クマ被害の死者“過去最多” 新制度“緊急銃猟”…現場には戸惑いも 「人命最優先で駆除」なのに抗議…ハンターのやりきれない思い

全国で相次ぐクマ被害。死者数は統計開始以来で“最悪”となり、岩手県では露天風呂の清掃中に襲われたとみられるケースや、18日には、群馬県でキノコ採りをしていた人が襲われケガをしたケースも。そうした中、新たな対策として注目なのが、市町村の判断で発砲できる「緊急銃猟」。しかし、制度を巡って現場のハンターには不安も...。

■クマには「個性」 遭遇時の対応は“ケースバイケース”

酪農学園大学 伊吾田宏正准教授:

ヒグマの個体数はこの30年間で2倍に増加したほか、ツキノワグマも分布域が拡大し、個体数が増加している可能性があります。

同時に、人をおそれないようになっているクマが増えているとみられ、「個体数の増加」と「クマの行動の変化」の両方が、出没や被害の増加につながっているとみられます。

秋はクマにとって、冬眠前、大量の食料を必要とする時期。ドングリなどの堅果類が不作となると、農作物に被害を出したり、人の生活圏に侵入したりしてしまうことがあるんです。

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社会部環境省担当 安藤翔記者:

クマが市街地に出てくる理由。先月行われた、国の対策会議でも話題にあがったのが“柿”です。兵庫県立大・横山真弓教授の資料によると、クマ出没時、柿が誘引物になっているケースが71%(栗7%、ハチの巣4%など)あるといいます。

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森圭介アナウンサー:“柿の木”に対して、何か対策を講じることも必要ですか?

栃木県猟友会 小堀大助事務局長:

講習会でも言っていますが、人の住んでいない空き家の柿の木をどんどん切った方がいいと思います。実が落ちて腐っていくと、遠くまでにおいを発するようになる。

クマの嗅覚はすごいので、どんどん人里の奥へと入っていくことになってしまいます。

森:クマに出会ったとき、“音を出した方がいい”とか、“少し下がった方がいい”とか、色んな対策を聞きます。実際にはどうするのが良いですか?

小堀:私はクマと何度も出くわしたというような経験はないんですが、基本的に皆さんおっしゃるのは“目をそらさない”、“走らない”、そして“じりじりと間合いを遠ざけていく”ということ。

ただ、注意しなければいけないのは、クマには“個性”があるということ。

シカやイノシシは大体みんな同じだが、クマは好奇心がある個体もいれば、臆病なものもいる。遭遇したクマによって対策も変わるのが難しいと思います。

■生活圏で発砲 緊急銃猟でハードル下がった?

酪農学園大学 伊吾田宏正准教授 日テレNEWS NNN

森:近年、出会いたくなくてもクマが生活圏に出没してしまうことが問題になっています。そんな中、新たなクマ対策として注目されているのが「緊急銃猟」です。

安藤:9月1日に改正鳥獣保護法が施行されたことによるもので、これまで県知事の許可が必要だった発砲を、市区村長レベルに下げ、よりスムーズに駆除できるようにするという対策です。

①クマなどの危険鳥獣が、住宅や公園など、人の日常的な生活圏に侵入してしまった場合

②人の生命・身体に対する危害を防止する措置が緊急に必要

③銃猟以外の方法では、的確かつ迅速に捕獲することが困難

④避難などによって地域住民などに弾丸が到達するおそれがない場合

この4つの条件を満たせば、危険鳥獣の銃猟をハンターに委託して、実施させることができるというものです。

法改正で想定されているのは、「膠着(こうちゃく)状態」を巡る対応。去年、秋田市のスーパーにクマが55時間にわたって居座るというケースがありましたが、居座ったままだと生活に危害が及ぶ恐れがあった。

そうした状況を打破するため、この緊急銃猟という制度ができたんです。

小堀:この制度が出来たことはとても大きい。銃を撃てる場所はとても細かく決められていました。夜間禁止だったり、半径200メートル以内に10件以上建物があると住宅密集地とされ、発砲できないという判例があったり。林道やサイクリングロードとかでもダメでした。

ほとんどの場合、人の生活圏で銃を撃つというのは難しかったが、それが(市区町村の判断があれば)できるようになった。この意味は大きいと思います。

森:伊吾田さんは、この法改正の審議にも加わったそうですね。

伊吾田:人身被害や出没が相次ぐ中、これまでは、警察官職務執行法に基づき、警察官の命令でハンターが発砲を行っていました。

しかし、「まさに今、人を襲おうとしている」という差し迫った状態でないと指示が出せない。発砲判断が難しいという課題がありました。

それが法改正で、市町村の判断で、人の生活圏に出没したクマに発砲することができるようになりました。

■通報から発砲まで30分 訓練の意義

栃木県猟友会 小堀大助事務局長 日テレNEWS NNN

森:小堀さんの所属する栃木県猟友会では、訓練が行われたということですが。

小堀:行政の担当者・警察官・ハンターが集まりました。小学校の校庭にクマがいて動かないという想定だったんですが、通報人役の人が「クマを発見した」と110番した後、警察から市町(行政)に連絡が行き、行政からハンターに連絡が行って、ハンターが発砲する人たちを集め、現場には対策本部ができる…。

