台湾有事巡る高市首相答弁、「質問した方が悪い」はSNSでどのように広がったのか 外交問題の裏で盛り上がる「事実の2次創作」【データ・インサイト】

衆院予算委員会で立憲民主党の岡田克也氏の質問に答弁する高市早苗首相=2025年11月7日

 台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁に端を発した日中両国の対立は、収束する気配が無い。中国側は訪日客の渡航自粛や水産物の輸入手続き停止といった「対抗措置」を講じただけでなく、12月6日には海軍の空母から発艦した戦闘機が、航空自衛隊の戦闘機に対してレーダーを照射。事態がエスカレートした。 

 一方、SNS(交流サイト)上では日本独自の闘いも繰り広げられている。「答弁した高市首相が悪いのか、国会で質問した立憲民主党の岡田克也衆院議員が悪いのか」という議論だ。主に後者、つまり「答弁を引き出した岡田氏が悪い」という主張を軸に展開されている。 

 外交問題の最中に「国内の戦犯は誰か」という内向きの議論はなぜ、どのように盛り上がったのだろう。実態を探ろうと、X(旧ツイッター)のポストデータを解析して調べてみた。 

 ちなみに、この記事で「首相と岡田氏のどちらが悪いのか」については全く論じていないということは、あらかじめ断っておきたい。(共同通信・中田良太) 

【グラフ➀】NTTデータの「なずきのおと」で調査

▽序盤は駐大阪総領事ポストへの反発 

 この記事のために行った分析は全てNTTデータのSNS分析ツール「なずきのおと」を利用した。期間は高市氏が台湾有事を巡る「存立危機事態」について答弁した衆院予算委員会が開かれた11月7日から、自衛隊機がレーダー照射を受けたと防衛省が発表した翌日の12月8日に設定。同省の発表は7日未明だが、反応を多く抽出するため8日とした。 

 立民または岡田氏と同時に、中国へ言及した日本語ポストを対象とし、計84万件を抽出。併せて、1日当たり約1万件を解析し、頻出語句を上位100位まで調べた。 

 立民側を対象ワードにしたのは、この議論が「立民側が悪い」という主張を軸に展開されていること、また高市氏を対象ワードに設定するとシステム上、今回のテーマと無関係なポストを大量に拾ってしまうことが主な理由だ。高市氏に言及したポストを除外したわけではない。 

 日ごとの推移はグラフ➀の通りとなった。リポスト(再投稿)や引用も含め1日平均で2万6千件がポストされていた。

 答弁後、最初にピークを迎えたのは11月11日。8日に中国の薛剣駐大阪総領事による問題の投稿があり、10日に日本政府が強く抗議。立民の大串博志氏が国会で高市首相へ答弁撤回を迫り、首相が撤回しなかったという一連の経過が注目を集めたようだ。 

 ただ、最初のピーク時には、駐大阪総領事ポストへの反発が多かったとみられる。この時期の頻出ワードを見ると、立民を糾弾するワードよりも「首」「総領事」「大阪」といった中国側ポストへの言及が上位で、立民は経緯を説明するためのネット記事の引用などで登場したケースが多かった。 

衆院予算委で質問する立民・岡田氏=2025年11月7日

▽中国の「対抗措置」で急上昇 

 グラフ➀の通り、期間中で最もポスト件数が多かったのは答弁から12日後の11月19日の8万9千件。答弁があった7日は550件ほどだったから、160倍以上だ。14日まで下降気味だったトレンドが15日から上向き、19日にピークを迎えている。なぜこんなにも伸びたのだろう。 

 この頃の時系列と突き合わせてみたい。14日、中国外務省は日中の「人的交流の雰囲気が著しく悪化し、中国人の身の安全に重大なリスクをもたらしている」として、日本への渡航を控えるよう注意喚起。中国側の反発は「経済的威圧」へ発展した。 

 15日には中国の渡航会社が自粛を呼びかけキャンセルに無料で応じるといった動きが報じられ、日本経済への影響を懸念する声も上がった。 

 こうした中、15日の頻出ワードにこれまでに無い語句が登場した。「質問者」と「火付け役」だ。このワードが書かれ、広く拡散されたポストを特定して確認したところ、経済にまで波及するに至った国家間摩擦の「火付け役」は質問した立民側だという主張だった。 

