車体に開けられた四角い穴…狙われる愛車、その対策で十分? 「まさか自分の家が」住宅もターゲットに、被害は深刻化

車体に四角い穴が開けられた男性の車=2015年7月、名古屋市
今年5月、愛知県警が名古屋市で開いた自動車盗難対策の実演会で、熱心に耳を傾ける50代の男性がいた。聞けば過去に2度、愛車のランドクルーザーを狙われたという。
1回目は2011年春。朝起きると駐車場から消えていた。その後、別のランドクルーザーを買い直した。
2回目は2015年夏、妻が夜中に外出しようとしたときのことだ。玄関の前に、あるはずのない自転車が置かれていた。開けるのに邪魔で、なかなか外に出られない。その隙に犯人は逃げたとみられる。車が盗まれることはなかったが、車体には四角い穴が開けられていた。内部の配線は焼かれ、修理に10万円以上かかった。
大金をはたいて購入し大切に整備してきた愛車が狙われる、そんなリスクが全国で高まっている。車だけではなく、安心できるはずの家も侵入・窃盗のターゲットになっている。鉢合わせした犯人に、危害を加えられるリスクもはらむ。大切な人や財産を守るためにはどうしたらいいのか。自動車盗や侵入盗の被害者に話を聞いた。(共同通信=渡辺敦、広部日菜)
▽捜査は困難、「自動車盗は高リターンの犯罪だ」

車を盗まれにくくする駐車方法を説明する男性=6月、名古屋市
自動車盗の被害は深刻化している。警察庁の統計によると、今年1~6月の認知件数(暫定値)は、昨年の同じ時期と比べて1・3倍の3821件となった。
トヨタ自動車のお膝元・愛知がワーストの639件(前年同期の1・5倍)で、埼玉479件(1・1倍)、神奈川396件(1・7倍)と続く。ホンダの発祥地・静岡は165件だが6・6倍に、長野は63件で2・9倍になるなど、大幅に増加した県もある。

組織的な犯行が多く、狙う車の物色、窃取、解体、売却など分業化されている。さらに、犯行グループは自動車メーカーのセキュリティーを研究し、手口は巧妙化している。現在は車の制御システムに侵入し、解錠やエンジン始動を行う装置「CANインベーダー」を使い、たった数分で盗むこともある。
盗まれた車はその後どうなるのか。警察関係者によると、盗難車の一部は周囲を鉄製の塀で囲った施設「ヤード」に持ち込まれ、不正に解体された後、海外に輸出される。愛知県警関係者は「自動車盗は現場に痕跡が残りにくく、盗品価値が担保されている高リターンの犯罪。運良く追跡できても既に海外へ輸出されているケースもある」と捜査の難しさを語る。
ある愛知県警幹部は、被害件数が増えている背景に、車の価格が国内外で上昇していることがあるとみる。「窃盗組織にとって、以前よりも利益が大きくなったのではないか。愛知はトヨタ自動車があり、『ランドクルーザー』や『プリウス』といった人気車種の保有台数が多く、交通網が発達していて搬送もしやすい」
▽対策は、一つだけでは不十分

防犯カメラと連動し、男性の駐車場を映すスマートフォン=6月、名古屋市
対策が多いほど盗まれにくくなるが、県警が今年1~3月の被害約200件を分析すると、6割以上が複数の防犯対策をしていなかった。記事冒頭で紹介した、愛車を盗まれた男性は、狙われた2度とも対策は警報装置だけだった。
今は愛車を守るため、スマホと連動する防犯カメラを2台設置。さらに、車を出しにくくするため、頭から入れてハンドルを切って駐車する工夫もしている。

カーセキュリティー機器について説明する加藤電機の加藤学社長=7月、名古屋市
カーセキュリティー機器を製造・販売する加藤電機の加藤学社長は「保安基準や電波法に違反する機器や、効果の薄い商品も出回っています。全国自動車用品工業会では、国土交通省や総務省と連携し、適法製品の登録制度を運用しているので、購入時の目安にしてほしいです」と注意を促す。
▽闇バイト強盗は本当に遠い出来事?1カ月に2度も窃盗被害に

