年内入試時代に逆行 関西の名門大が一般選抜枠を5割超に拡大した理由 入試課長が口にした意外な言葉

私立大学では入学者の6割が年内入試で決まる時代に、関関同立の一角である関西学院大学は年明けの一般選抜の枠を広げている。少子化により、各大学が早期に受験生を囲い込む流れがあるなかで、“逆行”する取り組みだ。そこには西の名門大学としての“ブランド復権の意地”があった。
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各大学が推薦などの年内入試を拡大するなかで、関西学院大学は逆行している。年明けに実施するペーパー試験である「一般選抜」の枠を広げているのだ。
入学者に占める一般入試合格者の割合は、2020年度は34.6%に縮小していたが、25年度には一般入試合格者の割合を53.1%にまで上昇させた。一般入試の志願者数は5年連続で増加し、25年度は延べ5万6千人を超えて50年ぶりに過去最多となった。
少子化のなかで、各大学が行っているのは、早期に学生を囲い込む「年内入試」だ。24年度、全国の私立大学では、年内入試(総合型選抜、学校推薦型選抜)で入学した学生は実に59%に上った。
■関学がペーパー試験で求める学生は?
年内入試はペーパー試験だけでは測れない、多様な才能を持つ学生を確保できることも魅力だった。旧AO入試にあたる総合型選抜は、英語資格や探究学習の成果、面接などで合否を決めることができる。関学も25年度は、合格者の入学が条件である総合型選抜で438人に合格を出した。現場の教員からは「総合型選抜で合格した学生が、ゼミで議論を引っ張っている」などと評判は上々だという。学校推薦型選抜を経て入学した学生も「全国各地から進学しており、真面目に取り組み入学後も確実に力を付けています。中退率が高いということもありません」と評価は安定しているそうだ。
このように学校推薦型選抜や総合型選抜で入学した学生に対して高い評判がある一方で、関学は一般入試の枠を広げる道を選んだ。なぜだったのか。

関学入学センター入試課の中村洋右課長が口にしたのは意外な言葉だった。
「入試制度ごとのバランスを踏まえた上で、受験生の多様性を重視しています」
中村課長は言う。
「一定の学力があるか、ないかを問うのが一般入試だと思うかもしれませんが、一般入試の中でも受験生の多様性を求めています」
毎年2月1日から1週間行われる関学の一般入試。例えば、学部個別日程は、文系学部は3科目のうち英語の配点が最も高かった。
「もちろん英語ができる学生には入学してほしいです。それだけでなく『古典が得意で文学部の日本文学を専門的に勉強したい』『統計が好きなので社会学部で社会調査を勉強したい』など専門に関心を持つ受験生にも入学してほしいのですが、英語の配点が高いことで、自分の得意科目を生かせず、合格のチャンスが狭まってしまうと感じる受験生がいるかもしれない、という意識がありました」(中村課長)
関学は21年度以降、一般入試の見直しに踏み切った。学部の特性に応じて、特定の科目の配点が高い方式(学部個別日程の傾斜配点型)を作った。社会学部なら3科目600点満点のうち、地理歴史もしくは数学から選択した1科目の配点を300点となっている。地理歴史もしくは数学が得意な受験生に有利な配点だ。
関学が学生の多様性を求めるのは、大学教育そのものへの問題意識が根底にあった。
「上の世代なら社会に出て成功するロールモデルがあったかもしれませんが、いまは答えのない時代です。学生たちが社会をどう生き抜くかを考えたとき、同じような個性の学生ばかり集めていいのでしょうか」(中村課長)
一般選抜の再設計で意識したのは、入学後の教室の風景だった。
1年生の約30人のクラスには、様々な入試を経た学生がいる。総合型選抜で入学した学生がいれば、国公立大を併願した学生も、得意な科目を伸ばしてきた学生もいる。文系学部では、数学ⅡBCまで学んだ学生は統計や分析役を担うかもしれないし、地理歴史などへの関心が強い学生は専門を学ぶモチベーションが高く、周囲に刺激を与えるかもしれない。
「同じ一般選抜で入ったとしても、得意分野や学び方は人によって違います。大学が、学問を探究し、知識を広げていく場所であり、学生の役割を生かせる“居場所”になってほしいと思っています」(中村課長)