 14日までにも、同主旨のポストはほそぼそと投稿されていたが、頻出するほどではなかったし、既に述べた通りポスト件数は下降気味だった。だが、15日を境に件数自体が急増し「岡田」「#立憲民主党は日本にいらない」などが頻出上位ワードに上がってきた。

▽「スパイ」説がいつのまにか前提に 

 18日から頻出し始めたワードがある。「スパイ」だ。インターネット番組の出演者による発言が主なきっかけとなり、SNS上で「岡田氏は中国のスパイ」というレッテル張りが広がった。

 18日ごろから、立民や岡田氏に言及したポストは「岡田氏が中国を利するために質問した」という設定が前提の言説へ変質していったとみられる。 

 例えば23日、24日に頻出した「真意」という単語を含む多く拡散されたポスト。岡田氏が台湾有事を巡る質疑をした真意を問う内容で、「中国のため」という結論を誘導するものだった。下旬には「媚中」というワードも頻出した。 

 11月末頃になると、新たな論法が支配的になる。岡田氏の出自を題材にした“個人攻撃”だ。 

中国からの到着便などが表示された羽田空港のモニター。中国政府は高市首相の台湾有事を巡る国会答弁に対抗し、渡航自粛勧告を出した=2025年11月22日

▽国会質問の背景に「親族が経営する企業の優遇」? 

 11月下旬も後半になると、「立民・岡田氏が悪い派」のX利用者の中では、既に岡田氏は「高市首相の口を滑らせるよう誘導した」という設定が固定化したようだ。 

 11月末頃から12月5日まで、頻出ワードで特に目立ったのが岡田氏の出自に関する語句。100位以内に10語以上ランクインしている日も複数ある。 

 主なポストを確認すると「一族が経営する企業が中国で優遇されている」という見立てを根拠にしているようだ。「高市首相答弁を誘導した背景には、こうした利益供与の関係がある」旨、唱えている。 

 そうした設定を前提に、岡田氏の親族まで登場させて中国の工作員のように扱う画像もばらまかれていた。 

 ただ、12月6日にはポストが1万件未満にまで落ち込んだ。約1週間で一通り「出自ネタ」を消費し尽くしたのかもしれない。頻出ワードは岡田氏出自関連の語句が減り、「#立憲民主党にうんざり」が上位に返り咲いていた。 

 このまま落ち着くかに見えた立民、岡田氏を巡るポストだが、レーダー照射が再燃させてしまった。調査最終日の8日は2万件を回復している。 

中国軍機が自衛隊機へレーダー照射したと発表する小泉進次郎防衛相=12月7日未明、防衛省

▽取材後記:「二次創作」的に発展するファクト 

 強大な軍事力、経済力を持つ隣国とのトラブルの最中に国内の「戦犯」探しが盛り上がる現象は興味深くもあるし、「日本人って国際問題になると内輪もめしちゃうのかな」と心配にもなる。 

 また、筆者は記者なので、権力者の口を意図的に滑らせるなどと言う質問テクニックがあるなら、ぜひ身に付けたい。インタビューで繰り出せば特ダネも書き放題だろう。ただ十中八九、そんな超能力は存在しないので、踏み込んだ発言を引き出すのは難題であり続けるのだと思う。 

 ここまで読んでくれた人の中には、一部Xユーザーが岡田氏に抱いた疑問と同様に、筆者がこの記事を書いた真意を問いたい読者もいるかもしれない。その点には、以下の通りお答えしておく。 

 「決してあってほしくはないが、日本に今以上の『危機』が迫った場合に『国内のネット世論はどう振る舞うのか』を考える機会になると思ったから」 

 調査を進めるほど、「事実の2次創作」と言いたくなる現象が続発した。「岡田氏の真意」が独自に解釈され、ファクトがどんどん発展していると感じた。 

 加えて、そうしたファクトの根拠とされる情報や画像、映像は、筆者にはどれもぴんとこなかった。前提となる世界観が共有されていないからだろう。 

 ただ、拡散されるうちに、ほぼ事実(のようなもの)として扱われていたから、SNSでは投稿数の多さが信頼性を醸成するのかもしれない。 

 そんなことを考えていたら、別件でネットリテラシーの専門家に取材した際に言われたフレーズを、ようやく理解できた気がした。 

 「SNSでは事実よりも『信じたいナラティブ(物語)』が優先される」