ロシアを襲う「最悪の人手不足」と「高インフレ」の実態…戦争終結の先に待つ「過酷な未来」

仲介に入ったアメリカの動向も注目される、ロシアとウクライナの戦争。戦争終結後、ロシアにはいったいどのような未来が待っているのか。人気のYouTubeチャンネル「大人の学び直しTV」を運営する“すあし社長”が、「前編」に引き続き、現在も人手不足やインフレに苦しむロシアの未来について解説する。

※本稿は、すあし社長『あの国の「なぜ?」が見えてくる世界経済地図』(かんき出版)の一部を再編集してお届けします。2025年9月時点の世界経済、情勢に基づいた内容です。

歴史上最悪の「人手不足」のその先

ロシアは歴史上でも最悪と言われるほどの「人手不足」に直面しています。

その原因は、次の三重苦にあります。

歴史上最悪の「人手不足」のその先, 国民生活を直撃する「見えない税金」, 結局、戦費はどこで賄っているのか?, この先に残される「荒廃した未来」

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一つ目は、戦場へ数十万人規模の男性が兵士として動員されたこと。

二つ目は、戦争による死傷者が100万人を超えると推定されていること。

そして三つ目が、「頭脳流出」です。戦争を嫌い、あるいは将来に絶望した生産性の高い熟練専門家やIT技術者、推定65万人以上が国外へ流出したこと。

この三重苦によって、国内の労働力は不足しています。

しかし、公式の失業率は2%台という、完全雇用に近い歴史的な低水準となっています。これは経済が好調であることの証ではなく、働き手が極度に不足している危険なシグナルです。

ロシア経済全体で約180万人の労働者が不足していると言われます。この人手不足は、特に軍産複合体において、労働者の激しい争奪戦を引き起こしています。

防衛工場は、通常の3割から6割増しという破格の給料を提示して、民間産業から熟練労働者を引き抜こうとします。その結果、経済全体の賃金が、生産性の向上とは無関係に無理やり押し上げられる「賃金インフレ」が加速しています。

この持続不可能な賃金競争は、国家からの補助金がない民間企業にとって、まさに致命的です。人件費の高騰は企業利益を直接圧迫し、新たな投資を抑制し、多くの民間企業を倒産の危機へと追い込んでいます。

働き手がいない、そして人件費が高騰する。この苦の二重奏が、ロシアの民間経済の活力を、根こそぎ奪っているのです。

クレムリン(モスクワ中心部の城塞であるモスクワ・クレムリン。政治的な文脈では、ロシアの大統領府とその周辺の政権中枢を意味する慣用表現として使われる)は、この不都合な真実を国民の目から隠すため、統計データの公表を次々と停止しています。

2025年3月以降、ロシア連邦統計局は、地域ごとの詳細な人口動態データの公表を取りやめ、ついには月次の出生・死亡報告そのものを中断しました。

これは、戦争がもたらす人的コストの深刻さを、政府自身が何よりも理解していることの証左にほかなりません。

国民生活を直撃する「見えない税金」

「政府による軍事部門への大規模な財政支出」と「人手不足による賃金インフレ」、この二つが組み合わさることで、国民生活を直接、そして容赦なく襲うのが、抑制不能な物価の高騰、すなわちインフレです。

歴史上最悪の「人手不足」のその先, 国民生活を直撃する「見えない税金」, 結局、戦費はどこで賄っているのか?, この先に残される「荒廃した未来」

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2025年6月時点の公式なインフレ率は9.4%に達し、中央銀行が目標とする4%を遥かに上回っています。

しかし、これはあくまで公式の数字に過ぎません。ロシア中央銀行自身の調査によれば、国民が日々の買い物で感じる「体感インフレ率」は、実に約16%にも達すると言われています。

この高インフレは、一般のロシア国民、特に戦時経済の恩恵を直接受けていない人々にとって、「見えざる税(Invisible Tax)」として機能します。政府が直接税金を上げるのではなく、物価が上がることで、国民が持つ貯蓄や給料の実質的な価値が、静かに、しかし確実に目減りしていくのです。

たとえ給料の額面が上がったとしても、それ以上に物価が上がれば、買えるものは少なくなり、生活は確実に苦しくなります。

この状況は、ロシア中央銀行を難しい政策的ジレンマに陥れています。

インフレを抑制するためには、政策金利を高く維持しなければなりませんし、実際にロシアでは高金利政策を取っています。ですが、この金融引き締めは、国家の補助金で守られている軍産複合体にはほとんど影響を与えず、銀行からの融資を必要とする民間部門に打撃が集中します。

つまり、中央銀行は、過熱した戦時経済を冷やすために、民間経済をより深刻な不況に突き落とすリスクを冒さなければならない、という自己矛盾をはらんだ政策の罠にはまっているのです。

結局、戦費はどこで賄っているのか?

この戦時経済の歪んだ構造は、ロシアの国家予算の配分に、最も明確に、そして残酷な形で表れています。

それは、国家の未来を犠牲にして、現在の戦争を維持するという、悲劇的な選択です。

歴史上最悪の「人手不足」のその先, 国民生活を直撃する「見えない税金」, 結局、戦費はどこで賄っているのか?, この先に残される「荒廃した未来」

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2025年のロシアの連邦予算では、総軍事支出がGDPの7.2%に相当する15.5兆ルーブルに達すると推定されています。

これは、国家予算全体の37%を占める、ソ連時代以来の異常な高水準です。国防と国内の治安維持を合わせると、予算の半分近くが、国民を豊かにするためではなく、統制し、戦争を遂行するために使われている計算になります。

この巨額の戦費を捻出するため、政府は、国民の生活と国家の未来にとって不可欠な予算を、次々と削っています。

25年には、年金や社会保険への支出が1.4兆ルーブル削減され、社会福祉政策全体の予算も、前年に比べて約16%も減少しました。国民の暮らしの根幹である医療や、次の世代を育てる教育への予算も、高いインフレ率を考慮すれば、実質的には大幅なマイナスとなっています。

この先に残される「荒廃した未来」

巨額の戦費を優先した結果は、日常の負担増として表れます。

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例えば25年7月1日には全国で公共料金が平均約12%(地域によっては20%超)引き上げられ、家計の固定費が一段と重くなりました。物価も25年6月に前年比9.4%と高止まりで、年金や給付の名目改定があっても実質の購買力は目減りしやすい状況です。

加えて、人手不足の医療では保健省が25年4月に規則を緩和し、医師の業務の一部を救急救命士や助産師に委任できるようにしましたが、これは現場のひっ迫の裏返しです。

予算面でも、25年は国防・治安で歳出の約4割を占める一方、社会政策は前年比で約16%減と見通され、福祉や生活関連サービスが後ろ倒し・縮小になりやすい構図が続いています。

これは、国家の富が、市民の福祉から、戦争という名のブラックホールへと、直接的に移転されていることを意味します。

戦場に消えていく砲弾やミサイルは、本来であれば、新しい病院や学校を建設し、道路や橋を整備し、あるいは未来の産業を育てるための研究開発に使われるはずだったお金です。

ロシア経済は、未来への投資という「種」を食い潰しながら、戦争という「今」を生き延びているに過ぎません。この道が、持続可能でないことは明らかです。

戦争が終わった時、そこには、産業基盤が崩壊し、人的資本が流出、そして社会保障が破綻した、荒廃した未来だけが残されているのかもしれません。