攻殻機動隊から着想、「光学迷彩」を開発した稲見昌彦が感じた研究の醍醐味とは
大学へ進学し、趣味でロボットなどの開発に取り組み始めた東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦さん(53)。「好き」を極めていくなかで、次々とアイデアを形にし、世界中から注目される存在になる。(中高生新聞編集室 斉藤新)
言語の壁も越えて

稲見昌彦さん
「大学に入る前、ロボットの性能や技術を競う『ロボットコンテスト』という高専生を対象にした大会が始まりました。テレビで大会の様子を目にした時は、この道に進めばよかったと本気で悩みました。そんななか、大学生を対象にした国際大会が開催されると知り、仲間とともにアメリカ・ボストンまで足を運びました。
優勝はできませんでしたが、いろいろ発見もありました。海外の出場者たちが僕と同じようなロボットを作っていたり、VR(仮想現実)に興味を持っていたりと、共通点が多かったのです。英語は苦手でも、話しかけると不思議と意思 疎通(そつう) をすることができました。同じ専門分野であれば、言語の壁も越えられるということを身を持って知りました」
人生の転機となる発明のヒントは大学院の研究室で見つけた。

ロボコンの国際大会に出場するためアメリカ・ボストンを訪れた大学生の頃(右奥)
「大学院の博士課程で学んでいたとき、助手の先生から『私と議論をしたければこれを読んで来なさい』と、『 攻殻(こうかく) 機動隊』というSF漫画を手渡されました。主人公がマントを羽織ると、その姿が見えなくなるシーンに衝撃を受け、再現できないかと考えました。試行 錯誤(さくご) の末に開発したのが、マントに背景の映像をプロジェクターで投影することで、人が溶け込んでまるで消えたように見える『光学迷彩』でした。
SF作品からヒントを得ることは今もよくあります。この世界にないものを生み出しそれを最初に自分が体験できることが研究の 醍醐(だいご) 味。さらに、それが世に出て、多くの人に楽しんでもらえるのもうれしいです」
のび太は地球ではパッとしないけれど…
研究の成果で、みんなを楽しませたい――。そんな思いは、意外な活動にもつながっている。
「慶応大学大学院の教授をしていた頃、東京で五輪が開催されるというニュースを見たことをきっかけに、最先端の科学技術を駆使して身体の能力を高め、誰もが楽しめる新しいスポーツを作れないかと考えるようになりました。そして、2015年に仲間の科学者らと『超人スポーツ協会』を設立しました。

大学の学祭に向けて仲間とともに発表の準備をする稲見さん(左)
岩石を模したアームを装着してぶつけ合う『ロックハンドバトル』や、バネでできた短い竹馬のような器具を足に装着し、上半身にビニール製の透明な球体をかぶって、相撲のようにぶつかり合う『バブルジャンパー』といった競技を考案しました。年齢や性別に関係なく、誰もが『超人』になれる。体験会や大会には多くの方に参加していただき、最新の科学技術に触れてもらう機会にもなっています」
学生時代の経験から、中高生時代には、あまり環境やルールに 縛(しば) られないでほしいと考えている。
「子どもの頃は何か遊びをする時に、独自のルールを作ることがあると思います。ところが、例えば部活といった形になると、突然その競技のルールの中でいかに頑張るかという話になってしまう。大人になって会社で働く場合でもそうです。決められたルールのなかで頑張るということも、もちろん大切ですが、人間の能力は自分と環境の相互作用によって引き出されます。
『ドラえもん』の主人公のび太は、勉強も運動も苦手で地球ではパッとしません。でも、重力のない宇宙ではスーパーマンのような活躍を見せます。読者のみなさんも、もし今の環境に悩んでいるなら、自分に合う環境を探してみてほしいです。そのなかで、自分自身の手で何かを成し遂げるという体験は、どんなに技術が発展してもなくならないと思うので、大切にしてほしいですね」 (おわり。次回は参議院議員でAIエンジニアの安野貴博さんです)