ミリ単位で衛星との距離を測定–JAXA開発の反射器、技術情報が民間企業にスピンオフ

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めてきた衛星レーザー測距(Satellite Laser Ranging:SLR)用の汎用小型反射器「Mt.FUJI」の技術情報が民間企業にスピンオフされる。9月30日に発表した。

石敏鐵工(愛知県碧南市)、オオツカ(茨城県つくば市)、中村電機製作所(佐賀県佐賀市)の3社が、Mt.FUJIの開発で培われた技術を活用してSLR用小型反射器を供給する。3社が製造する反射器には「JAXA LABEL TECH」が付与される予定。

CE-SAT-IEに搭載されたMt.FUJI(出典:JAXA)

なぜキヤノン電子だったのか

JAXAは小型で安価、地球低軌道で汎用的に使用できるSLR反射器を2017年度から開発してきている。2018年前半に原型が出来上がっていたが、搭載する衛星がなかなか見つからなかったという(形状が富士山に似ていたことから「Mt.FUJI」と命名された)。

2023年度にJAXAの第一宇宙技術部門がMt.FUJIの担当とキヤノン電子をつないだことから、キヤノン電子の超小型衛星「CE-SAT-IE」に搭載することが決まり、2024年2月に「H3」ロケット試験機2号機で打ち上げられた。

その後、キヤノン電子とJAXAでSLR実験の調整を進め、SLRに挑戦した。2024年8月にJAXAの筑波宇宙センターになるSLR局であるつくば局でMt.FUJIからのリターン取得に成功した。複数にわたってSLRに挑戦し、問題なくリターン取得に成功。得られたデータを解析することで、CE-SAT-IEに搭載された衛星測位システム(GNSS)受信機の性能を評価することにも成功したとしている。

つくばSLR局からCE-SAT-IEにレーザーを照射。波長532nmの緑色のレーザーを使用しているため、肉眼でレーザーが視認可能と説明。このときのCE-SAT-IEまでの距離は約1100kmという(出典:JAXA)

アメリカに頼らずに精密に軌道を把握

Mt.FUJIに限らずSLR用反射器は、精密軌道決定ツールとして有益と説明。宇宙ゴミ(スペースデブリ)問題に活用できないかとJAXAは考えている。

衛星やロケットといった宇宙機は、ミッションが終了すれば必ずスペースデブリにならざるを得ない。スペースデブリは自発的に信号を出さないため、軌道を把握するのは困難であり、通常、米国が公開する「Two-Line Elements(TLE)」形式の軌道情報でしか把握できなくなる。

しかし、SLR用反射器があらかじめ取り付けられていれば、デブリとなった後も地上からの視認性を確保でき、米国の情報と独立した形で精密に軌道を把握することが可能になる。特に、地球への再突入直前に正確に軌道を把握できることは、リスク管理の視点で有益という。

運用中の衛星や運用が終了した衛星などの位置や軌道などを把握する「宇宙状況把握(Space Situational Awareness:SSA)」の担当部署としてJAXAは、多くの宇宙機がSLR用反射器を標準装備するようになってほしいと願っていると説明している。

新補給船「HTV-X」で世界初に挑戦

Mt.FUJI搭載を最初に決断したミッションは、JAXAが開発した、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ新補給船「HTV-X」という。HTV-Xが打ち上げの順番を待っている間に、Mt.FUJIの搭載を決めたCE-SAT-IEが先に打ち上がり、HTV-Xより先にMt.FUJIを軌道上に運んだ。

こうした経緯からHTV-Xは、Mt.FUJIを利用して単なる軌道決定ではなく、姿勢を推定することにも挑戦する。運用中の宇宙機を活用したSLR用反射器を利用した姿勢推定実験は、世界初の挑戦になる(Mt.FUJIを搭載するHTV-Xの1号機「HTV-X1」は「H3」ロケット7号機で10月21日に打ち上げられる予定)。

スペースワン(東京都港区)による「カイロス」ロケット3号機で打ち上げられる予定(打ち上げ日は未定)、テラスペース(京都府京田辺市)の70kg級超小型衛星「TATARA-1R」もペイロードとしてMt.FUJIを搭載する。

なぜ必要なのか

民間企業による宇宙利用が進み、地球を周回する軌道(特に低軌道)は混雑も進んでいる。そのため、宇宙の状況を正確に把握し、軌道上での衝突を減らすことが国際的な課題となっている。SSAの把握手段としてレーダーや望遠鏡が活用されているが、それに続く第3の手段としてSLRが注目されている。

SLRは、衛星に取り付けられた反射器に向けて、地上のSLR局からレーザーを照射して、反射して返ってきた光を検知するまでの時間を計測することで、SLR局と衛星の距離をミリメートルの単位で測定するシステムとJAXAは説明する。

これまでのJAXAのミッションでSLR反射器は、海外で製造された「衛星ミッションごとの特注品」が使われてきた。特注品であることから「高い、大きい、重い」というデメリットがあったという。そのため、SLR反射器を搭載する大学や民間企業は多くなかったと説明している。

JAXAが開発したSLR反射器のMt.FUJIは、役割を低軌道用に特化させることで「安い、小さい、軽い」を実現したものになると表現する。JAXAはより小型の「mini-Mt.FUJI」の開発も進めている。

LEOに特化したMt.FUJIは、入ってきた光(入射光)を来た方向に再帰反射する特殊なプリズム「CCR」(Corner Cube Reflector)を7個積んでいる。CCRは合成石英、Mt.FUJI全体はアルミニウムであり、Mt.FUJIは重さが260g、直径が112mm。高度800kmまでに対応できるという。mini-Mt.FUJIでは、CCRは同じ7個だが、重さは55g、直径は62mmを目指している。対応高度は500kmまで。

Mt.FUJIとmini-Mt.FUJIの仕様(出典:JAXA)

関連情報

Mt.FUJIプロジェクト