NTT、KDDI、ソフトバンクは「宇宙×通信」のマネタイズや安全保障をどう考える?–各担当者に聞いた
- 「宇宙通信」が地上のシェアを奪う可能性は?
- ――衛星を活用した宇宙通信や成層圏通信プラットフォーム「HAPS」などは、今後どの程度広がっていくと思いますか。また、宇宙通信が地上通信のシェアを奪う可能性はあると考えますか。
- ――SpaceXやAmazonなど、これまで通信を手掛けてこなかった事業者が参入し、グローバルで宇宙通信を提供しています。この流れを大手通信キャリアとしてどう見ていますか。
- 安全保障やキャリア間連携への考え
- ――安全保障の観点で、日本として通信衛星を自前で保有する必要もあるかと思います。海外依存と自律性のバランスや、国家として取り組む上でのキャリア同士の連携についてどう考えますか。
- 宇宙通信でどうマネタイズする?
- ――宇宙業界全体の課題としてマネタイズがあります。通信会社としてどのような収益モデルが考えられますか。
NTT、KDDI、ソフトバンクの大手通信キャリア3社が集結し、「宇宙×通信」戦略や未来を語るトークセッション「Beyond Terrestrial 2025 – 宇宙×通信がつくる新しい公共」が10月31日に開催された。セッションでは各社の宇宙×通信の戦略が語られたが、UchuBizではその後、3社それぞれに個別インタビューを実施。SpaceXをはじめとする海外事業者の動きや、宇宙領域におけるマネタイズなどについての考えを聞いた。

NTTの木村吾郎氏(左)、KDDIの志田裕紀氏(中央)、ソフトバンクの砂川雅彦氏(右)
回答者は、NTT 研究開発マーケティング本部・統括部長の木村吾郎氏、KDDI コア技術統括本部 技術企画本部 技術企画部 通信プラットフォームグループ グループリーダーの志田裕紀氏、ソフトバンク プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 衛星ビジネス開発ディレクターの砂川雅彦氏。なお、1社ずつ個別にインタビューしているが、各社にはすべて同じ質問をしている。
「宇宙通信」が地上のシェアを奪う可能性は?
――衛星を活用した宇宙通信や成層圏通信プラットフォーム「HAPS」などは、今後どの程度広がっていくと思いますか。また、宇宙通信が地上通信のシェアを奪う可能性はあると考えますか。
国や地域によって可能性は異なると思います。グローバルサウスのような、これから地上通信インフラを作っていくエリアに関しては、(衛星通信やHAPSが)メインになる可能性はあると思います。たとえば、ブラジルだと国土の75%が、あのアメリカでさえ25%が携帯網に繋がりません。こういった環境だと使われるイメージがすごく湧きますよね。一方で、(地上で通信の行き届いた)日本では余程の技術革新がなければメインで使われる可能性は高くないでしょう。やはり、ある程度の期間までは宇宙通信はサポート的な分散ネットワークの1つという位置付けになると思います。
地上の通信品質を上げていくことは私たちの使命ですが、それに加えて地上でカバーできないエリアを「au Starlink Direct」などでカバーしていく取り組みはまだまだ続くと思っています。現在接続できるStarlink衛星数は650機ほどですが、この数が増えることで衛星通信でできることもさらに広がります。仮にIoTデバイスなども衛星通信に対応すると、それを通じたデータ収集などのビジネスも可能になるかもしれません。

KDDIは2025年度中に「au Starlink Direct」を米国でも使えるようにする(11月17日の記者会見より)
スマホが衛星にダイレクトにつながったりすると、あたかも通信キャリアが提供している通信サービスを衛星やHAPSで代替できるように見えてしまうかもしれません。ただ、やはり我々がこれまで地上で作ってきたカバレッジは相当なコストをかけて高いユーザビリティを目指して構築しているものなので、その全てを衛星やHAPSにリプレイスするのは難しいでしょう。
むしろ衛星もHAPSの通信も、MNO(日本だとNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)と組んで、それらの顧客のスマートフォンにそれぞれの携帯網から流れてくる形になるので、やはりMNOとの補完関係が続くのではないかと思っています。世界的に見ても都市部は基本的に同じだと思いますが、たとえば土地が広すぎてMNOがカバーしきれない場所については経済性の観点で一部リプレイスが起こると思います。
――SpaceXやAmazonなど、これまで通信を手掛けてこなかった事業者が参入し、グローバルで宇宙通信を提供しています。この流れを大手通信キャリアとしてどう見ていますか。
通信ビジネスにおいて、同様の規模の設備投資をしてグローバルに展開していくのかと問われれば、後発事業者として周波数獲得というディスアドバンテージがある以上、いきなり同じような方法論で展開することは難しく、強みを活かした戦略を模索しています。まずは日本の中で自立的なネットワークを運営していく。そのためにHAPSをはじめ、自分たちで運営できるインフラを色々と試してノウハウをため、より効率的なビジネスを展開していくことを目指しています。IOWN技術(※)の宇宙適用によるネットワーク構築もその一部です。
※NTTグループが推進する次世代通信基盤構想「Innovative Optical and Wireless Network(IOWN)」。光通信によって大容量・低遅延・低消費電力を実現する技術で、宇宙向けの展開も予定している

