大学の「学力型年内入試」解禁で一般選抜は難化か

11月にかけて実施される「学力型年内入試」の志願者数と合格者数が、一般選抜にどう影響するのか昨年以上に注目されている(写真: Fast&Slow / PIXTA)
大学入学者選抜の中でも総合型選抜と学校推薦型選抜は、年内に試験実施と合格発表が行われるケースがほとんどのため年内入試とも呼ばれています。
【一覧を見る】新規に「学力型年内入試」を実施する大学が首都圏で増えている
その中でも学力試験のみで合否判定する「学力型年内入試」に対して、今年から新たなルールが導入されました。各大学はすぐさま新ルールに対応しましたが、新規に実施する大学も見られるなど新潮流にもなっています。
「学力型年内入試」新ルール導入の背景とその内容
面接などを課さず、学力試験のみで合否判定する総合型選抜・学校推薦型選抜は、近畿地区を中心に少なくとも30年以上前から行われてきました。一般選抜の“0期入試”と呼ばれていたこともありますが、現在では「学力型年内入試」というネーミングが定着しつつあります。
国公立大学などでは大学入学共通テストを課したり、2月上旬に個別試験を行ったりしていますので、すべてが年内ではないことなどから「総・推入試」と称されることもあります。
いずれにしても、近畿地区では大学受験の仕組みとして完全に定着しており、これまで問題視されることもありませんでした。それが2025年度入試ではにわかに注目を集めました。
それは首都圏の私立大学でも同様の「学力型年内入試」を行う大学が出てきたからです。それが東洋大学と大東文化大学です。
紆余曲折を経ましたが、試験は予定どおりに実施されました。ただ、「学力型年内入試」は厳密には文部科学省通知「大学入学者選抜実施要項」のルールから逸脱していますので、これに対して主に高校側が反発しました。高校の授業進度に悪影響を及ぼすことと生徒の安易な進路選択につながることを危惧したためです。
その結果、大学団体と高校団体などが協議を行い、2026年度入試から新しいルールが導入され、条件付きながらも基礎的な学力試験の導入が認められることになったのです。
その条件とは、年内入試で学力試験を課す場合は、「調査書等の出願書類」に加え、「小論文・面接・実技検査等の活用」または「志願者本人が記載する資料や高等学校に記載を求める資料等の活用」と「必ず組み合わせて丁寧に評価」することです。つまり、多様な評価方法を組み合わせるうちの1つとして、学力試験の実施が高校側から許容されたのです。
各大学の新ルールへの対応状況
従来「学力型年内入試」を実施してきた大学は、この新ルールに対応して選抜方法の一部を変更しました。具体的には、出願書類に事前課題(小論文や志望理由書など)を加えて、これを点数化するなど評価の対象とすることで、「組み合わせて丁寧に評価」することを担保しています。
中には調査書を点数化して加算する方式を実施する大学もありますが、調査書は一般選抜も含むすべての選抜方法で評価の対象となりますので、調査書を点数化しただけでは新ルールには適合していないことになります。必ず調査書以外の書類も組み合わせることが必須です。
ところで、これらの提出書類を評価の対象としていても点数化しない大学もあります。
小論文であればテーマによっては段階的な評価をすることもできますが、志望理由書や活動報告書を点数化するのは評価方法が難しいためだと思います。また、これらを点数化しても配点比率が低く設定されている大学も見られ、中には総点の10%にも満たないケースもあります。こうしたケースでは提出書類の合否への影響はかなり低いと言えるでしょう。
近畿地区では学校推薦型選抜として実施する大学が多く、関東地区では総合型選抜として実施する大学が多い傾向です。この辺りは制度としての定着度に地域差があることを示唆しています。
首都圏では新規に導入する大学も
新しいルールができたことで、新規に「学力型年内入試」を実施する大学が主に首都圏で増えています。河合塾の入試動向の解説記事によると、首都圏で中堅の私立大学や女子大で新規実施大学がいくつか見られます。