■総合型選抜の限界
一般選抜の割合を増やすには、入学定員のどこかの枠を減らさなければならない。関学が見直したのは、指定校推薦の枠だった。中村課長は言う。
「指定校推薦で入学した生徒にも高い評判の生徒が多いことは事実ですし、本学に目を向けていないエリアの高校に指定校推薦の枠を出すことで、受験のきっかけになることもあります。しかし、学業面での状況を考慮し、推薦枠を適切に見直していきました」
推薦をめぐっては、評定平均値が“インフレ”しており、大学が評価できない問題が起きている。指定校推薦の枠を「減らす」と明言した大学もある。
教育ジャーナリストの後藤健夫さんは、一般選入試枠拡大の背景には「総合型選抜の限界」もあると言う。
「大学側は総合型選抜を通して、学力試験では測りにくい学習成果や意欲を評価しようとしていますが、何をどう評価するか、特に面接試験では評価の再現性が乏しいことや面接者によって基準がバラバラになるといった課題を多くの大学が抱えています。また、志望理由書などの提出書類はAIを使って書いたかもしれず、一般入試と比べて信頼性にも限界があります」
関学のように一般入試の枠を広げた大学はあるのか。
「ここまで一般入試の枠を拡大するのは、かなり珍しいと思います。定員割れに怯える多くの大学なら早くに学生を確保しなければならないので、一般入試枠の拡大は考えにくいことです。MARCHレベルの大学でも、上位大学が多くの入学者を確保することを恐れてできないかもしれません。関西では京大に落ちた受験生の受け皿は関関同立です。京大、大阪大、神戸大などの難関国立大学を受験する子たちの期待に応えなければならないからこそ、先手を打てたのでしょう」(後藤さん)
関学の中村課長は言う。
「国公立大では後期日程の廃止・縮小が進み、倍率は高止まりしており、3人に1人は落ちる計算です。本学が京大、阪大、神大の学生を取り込まなければならないと思っています」
25年度に始めたのが「8科目型」の共通テスト利用入試だ。8科目といえば、国立大の共通テストで必要な科目数でもある。中村課長は話す。
「これまでも7科目型はあったのですが、国公立大を目指してフル科目を勉強してきた受験生たちの枠をより広げました。文系学部であっても数学など理系の学びは必要です。バランスよく勉強することが得意な受験生への門戸を広げたいと思っています」
■関関同立の2番手か
一般入試枠の拡大により志願者数は過去最多となったが、一方で関関同立の“2番手”のブランドを揺るがす調査結果も出てきた。
東進ハイスクールが「関関同立にダブル合格した受験生の進学先」を独自に分析したところ、19年度は関学と立命館大学にダブル合格した場合、80.5%が関学を選んでいたが、逆転する。25年度は関学を選んだのは26.9%だった。関学と関西大学のダブル合格者の進学先も25年度は関学を選んだのは37.8%にとどまった。ただし学部別に見ると差はあり、経済学部では関学が選ばれる割合が高い一方、理工系では立命館大や関西大が選ばれている。中村課長は言う。
「協定等に基づく海外学生派遣者数が全国1位、卒業生4000人以上の大規模大学で就職率が全国1位、あるいは大学院への進学率の高さ等、入学後の教育や成果を受験生に伝えきれていない課題もあります」
いま関関同立は進化している。前出の教育ジャーナリストの後藤さんは言う。
「立命館大は理系学部を様々な手段で充実させています。特に情報理工学部を大阪いばらきキャンパスに移転させて他学部や地域との連携をしやすくしたことも大きかった。関西大は、各大学の総合型選抜の合否の基準が抽象的でわかりにくいところを、選考の評価のポイントも詳しく公表しています。どこで合否が決まるかが分かっているから、受験生は安心して受験できるのでしょう。関関同立の他大学が進化するなかで、関学も存在感を見せないといけなくなりました」
関学は21年度に理工学部を理学部・工学部・生命環境学部・建築学部の4学部に再編した。4学部のある神戸三田キャンパスでは、25年春に学生寮を新設。起業やチャレンジができるインキュベーション施設を併設しており、魅力アップを図っている。後藤さんは言う。
「社会が多様化して社会課題が山積する中で、多様な考えを受け入れて最善解や納得解を導き出せなければ、社会課題は解決できないです。だから大学も多様な考えや立場の学生を受け入れる必要があります。かつてのような学力試験で輪切りにしていては多様で優秀な学生を確保できないです。多様性を重視した教育や選抜試験を、どの大学も試行錯誤しているところです」
(AERA編集部・井上有紀子)
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