NTTのIOWN技術(10月31日のトークセッションにて投影)
逆に、通信キャリアとしてではなく、他のビジネス分野では話は変わってきます。たとえば、これから通信インフラを構築していく必要があるような国やエリアについて、すでに衛星コンステレーションを手がける方々に通信インフラは提供してもらい、通信や観測データを活用したユースケースを作るお手伝いができるのではないかと思っています。SpaceXやAmazonとの連携でグローバルビジネスを一緒に取り組んでいく可能性もあると思います。
通信キャリアとして、スマートフォンの端末メーカーやアプリ開発者などとの繋がりについては、引き続き通信キャリアが先導していくところかと思います。一方で、衛星通信に関してはグローバルに事業展開しているプレイヤーは限られています。「空が見えればどこでも繋がる」という同じ志を持つパートナーとして、そういったプレイヤーと連携してお互いの強みを補完することでエコシステムをより強化できると思っています。
驚異的ですよね。SpaceXは「衛星通信のサービスとプライスを改革する」と言って、周辺から難しいと言われながら本当に実現させたわけです。過去の衛星事業企画の取り組みなどの経験から、ロケットの打ち上げ費用がどれだけビジネスにインパクトを与えるかを知っていますが、彼らは自前の技術と資金でそれを成し遂げて、大量の衛星を低コストで打ち上げるようになりました。このビジネスを作り上げたことは正直すごいと思います。日本におけるStarlink Businessリセーラーとして、今後も同社との連携を高めていきたいと思います。
Amazonも革新的だと思います。コンシューマーも法人も誰もがAIを使う中で、どれだけ効率よくAIを実装してクラウドにつなげるかがポイントになっていますが、通信衛星のAmazon LeoをAWSに直接つなげることを前提としたゲートウェイを作り、通信が弱い地域でも高速で低遅延な通信を提供しようとしています。自社のアセットを使って、このネットワークを完成させようとしているのは非常に戦略的ですよね。同社のLeoについても高い関心を持って見ております。
安全保障やキャリア間連携への考え
――安全保障の観点で、日本として通信衛星を自前で保有する必要もあるかと思います。海外依存と自律性のバランスや、国家として取り組む上でのキャリア同士の連携についてどう考えますか。
他社さんとのこれからの連携はあり得ると思いますし、「つなぐ×かえるプロジェクト」のように、すでに災害時や防災時など、有事の際には一致団結して最適解を作るということが通信業界では実現できています。より高度に連携していくことで、さらに効率化できるのではないでしょうか。逆に平時の際は、やはり公平で適切な競争があることでサービスの品質を高め、ユーザーにも還元されていくと思います。
(「今のスピード感で海外との競争に間に合うのか」という追加質問に対して)それは誰のために、何の競争をするのかということがポイントです。日本をベースにした通信会社の使命は、日本国内の通信品質をより高めていくことです。海外の通信事業者ともうまく連携しながら、HAPSなども独自運用して“より強い通信をより早く届ける“ことを模索していきたいと思います。
確かにKDDIはいま海外のプレイヤーと組んでいますが、日本でも国産の衛星に関する支援は総務省が発表していますし、我々としても幅広く情報収集はしています。今後の展開次第では、キャリア間の連携も視野に入ってくると思います。
安全保障のことを考えると、たとえば政府機関が専用のネットワークを求めたとしても、そのために自前で何百機も衛星コンステレーションを作るのかといえば、コスト的にも厳しいですし、運用するのも大変です。なので、一部のアセットはグローバルの衛星コンステレーションを活用して、その中で専用帯域やゲートウェイを使って、その先のソブリンクラウドに繋がっていく。そんなフォーメーションであれば、今のグローバルコンステレーションを組み合わせる形でもできるのではないかと思います。我々が提供しているEutelsat OneWebのサービスであれば、そうしたセキュアな閉域接続が可能になってくると思います。

Eutelsat OneWebでは閉域接続が可能(10月31日のトークセッションにて投影)
宇宙通信でどうマネタイズする?
――宇宙業界全体の課題としてマネタイズがあります。通信会社としてどのような収益モデルが考えられますか。
さまざまな産業が大きく変化し、イノベーションを生み出す可能性があるのは、地球観測ビジネスの領域だと思います。衛星の観測データによって、これまで見えなかったものが見えるようになってきています。現状は、(多くの事業者が)それらの観測データの活用はまだ進化の過程であり、今後、価格や使い勝手も含めていかに活用いただけるかが重要になってきます。「こういう使い方ができるのだ」というユースケースを増やしていくことによって、新しい市場が形成できるのではないかと期待しています。
もう1つは、IOWN技術を海外展開することです。NTTグループとしてはこれをビジネスチャンスと捉えています。これからの宇宙通信の主流を無線から光に置き換え、高速・広帯域・省電力にしていくことで、宇宙ビジネスのゲームチェンジをしていきたいと考えています。
au Starlink Direct自体の価格がいくらという話もあると思いますが、たとえば、au Fast Laneや海外放題、auのサブスクリプションサービス「Pontaパス」など、いろいろな付加価値をセットで提供して、全体としてお客様にご利用いただくことが重要ではないかと思っています。また、他社のお客様にもau Starlink Directの価値を体感いただくために専用SIMを販売しています。宇宙通信のみというより、トータルでマネタイズしていくことが必要ではないかと思います。
HAPSについては、まずは災害時などの利用を想定しているので、そこで一般のお客さまから追加のお金をいただくのは難しいと思います。しかしながら、それにより蓄積される構築や運用の経験をセットにして、たとえば海外向けの商材として使えるという話になってくれば、新しいビジネスになる可能性はあると思います。

HAPSのイメージ(10月31日のトークセッションにて投影)
もう1つユースケースがあるとすれば、平時にはHAPSをどこかで滞空させることになると思われますが、その間に遊ばせておくわけにはいかないと思います。たとえば、国がいまドローン航路政策を進めていますが、ドローンは都市部じゃないところを飛行するので、その際の通信カバレッジをHAPSで補うことができればビジネスチャンスはあるかもしれません。