「私は決して犯人ではない」vs.「なにが無罪や、ええかげんにせえよ」 大荒れとなった王将社長射殺事件初公判

「餃子の王将」で知られる王将フードサービス(本社・京都市)の社長だった大東隆行さん(当時72)が2013年12月に射殺された事件で、殺人と銃刀法違反の罪に問われている指定暴力団、工藤会系組幹部の田中幸雄被告(59)の初公判が11月26日、京都地裁であった。無罪を主張する被告に対し、遺族側から「何が無罪や」などと叫び声があがり、法廷は一時休廷となるなど騒然とした状況だった。
田中被告は暴力団同士の抗争だけではなく、一般市民への度重なる襲撃などで特定危険指定暴力団に指定されている工藤会系の組幹部ということもあり、傍聴席と法廷の間には透明のアクリルの壁が設置され、被害者参加制度で法廷に入った大東さんの親族の席は、衝立(ついたて)で遮断されるなど、ものものしい雰囲気で公判が始まった。
検察側が、起訴状を朗読した後、罪状認否に立った田中被告は証言台の前に進み出ると、
「私は決して犯人ではありません。『決して』がつきます」
と大きな声で述べ、さらに、
「はばかることなく申し上げますが、任侠道を志すものにとって、濡れ衣の一つや二つ甘んじて受け入れます。だからと言ってセンセーショナルな事件までは、到底承服することができません。本事件は陥穽に陥ったものであり、私の不明を恥じいるばかりです。もう一度申します。 私は決して犯人ではありません」
と演説をぶった。王将事件での逮捕は捜査機関の都合ででっちあげられた冤罪だというのだ。
■「大切なお父さん、殺したんや」
田中被告の弁護士が、「同意見です。田中さんは無罪」と言うと、床に何かが落ちたような大きな音が法廷に響いた。そして衝立で見えなくなっている大東さんの親族席とみられるあたりから、女性の声が響き渡った。
「なにが無罪や、おい」
怒りに満ちた大声に、裁判長が慌てて、
「ちょっと落ち着いてくださいよ」
と不規則発言を制止したが、女性は止まらない。
「なにふざけんてるんや。ええ加減にせえよ。工藤会がなんやねん。一般人に手を出すいうんか。うちの大切なお父さん、殺したんや」
女性は次第に涙声になりながら、叫び続けた。
傍聴席からも加勢するように、
「被告人が殺しとる」
と声が飛んだ。
予期せぬ事態に騒然とする法廷。裁判長はやむなく、親族の女性に、
「出ていっていただきますよ」
と退廷を命じようとするが、
「なんや」
と女性はさらに食ってかからんばかりとなった。「日本一危険」ともされる特定危険指定暴力団の工藤会系組幹部の裁判とはいえ大波乱、異例の展開だ。

■〈目立つことはするな。息を潜めて行動しろ。〉
裁判長は休廷を告げ、傍聴席と法廷の間のアクリル板にブルーシートがかけられ、傍聴席からは法廷が見えなくなった。親族の女性は退廷させられたようだった。
公判が再開すると、検察側は冒頭陳述で銃撃現場に残されたタバコの吸い殻に付着していた唾液のDNAが田中被告のDNAと「完全一致」することや、発見された盗難バイクのハンドルのグリップ部分から拳銃を発射したときの「射撃残渣」が検出されたことなどを主張した。
また、事件から半年後の14年6月、「逃走車両か、バイク押収」というニュースが流れていた中で、田中被告が携帯電話のメモに、
〈見張りを怠ってはならない。警戒を解いてはならない。常に用心を怠らないこと。だからといって怯えすぎないこと。目立つことはするな。息を潜めて行動しろ。深海魚のように人知れず泳ぎ回れ〉
と書き残していたことが、「犯人性」につながるとも主張した。
ただ、犯行に使われた拳銃などの物証や目撃者などの決定的な証拠はない。間接証拠を積み上げたものだった。
一方で田中被告の弁護士はこう主張した。
「事件当時、田中さんは福岡にいた可能性がある」
「検察官立証の一部である科学的立証が、本来の意味での科学的立証となっているのか。いわゆるジャンクサイエンスも冤罪の原因だ」
■逮捕時から「決定的な証拠はない」の声
22年10月に田中被告が逮捕された時から、捜査関係者の中では、
「決定的な証拠はない。間接証拠をこれでもかと出して、田中被告しか犯人はいないという立証になる。それが裁判で通じると信じたい」
と厳しい法廷になるだろうという声があがっていた。

今後の法廷では、検察側が間接証拠として提出したタバコの吸い殻やバイク、防犯カメラ映像などの立証に多くの時間が費やされ、無罪を主張する田中被告が「犯人かどうか」が争われていく見込みだ。
初公判から判決まで公判は12回が予定され、来年6月に論告求刑・最終弁論が行われた後、さらに約4カ月後の来年10月に判決言い渡しが予定されている。
(AERA編集部・今西憲之)
・【写真】凶弾に倒れた大東隆行前社長
・14年前の銃撃事件と酷似の「餃子の王将」事件 “ヒットマン”田中容疑者「特命がきました」
・「餃子の王将」社長射殺 実行犯と創業家を結ぶ“裏事情”