片足を切断した元料理人と恋愛対象が男の元ヤクザ 仲睦まじい男2人ニコイチの暮らしぶり

ハトが舞う中、美川千春(右)に寄り添う井上憲江=大阪市西成区(安元雄太撮影)
拘留中に糖尿病で右足を切断した元料理人と、人生の半分を刑務所で過ごした元ヤクザ。普通なら交わりそうにない2人はいま、ともに70歳となり大阪・釜ケ崎の公園で仲むつまじく酒を酌みかわすようになった。
「ニコイチなんよ、私たち」
2人には余人にはうかがい知れない深い関係がある。
長年連れ添った老夫婦のように

「四角公園」で乾杯をする2人=大阪市西成区(安元雄太撮影)
大阪府警西成署の裏にある「四角公園」。美川千春と井上憲江(のりえ)の姿がいつものようにそこにあった。
右足をなくし、車いすに乗る自分のことを「美川さん」と呼び、「同級生と楽しく暮らしてるだけや」と話す美川に、井上も「親友いうんかな」と応じる。長年連れ添った老夫婦のような2人だ。
朝は元料理人の美川が用意した弁当を四角公園で食べる。歯がない井上が食べやすいよう美川がサラダを刻む。2人で市内の障害者が軽作業を行う事業所へ。生まれつき足の長さが違う井上に車いすの美川が速度を落としてあわせることも。逆に井上が美川の車いすを押すこともある。作業中も一緒だ。終わったら釜ケ崎へ戻り、同じ公園で缶チューハイや夕食を楽しむ毎日。防寒着を譲り合う場面もしばしば。2人は別々の部屋に住んでいるが、寝るとき以外はいつもそばにいる。

買い物に出かける2人。井上(左)の歩調に合わせ、美川が電動車いすのスピードをゆるめる(安元雄太撮影)
美川は島根県生まれ。中学卒業後、料理人の道へ進み、22歳で独立、大津市に店を構え、家族にも恵まれた。しかし10年前に罪を犯して逮捕。拘置所にいる際に糖尿病が発覚して入院し、右足を切断したという。
「足が2本あったら板前に戻ってた」というが、出所する際に西成の福祉マンションを勧められた。家族の元に戻らなかった。
松山市出身の井上は、「小さい頃から悪いことばっかり」と振り返る。けんかを繰り返し12歳で酒を覚えた。暴力団に在籍したこともあり、傷害など逮捕された回数は計14回。「人生の半分が刑務所」という。恋愛対象が女性ではないと気付いたのは14歳の時だった。
「西成に来たから出会えた」
釜ケ崎に流れ着いた2人が出会ったのは7年前。公園で井上が美川に声をかけたことで付き合いが始まった。そんな関係が深化したのは5年前、新型コロナウイルスに感染した井上を美川が看病したことだ。
「ノリちゃんを慰めなあかん思ったんや。美川さんはそんな男やねん!」と胸を張り、「タハッ」と笑う美川を見つめ、井上は「生きがいなんよ。この子がいれば、刑務所行かんですむんよ」とつぶやく。
気が付けば、2人の付き合いが始まってから井上が罪を犯すこともなくなった。「シャバ」にいる期間も今が一番長いという。
その思いに美川も応じた。「こんなおもろい人間、他におらん。西成に来たからノリちゃんに出会えたんや。タハッ」
ニコイチの暮らしはまだまだ続く。=敬称略
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大阪市西成区の「釜ケ崎」。かつて「労働者の街」と呼ばれたが、今では高齢化が進む。労働者向けの安宿「ドヤ」も、インバウンド(訪日客)の増加でゲストハウスとなるなど景色も一変した。故郷を離れ、名を変え、この街で生きる人々の悲喜こもごもの姿を追った。(写真報道局 安元雄太)