訓練では省略しながら行いましたが、最初に発見して通報から発砲するまでに30分以上かかりました。

ただ、訓練としては非常にいい訓練だったと思います。今後、どうしたら時間の短縮につなげられるか課題を洗い出すためには、いい機会だと思いました。

伊吾田:クマの捕獲には、反撃などの大きなリスクがあって、捕獲する人には高度なスキルが求められます。多くの場合、地域のハンターが捕獲を担うと想定されていますが、一般の狩猟者は“趣味”で捕獲を行うので、必ずしも特別な訓練を受けていない人もいます。

専門的なハンターや職員をしっかり育成して、各地に配置していく仕組みが必要だと思いますね。

小堀:栃木県猟友会にも2000人以上会員がいますが、全員がクマに対するスキルを持っているわけではない。

カモやハトを専門に撃つという人もいる。私の肌感覚で言うと、クマを撃つことができるのは100人いるか、数十人くらいかもしれません。

■「民間ハンターに依存している現状は健全でない」

社会部環境省担当 安藤翔記者 日テレNEWS NNN

森:素朴な疑問なんですが、市町村が駆除をハンターにお願いしているということなんですか。とすると、市町村からの依頼がないとハンターは動けないということ?

小堀:市町村(の職員)が、直接駆除してもいいんです。ただ、市町村にはやる人がいない。だから外部、民間の猟友会のようなところに委託するしかないのが現状です。

伊吾田:緊急銃猟は、駆除のために「市街地で発砲できる」という制度で、「発砲しなければいけない」という制度ではない。

民間のハンターたちが担えない地域では、行政の専門職員が捕獲も含めた対応ができるようにしないといけない。民間ハンターに依存している現状は、ハンターにもリスクが伴うので、健全ではないと思います。

森:市町村からお願いされているのに、ハンター側にリスクがあるということですか?

小堀:例えば発砲して物損事故を起こしてしまった場合は、市町村が賠償するということになっていますし、本当に万が一人身事故が起こってしまった場合は、国家賠償責任法で賠償されると聞いているので、制度上に問題はないはず。

ただ、一抹の不安がぬぐいきれない。その一方で、ハンターの矜持(きょうじ)として、地域が困っているのにやらない、金銭が十分でないとやらない、というようなことしたくないと全ハンターが思っています。

緊急銃猟でクマを撃つというのは「最終手段」。

話が元に戻ってしまうが、まずは出没させないための努力を徹底する。その上で、たまに人里に出てきてしまったら、駆除する、というように整える方が現実的な手段だと私は思います。

伊吾田:クマが通ったり潜んだりする茂みを刈り払うとか、出没情報を速やかに共有する仕組みを作るとか、総合的な取り組みが必要。そして、クマの個体数が多すぎる地域であれば、数を減らす「個体数管理」も検討すべきだと考えます。

安藤:農林水産省は、遠隔監視システムやドローンでの追い払い、電子柵を設置して耕作地を守るなど“スマート鳥獣害対策”を打ち出しています。国土交通省も河川の樹木を伐採するなどの対策を行っていて、国が省庁横断的に対応しているところです。

■駆除で非難や苦情 最優先は「住民の安全」

森圭介アナウンサー 日テレNEWS NNN

森:クマの駆除について報じられると、非難や苦情など、様々な意見が出てしまいます。この状況をどう受け止めていますか。

伊吾田:人の生活圏に頻繁に出没したり、人を襲ってしまったりしたクマは、同じ行動を繰り返すおそれがあります。その個体にはかわいそうですが、速やかに捕獲すべき。住民の安全が最優先にされるべきだと思います。

安藤:今年7月、北海道で新聞配達中の男性がクマに襲われ死亡、その後、そのクマを駆除したという対応をとったのですが、道庁など計200件以上の抗議の電話が来たそうです。それを受け、浅尾環境相は会見で「時にはクマを捕殺しなければいけないことを、ご理解いただきたい」と発信しました。

浅尾慶一郎環境相 日テレNEWS NNN

安藤:過度な苦情は職員数が限られている自治体の活動を制限してしまう、ハンターの活動を萎縮させることにもつながってしまうので、節度ある行動をお願いしたいということです。

伊吾田:抗議が殺到すると、役場の通常業務に支障をきたすおそれもあります。それによって適切な対応が遅れ、二次災害が起きたら誰が責任をとるのか、という問題もあります。

小堀:これによって猟友会員に非難が向いてしまうことだけは、何としても避けたい。(狩猟のほかに)仕事や色んな事情を抱える中、「いざという時、クマを駆除できるのは猟友会」という矜持を持っています。

ボランティアに近い形でクマと対峙(たいじ)しなければならないのに、非難が集中するというのは、なんとも言えないものがあります。浅尾環境相のように影響力のある人が発信することで、少しでも安心して駆除に協力できる環境になればいいなと思います。

森:温暖化も含め、クマや人間の生活環境が変わっています。更に人口が減っていくなかで、どこまで管理していけるのか。私たちがこの国で生活していく上で、どうしなければいけないのかを全員で考えなければいけない、そんなフェーズになっているのかもしれないですね。