巡航ミサイルによる攻撃を防げないロシア防空網はすでに壊滅状態

米軍の大型輸送機「C-5」で運ばれるHIMARS(高機動ロケット砲システム)、7月14日パールハーバーで撮影、米陸軍のサイトより)
ロシアの最先端防空兵器基地攻撃に成功
ウクライナは8月以降、ロシアの石油関連施設や軍事工場を次から次へと無人機で攻撃してきた。
なかでも衝撃的だったのは、今年9月、キーウから1000キロ離れたバルト海沿岸のプリモルスク港、11月にオデーサから600~700キロ(ザポリージャから400~500キロ)離れた黒海沿岸のノボロシスク港やトアプセ港の石油ターミナルやタンカーなどの船舶を攻撃し成功したことだった。
特に、ノボロシスク港の攻撃の直後、近傍の最先端防空ミサイル基地をミサイル等で攻撃し成功させたことは驚異的だった。
飛来するミサイルを撃ち落とすために建設された最強で最先端の防空ミサイル基地が、飛来するミサイルを撃ち落とせずに、基地そのものが破壊されてしまったのである。
これは私にとってもインパクトが大きかった。ロシアと同じ防空ミサイルを保有している国々も同様の驚きであったと思う。
私の記憶では、ロシアの防空ミサイル基地が破壊されたのは初めてのことである。
これはウクライナの作戦が優れていたこともあるが、ロシアの最先端の防空兵器が、ロシアが発表していた能力はなく、劣っていたということでもある。
ウクライナのミサイルと無人機による攻撃要領、ロシアの防空基地が破壊されるに至った経緯と理由(防げなかった理由)について考察する。
ロシア主要港の防空の実態
クリミアの付け根の都市ジャンコイ、西部のセバストポリ、東部のフェオドシアなどには、防空兵器が主に野外に展開し、クリミア南部の山地には長距離監視レーダーが配備してあった。
これは、クリミアやクラスノダールには重要な海軍施設や石油積み出し用の施設があり、空からの攻撃から守らなければならないからだ。
これらの施設があるクラスノダール地方のノボロシスク港やトアプセ港を攻撃するには、ミサイル等の飛翔経路に幾重にも防空兵器関連施設が存在し困難を極めた。
図1は、クリミアからクラスノダールまでの間のロシアの主な「S-300/400」防空兵器(米欧のパトリオットミサイル「PAC3」に類似との情報もある)の配備とその防空範囲を示したものだ。
ウクライナがノボロシスク港やトアプセ港を攻撃するには、黄色やオレンジ色で示したように、ロシアの防空兵器の配備と防空範囲を通過せざるを得ないことが分かる。
ロシアの防空ミサイル(写真1)とウクラナの攻撃(図1)

左:写真1 「S-400」防空兵器、右:図1 防空カバーとウクライナミサイルの飛翔経路、出典:各種情報に基づき筆者が作成
ウクライナは、ノボロシスク港とトアプセ港を破壊するため、またミサイル等の攻撃成功の可能性を高めるため、飛翔経路にあるクリミアの防空兵器を破壊する必要があった。
クリミア配備の防空兵器等の事前破壊
ウクライナは、ノボロシスクやトアプセへの攻撃前の今年8~9月、クリミア配備の防空兵器や監視レーダーを以下のとおりことごとく破壊した。
●8月、クリミアの各地に展開していた防空兵器(クリミア配備のS-300/400防空ミサイルとその防空レーダー、「Nebo」長距離監視レーダー)を無人機で攻撃し破壊した。
ロシアの防空兵器を数日で大量に破壊したのは初めてのこと。
●8月、クリミア南部のアイ・ペトリ山頂のレーダー監視施設や衛星との通信施設群を、無人機で攻撃した。
●8月、大規模なエフパトリアに設置されている宇宙通信センターの電波望遠鏡「RT-70」を無人機で攻撃し破壊した。
これ以前に、米軍から供与されたATACMS(Army Tactical Missile System=陸軍戦術ミサイルシステム)を4発打ち込んで、衛星をコントロールする施設を破壊していた。
●9月、セバストポリ海軍基地に近いロシア黒海艦隊の主要通信拠点をミサイル等で攻撃した。司令部か作業所用の2つの建物に2発命中した。
●9月、ノボロシスク軍港周辺を哨戒していた多目的艦「スパサテル・デミドフ」を攻撃し、艦の航法および電子偵察通信の主要部分を破壊した。
ノボロシスク港やトアプセ港を攻撃
ウクライナは、前述の例にあるとおり、クリミア半島全域の防空兵器をほとんど破壊したと思われる。
このことにより、次に黒海沿岸のクラスノダール地方の港や石油関連施設を破壊することができるようになった。
図2 クリミアとノボロシスクの防空とウクライナの攻撃

出典:筆者作成
前段階:ノボロシスク基地により、長距離防衛されていたはずが、防空兵器が破壊された。
現段階:基地破壊経路の防空がなくなり、ミサイル等が容易に到達できた。
そうして、ウクライナは9月24日に無人機でノボロシスクとトアプセの両石油施設を攻撃した。
次に、トアプセ港に対して11月2日に無人機攻撃を行い、石油ターミナルやタンカーを破壊。
11月10日には、無人水上艇の攻撃により埠頭の一部を破壊。
11月11日には、フラミンゴ巡航ミサイルの攻撃により、石油タンクや輸出施設を破壊した。
フラミンゴ巡航ミサイルには、1トンの爆薬が搭載されていて、トアプセ港にはかなり大きな弾痕(クレーター)の映像が確認された。
続いて11月14日、ロシアのノボロシスクの港湾、石油施設および防空基地を無人機で攻撃した。
ウクライナはクリミアを越えて、次々とクラスノダール地方の港湾への攻撃ができるようになったのである。
ノボロシスク近郊の防空基地への攻撃と破壊
ウクライナは、長距離ドローン攻撃とウクライナが開発した巡航ミサイル「ネプチューン」で、11月14日早朝にノボロシスクのS-400防空兵器大隊の基地を攻撃した。
そしてこの時、4基のS-400発射機と2つのレーダーシステム、早期警戒レーダー「チーズボード96N6」と、目標捕捉レーダー「グレイブストーン92N6」を破壊した。
写真2 破壊された翌日(15日)のミサイル基地の衛星写真

