早期化しています。学部修士一貫制は社会的な理解が得られないと実現できないので、その方向に東京外国語大学を変えたいのだといろいろな場でアピールしています。

■学長インタビュー, AIにできない、人と人をつなぐ力, 修士号の取得がグローバル基準, 「第二の東大」は目指さない

朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長

「第二の東大」は目指さない

——2025年7月に東京外国語大学と東京科学大学、一橋大学の三大学連合に、お茶の水女子大学が加わった「四大学未来共創連合」が発足しました。来年度は法人化も目指しているのですか。

これもまさに今後の社会を担えるような、幅広い知識と視野、しなやかな思考力を持った人を育てるための連合です。各大学が専門性を発揮しつつ、授業を共有し、コラボレーションしていこうというものです。

そして、大学にとっての利便性を高めるために法人化を考えています。共同で何かを行う場合、共同の組織がなければ、タスクや費用の分担を一から話し合わなければなりません。でも、共同の法人があれば、すべてそこに任せられます。利便性が高まれば、より新しいことが行え、関係も深められると考えています。

 ——四大学連合で「第の東大」を目指すのではないかという見方も一部ではありますが。

第二の東大は目指しません。各大学それぞれの考えがあると思いますが、東京外国語大学としては、人文学的な知の社会的価値を上げることが使命だと考えています。いまのように先行きが不透明な時代は、どうしても理工系に関心が向きがちで、人文系の社会的評価はやや低迷していると思うのです。そういう時に総合大学の中に入ると、完全に埋没してしまいます。こんな時代だからこそ4つの大学の独立を維持しつつ、特色を出した連携をすることで、人文社会系の知の生かし方を多様に見せていくことが大事だと思っています。

四大学未来共創連合の英語名称は「FLIP(Future Leading Innovation Partnership)」です。

「flip」はひっくり返すという意味です。コインをひっくり返すような軽やかさがある一方、ひっくり返すというのは結構大胆なことなので、軽やかに大胆なイノベーションを起こしていくという意味を込めています。

——最後に高校生や保護者に、アドバイスをお願いします。

人生、そんなに計画通り行きません。だからこそ、まずは面白いと思うことに一歩踏み出してみてほしいです。すると自然と次にすべきことが見え、目標や課題が出てくると思います。大学側もそうした広い関心を持った学生を受け入れ、さまざまな選択肢を見せられるように、卒業後のキャリアを意識した教育を組み立てることが必要だと思っています。保護者の方々も、この変化の時代には、ご自身の価値観が維持されるとは限らないので、お子さんの自由な発想をとにかく温かく見守ってあげてほしいと思います。

>>【前編はこちらから】国立大学最年少、50歳の東京外国語大・春名展生学長「若いので、失敗したら怒られる。だからこそ挑戦したい」 

■学長インタビュー, AIにできない、人と人をつなぐ力, 修士号の取得がグローバル基準, 「第二の東大」は目指さない

(写真=今村拓馬)

<プロフィル>

春名展生(はるな・のぶお)/東京外国語大学学長。1975年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2015年、東京外国語大学大学院国際日本学研究院講師、18年、同准教授、21年、同大国際日本学部学部長補佐、23年副学長、24年教授。2025年4月に学長に就任。専門は国際政治学、日本政治外交史。

(文=小元佳津江、写真=今村拓馬)