トランプ政権「目の敵」を次々に解任、大統領の戦略とは? 主要ポストの独立性も問われる異常事態

米トランプ政権で、独立の立場をとってきた主要ポストの解任が相次いでいる。第1次政権時に解任後、トランプ氏を批判してきた元FBI長官を起訴。目の敵を徹底的に粛清していくやり方だ。AERA 2025年10月20日号より。
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「手に入れられるものは奪い取る、奪い取れないものは戦う、抵抗する者は粛清する」
というのがトランプ米大統領の過去7カ月の戦略(プレーブック)だと、8月、ホワイトハウスの内情に詳しい米ニュースサイト、アクシオス(Axios)がまとめた。
それは現実に起きている。
トランプ氏の息がかかった米連邦大陪審は9月、米連邦捜査局(FBI)元長官、ジェームズ・コミー氏を偽証罪で起訴した。FBI長官といえば、過去にはジョン・F・ケネディ元大統領の暗殺事件など重大事件を捜査してきた「正義の味方」的存在。国内で起きる銃乱射事件や要人の銃殺事件の捜査に当たり、「FBI=捜査当局のトップ」というイメージがある。しかし、コミー氏は、トランプ氏の「目の敵」だった。トランプ氏は先立って、政敵に対する調査を劇的に進めるよう、パム・ボンディ司法長官に求めたばかり。コミー氏は、刑事事件で起訴された初の元FBI長官となった。
コミー氏は起訴の数時間後、顔出しのSNS動画配信で立ち向かった。
「私と私の家族は長年、ドナルド・トランプに対して立ち上がると、その仕返しがあることは認識していた。私と家族は、屈服して生きることはしない。私は無実だ。連邦の司法制度に大きな信頼を寄せている。裁判をしようじゃないか」
■夕食中「忠誠心」を問う
FBI長官は、正義と公正を保つ独立の立場にあるため、伝統的に政権交代では変わらない数少ないポスト。第1次トランプ政権で、オバマ元大統領に指名されたコミー氏はルール通り続投した。
しかし、2017年5月、トランプ氏は突然彼を解任した。コミー氏は、業務としての職員へのスピーチの最中、テレビの速報で自らの解任を知ったという(18年刊の回顧録『より高き忠誠 真実と嘘とリーダーシップ』による)。

回顧録では、トランプ氏が大統領就任後、コミー氏を夕食に招待し、「忠誠心」を問うた緊迫した会話を暴露している。コミー氏は、トランプ氏とのやり取りに疑問を抱き、細かいメモを残し、自宅の金庫に保管して、トランプ批判の証拠として回顧録で暴いた。
起訴の理由は、2020年9月の議会証言において、メディアに機密情報を流出させることを許可したか聞かれた際、虚偽の証言をしたことだという。コミー氏は10月8日、南部バージニア州の連邦地裁に現れ、無罪を主張した。コミー氏の弁護士を務めるパトリック・フィッツジェラルド氏は罪状認否手続きで、「訴追はトランプ大統領の指示で行われたというのが私たちの見解だ」と堂々と述べた。
■米軍制服組トップも
ワシントンでは、要職解任だけではなく、連邦職員のクビが飛ぶ騒ぎが止まらず、死屍累々(ししるいるい)といった状況だ。
トランプ氏はまず2月、米軍制服組トップであり黒人のチャールズ・ブラウン統合参謀本部議長を解任した。黒人で史上2人目の議長であり、長年の分析が必要な安全保障問題でホワイトハウスに助言するため、FBI長官同様、独立性があり前政権から続投するポスト。しかし、トランプ派のピート・ヘグセス国防長官は、ブラウン議長が軍内で「多様性、公平性、包摂性(DEI)」を推進し、「(社会問題に敏感すぎる)ウォーク」だと非難、解任すべきだとしていた。このほか、女性として初めて海軍制服組トップに就任したリサ・フランケティ海軍作戦部長も交代させた。
独立ポストとして、国内だけでなく、世界が信頼を置いているポストもトランプ氏の餌食となった。エリカ・マッケンターファー労働省労働統計局(BLS)局長だ。世界中の市場関係者が米経済の先行きを見極めるために固唾をのんで見守る雇用統計。月の第1金曜日午前8時半(米東部時間)に発表される。統計の最高責任者である同局長をトランプ氏は8月の雇用統計発表直後に解任した。過去の5、6月の雇用者数(非農業部門)が大幅に下方修正されたことへの不満が理由で、「雇用統計が(政権イメージを下げるように)操作されている」と主張した。

■経済データの信頼損ね
新規雇用者数のデータは、長年BLSが築き上げた膨大な民間企業との関係で積み上げるもの。トランプ氏の攻撃は、「経済データへの世界的な信頼性を損ねる」と世界中の市場関係者やメディアから批判の声が上がった。
さらには、経済・金融政策で最も独立性が高いとされる連邦準備制度理事会(FRB)理事のリサ・クック氏も対象となった。
クック氏は、民主党政権に任命された理事で、トランプ氏はSNSで辞任を要求、大統領がFRB理事を解任すれば「中央銀行」の独立性が問われる史上初の事件となる。辞任要請は、連邦住宅金融局が、「クック理事が2カ所で住宅を購入するにあたり、いずれも居住用として申請し、両方とも低金利で住宅ローンを契約した可能性がある」という虚偽申告の罪で刑事告発したからだとした。クック氏は、「正当な理由に当たらず、辞任を強要されるいわれはない」と続投している。
要職以外にも、9月末には早期退職制度に応じた15万人が連邦政府を去った。ロイター通信によると、トランプ政権による攻撃が続く気象予報など環境、公衆衛生・健康関連の分野には悪影響が予想されるという。
■世界中にダメージ与え
折しも、10月1日からは、連邦つなぎ予算が否決されたために連邦政府機関が閉鎖されている。空港の管制塔や保安業務など一部を除いて、政府職員は休職状態で、管制官などは無給で働いている状態だ。
西部カリフォルニア州の空港では、数時間、管制塔が無人となる事態が発生。航空便の遅延やキャンセルで旅行客の間でも混乱が生じている。
アクシオスはこう伝える。
「トランプ氏のアメリカ像は、彼の同意によってのみ動いていく」
冒頭のトランプ氏の「プレーブック」は、経済、社会、安全保障、環境に留まらず、世界中にダメージを与えている。
(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

※AERA 2025年10月20日号