新たに「学科試験型の名称を持つ入試」を実施する主な大学
ただ、中には事前課題のテーマが単なる志望理由などではなく、社会課題のように重いテーマだったり、学力試験以外の書類の配点が高かったり、受験生から見たメリットが薄い大学も散見されます。
一般選抜を目指す受験生から見た「学力型年内入試」の最大のメリットは、面接対策・小論文対策や提出書類作成などに時間を取られることなく、年内で合格大学を確保できることです。
加えて、合格後に最終的な入学手続きをいつまで待ってもらえるかが重要なポイントになりますが、この部分は大学によってかなりのばらつきがあります。近畿地区でも3月上旬まで待ってくれる大学もあれば、締切日が2月中旬までの大学もあります。
ちなみに、今回注目を集めている東洋大学の入学手続き期限は、2月27日までとなっていますので、MARCHと呼ばれる上位大学群の一般選抜の合格発表がほぼ終わるまで権利を保有できることになります。ただし、そのためには2段階入学手続きの第1次手続きを行い、入学申込金(入学金相当額)の納入が必要となります。
そして、入学を辞退した場合、入学申込金は返還されません。今年の入試の話題の1つ、いわゆる「併願大学の入学金返還問題」なのですが、東洋大学に限らず大半の大学では返還されない仕組みになっています。
これは受験生にはつらい仕組みですが、従来の受験の常識でもあるのです。ところが、大東文化大学の「学力型年内入試」は一味違います。合格発表は12月ですが、入学手続きの締め切り日は翌年2月25日に設定されています。
つまり、12月に合格後、締め切り日までであれば、一般選抜で上位志望の大学に合格して入学を辞退したとしても「入学金返還問題」が生じないことになります。非常に受験生フレンドリーな制度設計です。
こうした大学側の動きに対して、高校側はどのように受け止めているのでしょうか。
全国高等学校長協会が6月に「大学入学者選抜実施要項の趣旨を踏まえた適切な大学入学者選抜の実施について(意見書)」を出しています。そこでは新ルールに準拠していたとしても、一部の大学で見られるように学力試験の配点が突出して高いケースがあることを問題視しています。
これでは一般選抜の前倒しではないかとの指摘です。正しい指摘だとは思いますが、高校側の受け止めにも地域差があるようです。
朝日新聞と河合塾が行った調査で「学科試験のみで合否が決まる総合型選抜・学校推薦型選抜に対する賛否」を地域別に見ると、全国的には「反対・どちらかと言えば反対」の回答が60%を超えていますが、近畿地区の高校は「賛成・どちらかと言えば賛成」とした回答の比率が半数を超えており、関東甲信越地区と比べて倍の値となっています。この制度が近畿地区でいかに定着しているかがよくわかります。

高校に聞いた「学科試験のみで合否が決まる総合型選抜・学校推薦型選抜に対する賛否」地域別
ところで、賛成意見が少数の関東甲信越地区の高校でも、進学先を早期に決めたい受験生の動きは止められないと思います。学校推薦型選抜であれば、学校長名の推薦書が必要となりますので、指導の余地もありますが、総合型選抜では推薦書が必要ありません。首都圏の「学力型年内入試」で総合型選抜が多いのはこの辺りにも理由があるのかもしれません。
年内入試の合格者数増で一般選抜が難化する
さて、結局のところ「学力型年内入試」の志願者数は増えるのでしょうか。2026年度入試は、さまざまな人口推計で18歳人口の増加が見込まれています。そのため、新規実施分を除いた、既実施の大学の志願者数は、進学先の早期決定を望む受験生の増加と相まって、増えることが予想されます。
実際、すでに発表された大学入学共通テストの受付最終日の出願状況を見ても、前年より出願総数は前年同日比101.4%(現役生98.6%、高卒生120.9%)と増加していますので、受験人口増加の影響が出ていると見られます。
そして、年内入試の結果は一般選抜にも影響します。すでに総合型選抜が始まっており、一部の「学力型年内入試」もスタートしています。入試は通常、志願者数が増えれば合格者数も増えます。大学側は年内入試である程度の合格者数・入学者数が見込まれる場合、一般選抜の合格者数は減らします。
受験生の立場から見れば、一般選抜の倍率アップと入試難易度アップにつながる可能性が高まることになるのです。昨年、「学力型年内入試」を新規に実施した大学で「学力型年内入試」の合格者数とほぼ同じ規模で、一般選抜の合格者数を減らした大学があります。この大学の倍率と入試難易度はアップしています。
これから11月にかけて実施される「学力型年内入試」の各大学の志願者数と合格者数が、一般選抜にどのように影響するのか、昨年以上に注目されます。