堺のディープ酒場「市場」のれんをくぐると昭和空間 卵12個使った「だし巻き」が名物

交差する路地に立ち飲み店が軒を連ねる「市場」。昭和にタイムスリップしたような風景が広がる=堺市堺区
堺市の東の玄関口としてにぎわう南海堺東駅前(堺市堺区)。大阪・関西万博のテーマソングを歌った人気デュオ「コブクロ」結成の地として知られる堺銀座商店街の少し南に、地元の人から「市場」と呼ばれる昭和にタイムスリップしたような裏酒場がある。路地には立ち飲み店がずらりと並び、会社帰りの男女らが酒や肴(さかな)を楽しんでいる。南海難波駅から急行列車で約10分と便利にもかかわらず、地元以外ではあまり知られていないディープスポットを訪ねた。

88歳まだまだ現役

高砂屋名物のだし巻き(下)とたたきごぼう。冷えたビールとの相性も抜群だ
市場の老舗「高砂屋」ののれんをくぐると、コの字形のカウンターの奥から「いらっしゃい」と威勢の良い声が響いた。年季を感じる店内は落ち着きがあり、清潔に保たれている。
「いっぺんこれ食べてみて。卵12個と、かつおだしをたっぷり使うてます」
主人の高岡正さん(88)が差し出した名物の「だし巻き」は、シンプルながらも絶妙なバランスで納得の味わいだ。パリパリ食感がくせになる「たたきごぼう」や、ちょっと甘めの鶏の「きも煮」も絶品。味の安定感が店の歴史を物語る。
昭和26年に母親が開いたうどん店を中学卒業後から手伝い、少しずつ事業を拡大していった。58年には5階建ての自社ビルを構え、立ち飲みや割烹(かっぽう)料理店を経営。当時は堺東全体が活気にあふれ、高岡さんの店も繁盛していたという。
今は飲食業を縮小し1階部分を残すのみだが、「店でお客さんとのコミュニケーションをとれる。幸せですよ」と話す。
客の相手も調理姿も88歳とは思えぬほど軽やかで、「寒くなってきたからかす汁を食べたいな」という常連客のリクエストに「ほな、そろそろ作ろか」と笑顔を見せる。かす汁は長野県の酒蔵から50年来取り寄せている酒かすを使用。だしの材料も独特だそうだ。

常連客の相手をする高砂屋の高岡正さん(右)。料理だけでなく会話を楽しみに通う客も多い
名前の由来は
「実は堺東駅前は7つの商店街で構成されているんです」。そのひとつの堺東中瓦町商店街で振興組合理事長を務める高岡さんの息子の武史さん(61)はこう話す。
市場の一角で不動産業を営んでおり、地元事情にも詳しい。武史さんによると「市場と呼ばれるエリアはもともとほんまの市場で、豆腐屋、魚屋、青果店などが並んでいた」という。
しかし高齢化で跡継ぎのいない店が2000年代から撤退を始め、その狭い空き店舗を生かして立ち飲み店が増えていったそうだ。堺東の商店街には新旧さまざまな飲食店が入るが、「10年以上営業を続ける店が多いのが市場の特徴。堺にこんな場所があることを知ってほしい」と語る。
個性いろいろ
市場をもう少しぶらりと歩いてみる。魚料理が豊富な「栄屋」のウリは本マグロの希少部位。この日のおすすめは頰肉のステーキや「目玉煮」。カウンターには旬の煮魚や焼き魚が所狭しと並べられ食欲をそそった。
店主の薮栄一さん(63)は「ここは昭和の香りがプンプンする個人店が多い。それぞれに個性があるのであちこち立ち寄ってみて」と楽しみ方を伝授してくれた。
ほかにも主婦が10年以上前に始めた「家庭料理花みち」や、常連客で常にいっぱいの「おたやん」、肉料理が人気の「鉄板バルHILO宗友」など、気になる店が数多くあり、目移りしてしまう。座って飲める店もあった。
来年2月には、堺東商店街とその周辺で取り組む恒例のバルイベントが開催予定。これを機に堺のディープ酒場をさらに探検してみるのもよさそうだ。(北村博子)
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年末は家族や友人と酒を酌み交わしながら今年一年を振り返りたい。たまには普段と違う場所で飲んでみるのはいかがだろうか。関西各地にある知る人ぞ知る飲み屋街を紹介する。