ウクライナ和平をめぐって注目されるドンバス地方:なぜ、それほど重要なのか?
一貫性のないトランプ外交

10月18日にワシントンで行われた米国とウクライナの首脳会議において、トランプ米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領に対し、プーチン政権の要求を受け入れるよう迫ったと報じられている。なお、トランプ政権はその後、立場を翻してロシア石油大手2社に対する制裁措置に踏み切った。
会談は「怒鳴り合い」に発展した?

『フィナンシャル・タイムズ』紙は関係者の話として、首脳会談は「怒鳴り合い」に発展し、トランプ大統領は「絶え間なく罵っていた」と伝えている。同時に、ロシアのプーチン大統領が依然としてドンバス地方の併合を望んでいることも判明した。
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ドンバス地方とは?

プーチン大統領の意向を受け、トランプ大統領はゼレンスキー大統領にドンバス地方の割譲を求めたとされている。そもそも、ドンバス地方とは何なのか? プーチン政権はどうして、この地域の併合にこだわっているのだろう?
名称の由来はドネツ盆地

『キーウ・インディペンデント』紙いわく、ドンバス地方はウクライナ東部にある炭田地帯であり、「ドンバス」という名称は「ドネツ盆地(ドネツキー・バセイン)」の略称だ。なお、「ドンバス」という用語が使われるようになったのは19世紀からだという。
ドネツク州とルハンシク州

現在、ドンバス地方と呼ばれているのはウクライナ領のドネツク州、ルハンシク州、ドニプロペトロウシク州の一部だが、歴史的にはロシア南部の一部地域が含まれていたこともある。いずれにせよ、ドンバス地方の大部分はドネツク州とルハンシク州にあたる。
画像:Wiki Commons Alex Tora, CC BY-SA 3.0
ウクライナ経済を支える工業地帯

ドンバス地方は重工業と石炭鉱業が盛んで、ウクライナ経済を支える屋台骨だった。『キーウ・インディペンデント』紙によれば、ロシアによる侵攻が始まるまでは、「世界中に製品を輸出する冶金・石炭・化学工場」が数百軒も建ち並んでいたそうだ。
紛争前はウクライナのGDPの16%を生み出していた

また、ロンドンに拠点を置く経済コンサルタント会社「Center for Economics and Business Research(CEBR)」によれば、2014年にドンバス紛争が始まるまで、同地域の人口はウクライナ全体の14.7%を占め、GDPの15.7%を生み出していたという。
ドンバス紛争によって生じた経済的損失

しかし、ドンバス地域の親露派武装勢力がウクライナからの分離を求めて戦闘を始めたため、この地域では2021年までのうちに、およそ1,020億ドル規模の損失が生じることになってしまった。
ロシア語話者の保護を掲げるプーチン政権

プーチン政権は以前から、ドンバス地方のロシア語話者を保護すると称して、ウクライナ侵攻を正当化してきた。さらに、同大統領はドンバス地域について、歴史的にロシアとの結び付きが深く、旧ソ連の遺産としてロシアが継承すべきだと主張している。NBC放送が伝えた。
アゾフ海へのアクセス

しかし、プーチン政権がドンバス地方にこだわる理由はそれだけではない。この地域を手中に収めれば、ロシアはアゾフ海に常時、アクセスできるようになるのだ。NBC放送いわく、ロシアはドンバス地方を足がかりとして、ウクライナ領をさらに侵略しようとする可能性もある。ただし、現時点でロシアはドンバス地方全域を制圧することができていない。
ドンバス地域の88%を占領したロシア

同放送によれば、ロシア軍は2025年8月の時点でドンバス地方のおよそ88%を占領したとされる。ロシア側の支配地域にはルハンシク州全域およびドネツク州の75%が含まれている。なお、ロシアは2022年に行われた住民投票によってこの2州はロシア領になったと主張している。
ドンバス地方全域を明け渡すよう求めるプーチン政権

このような状況の中、プーチン政権はウクライナに対し、ドンバス地方においてウクライナ側が支配権を維持している地域をロシアに割譲するよう要求。一方、ウクライナはそのような要求には応じないという姿勢で一貫している。
「要塞地帯」を攻めあぐねるロシア

ドンバス地方においてウクライナ側が支配権を保っている地域は『エコノミスト』誌いわく「要塞地帯」だ。一帯は4つの主要都市と複数の集落を含む、全長50キロメートルの戦略的な防衛線をなしているのだ。
ロシアにとっては目の上のたんこぶ

『エコノミスト』誌によれば、この要塞地帯は「ドンバス地方全域を掌握するというロシア側の目標を阻むばかりか、ロシア軍が他地域に進出する能力も制限する」ものであり、プーチン政権にとっては目の上のたんこぶだ。そのため、「ほとんどのウクライナ国民にとって、プーチン大統領との交渉のために要塞地帯を明け渡すというのは考えられない」という。なお、一帯の要塞群を補強する作業はドンバス紛争が勃発した2014年に開始された。
「ドンバス地方を放棄することはない」

また、ゼレンスキー大統領もウクライナ軍が維持している要塞地帯の重要性について、たびたび言及しており、2025年8月には「ウクライナがドンバス地方を放棄することはありません。そんなことはできません。ドンバス地方はロシアにとって、将来的な侵略の足がかりになるからです」とコメント。
要塞群から撤退するリスク

ゼレンスキー大統領はさらに、「もし今、ウクライナがドンバス地方やその要塞群を明け渡し、ウクライナ側が支配する高地から撤退すれば、ロシア軍によるさらなる侵略の橋頭保が築かれることになります。数年後、プーチン大統領の前には、ザポリージャ州およびドニプロペトロウシク州を侵略する道が開かれることでしょう。さらに、ハルキウ州もです」とした。
トランプ大統領の目論見

トランプ大統領はウクライナの領土をロシアに割譲することで停戦に持ち込み、和平の仲介者として名を上げようと考えているのかもしれない。しかし、ウクライナがドンバス地方の要塞群を和平と引き換えに差し出す可能性は低そうだ。
今後の展開は?

それどころか、ウクライナ侵攻が終戦に向かう気配はなく、ロシア軍がドンバス地方全域を力ずくで制圧する見通しも立っていない。そんな中、ウクライナが同地方に対するロシアの領有権を認めることはないだろう。
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