住宅侵入盗の被害に2度遭い、防犯対策不備の後悔を口にする女性=2025年8月、愛知県内
「まさか自分の家が狙われるとは思ってもいませんでした」
1カ月の間に2度も住宅侵入盗の被害に遭った愛知県内の40代女性はこう振り返る。
1回目の被害は今年3月中旬。夫は仕事で使うコインケースが入ったカバンをリビングに置いていたが、ある日、入れていたはずの現金が消えていた。窓ガラスが割られた跡も、部屋が物色された様子もなかった。
「息子がやったのかも」と思い、息子に聞いてみた。「知らない」「違う。自分じゃない」と首を横に振った。
約2週間後、またケースから5万円ほどが無くなっていた。女性は警察に被害届を出した。警察は、第三者が住宅に侵入して現金を盗んだとみて捜査しているが、犯人は不明のままだ。
女性には思い当たる節がある。普段、出入りは掃き出し窓からすることが多く、夜間は鍵を閉めるが、日中の短時間の外出時は無施錠で出かけることが多かった。近年、首都圏で闇バイトによる強盗が相次いでいるのは知っていた。ただ、どこか遠いことのように感じ、防犯対策を講じることはなかった。
女性は後悔を口にする。「防犯意識が低かったです。気を付けないといけないとは思っていたんですが、普段は閑静な田舎で、そこまで強い危機感はなかった」
被害後は、家族が家にいても掃き出し窓や玄関の施錠を徹底し、室内にはカメラも設置した。
「犯人と鉢合わせしなかったのが、不幸中の幸いかもしれないです」と話すが「誰がやったのか分からないので、今でも怖さは残っています」と不安は払拭されない。
▽住宅侵入盗は過去5年で最悪の被害件数

住人が寝ている夜間に侵入する「忍び込み」や外出中を狙った「空き巣」などの住宅侵入盗の被害も全国で深刻化している。1~6月の認知件数(暫定値)は8898件で、過去5年の同じ時期を比べると最多となった。
ワーストは埼玉959件、千葉683件、茨城672件と首都圏が多く、愛知が665件で続いた。
被害の多くは無施錠や、ガラス破りといった手段で、侵入に気付いた住人を暴行する「居直り強盗」につながるリスクもある。
▽下見で家族構成や間取り把握の事例も

愛知県警などが作成した「住宅防犯ガイドブック」の一部。実際の押収品として、家族構成や間取りを記したメモが掲載されている。
侵入盗の犯人は、下見してターゲットを決めることもあり、水道業者やリフォーム業者を装って家族構成や間取りを聞き出すケースも確認されている。実際、侵入盗容疑者の関係先からは「夫50代、妻50代、娘20代」など家族構成が書かれたメモが押収された事例もある。
どのような対策を講じればいいのか。愛知県警生活安全部地域安全対策室の竹内優記室長は、こう指摘する。「戸締まりなど基本的な対策をすることで、多くの被害は防げる」
竹内室長が提唱するのは①音②光③目④時間の「防犯4原則」だ。具体的には、窓の開閉に反応する警報器や歩くと音が鳴る砂利、人を感知すると自動点灯ライトや防犯カメラ、侵入時間を稼ぐため窓が開く幅を制限する補助錠や防犯ガラスなどを挙げる。
「犯人と鉢合わせしたら、命に危険が及ぶ恐れがある怖い犯罪だ」と竹内室長は警鐘を鳴らし、防犯対策の徹底を訴える。「対策を複合的に組み合わせることで効果はさらに期待できる。そして、日頃から防犯意識を持つことが大切だ」

愛知県警がHPに掲載している「安全・安心マニュアル」の一部