出典:ウクライナ参謀部
ウクライナのメディア、キエフポストはこの作戦で「ロシアの防空に穴を開けた」と表現した。
しかし、私は穴を開けたどころではないと見ている。
クリミアなどに配備されていたS-300/400防空兵器が破壊され、ロシア領土内の石油施設や軍事工場が破壊されたのは、首都モスクワを除きロシアの防空施設がすでにほぼ崩壊状態だったからだろう。
この基地は、ノボロシスク港の西に配備されており、ノボロシスク港やその南のトアプセ港へのミサイル等の攻撃を途中で阻止するためのものであった。
この基地をグーグルアース地図でみると、8基のミサイルが2つの赤い○の部分に見える。この写真の南側にも4基の発射基が配置してある。
発射装置が合計12基と各種レーダーが配備されている。また、各種レーダーも見える。この数だと1個S-400防空大隊(1個中隊4個発射基×3個中隊)である。
基地は森林に囲まれ、発射基や建物などがミサイル着弾時に、破片が飛来して破壊されるのを防ぐための土手がある。
完全にミサイル基地の様相である。米欧日の防空ミサイル基地も同様の構造になっている。
写真3 ノボロシスク西のS-400防空ミサイル基地

出典:グーグルアース2024年10月19日
この基地内には、低空用のレーダーが2基配置されている。ミサイルの低空からの攻撃にも備えていた。
S-400防空兵器は広範囲の航空機やミサイル等を破壊するためのものであるため、近傍に短距離用の防空兵器が配置されていたはずである。
おそらく、完璧な防空組織であったと思われる。
しかし、なぜかこの防空基地が守るはずのノボシビルスクやトアプセが攻撃され、破壊されてしまっていた。そして、これらの要域のすぐ直後にこの防空基地自体が破壊されたのだ。
つまり、この基地は攻撃以前から防空の機能を果たしていなかったのである。
ロシアがミサイル攻撃を防げなかった理由
この3つの港と防空基地への攻撃事例は、敵の防空を突き抜けてミサイル等攻撃に完璧に成功した例である。
ロシアとしては、約600キロ離れた2つの港が破壊され、さらにそれらを守る最先端の技術を有するS-400防空ミサイル基地までも破壊されたことは、完全に予測不能であったことだろう。
ではなぜ、防空に失敗し、防空兵器そのものが破壊されたのだろうか。
考えられる理由は以下のとおりだ。
① S-400防空兵器には、ロシアが発表しているほどの能力がなかった。
②長距離防空(都市と要域防空)と短距離防空(戦場と基地防空)が組織的に機能していなかった。
③長期間防空戦闘を実施してきたために、発射基はあっても、ミサイルそのものが枯渇していた。
④防空部隊が昼夜24時間、戦闘態勢ではなかった。防空部隊兵の士気が落ちていて、通常の勤務ができていなかった。
これらのうち、どの可能性が最も高いのか。
それは、これまでクリミアやロシア領内の防空兵器がことごとく破壊されてきたこと、長距離防空兵器を守る短距離防空兵器の射撃映像を見ても、確実に命中している実績がないことから、①②の可能性が高い。
3年間というウクライナ戦争を考えれば、③④のことも併せて考えた方がよいかもしれない。
ロシアの今後の防空
ウクライナは、防空システムを破壊することを継続して実施するだろう。その結果、ロシアの石油関連インフラや軍事工場は破壊され続けるだろう。
戦争が継続すれば、ロシアはウクライナ領土内をミサイル等で無差別攻撃するだろうが、ウクライナもピンポイントでロシアの要域を破壊し続け、そしてそれは加速するだろう。
両国がミサイルを撃ち合うなかで、防空兵器がモスクワを除いて消滅していることを考えると、ロシアのダメージの方がはるかに大きくなる。
痛手どころか、ロシア連邦の崩壊にもつながるかもしれない。
S-300/400購入の中国・北朝鮮への影響
ミリタリーバランス2025によると、これらの防空兵器を最も多く導入しているのが中国空軍である。
S-300が約350基、S-400が約32基だ。
北朝鮮空軍は、ほとんどが使い物にならない「SA-2/3/5」を保有しているのだが、近年、S-300/400(北朝鮮名「ポンゲ5」)を実験している。
ウクライナ戦争では、ロシアのS-300/400が米欧の巡航ミサイル攻撃を全く防ぐことができていない。
特に、ミサイルが低空飛行になれば、ほぼ100%防げていない。
時速700キロ以下の巡航ミサイルを防げないのであれば、米欧の時速1000キロのミサイルは、当然防ぐことができない。
イランはS-300を保有しているが、今年6月のイスラエルと米国による空対地ミサイル攻撃を全く防ぐことはできなかった。
ということは、中国や北朝鮮は、有事で米軍が北京や平壌に巡航ミサイルを撃ち込むことになれば、その空を守ることはできないことになる。
米国が台湾に巡航ミサイルを大量に供与すれば、中国はそれを防ぐことはできない。
そして、日本の巡航ミサイルも北京の防空を容易に突き破ることができることになる。
中国はミサイルや空母で近隣諸国に脅しをかけているが、ウクライナ戦争を見る限り、自国の空を守れないことは明白である。
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