ウクライナを悩ましてきたキンジャール搭載のロシア戦闘機を滑走路で撃破

弾道ミサイルを発射するミグ31戦闘機の破壊, MiG-31戦闘機の特殊な役割, MiG-31戦闘機を破壊したかった理由, MiG-31の一瞬の隙を突いた攻撃, 一瞬の隙を突く作戦を可能にしたもの, ますます孤立するクリミア半島

米空軍の第4世代・第5世代機に搭載予定の最新兵器を積んでテスト飛行する「F-16」戦闘機(2025年11月25日撮影、米空軍のサイトより)

 ウクライナ保安庁(SBU)は2025年12月18日、クリミアでロシアの防空システムとともに特殊な戦闘機を破壊した。

 クリミアにたった1機だけ配備されているこの特殊な戦闘機を撃破したことは、今後のウクライナ戦争を見る上で重大な意味を含んでいる。

 ウクライナが被っている弾道ミサイルによる被害を、防空兵器以外の手段で減少できる可能性が出てきたからだ。

 また、これまで実施してきたクリミアの防空網の破壊と合わせて、クリミアをさらに孤立させ、ロシアがクリミアを作戦基地として使えなくなってきたことを証明した事案でもある。

 

 今回、ウクライナが最も破壊したかったこの戦闘機を、ミサイルを搭載して離陸する直前のタイミングで破壊できたことの意味は大きい。

 その実現には、クリミアのロシア空軍の動きがウクライナに丸見えになっている必要があり、SBUが特殊なサポートを受けた結果と考えられる。

 そこで、今回はSBUが各手段・能力を活用して行い成功させた特殊な作戦について考察する。

弾道ミサイルを発射するミグ31戦闘機の破壊

 SBUが運用するアルファ特殊作戦部隊は、クリミアセバストポリ港近郊のベルベック飛行場に配備されていた以下の特殊な戦闘機と防空システムを破壊した。

①特殊な戦闘機:「MiG-31」戦闘機1機

②防空システム

・「ネボSVU」長距離探知レーダー2基

・「S-400」防空ミサイルシステムの一部である「92N6レーダー」

・「パンツィリS2」短距離地対空ミサイルシステム

左写真:ドローンが攻撃直前に撮影したMiG-31  右図:MiG-31要図

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出典 左:ウクライナ治安局、右:各種情報を基に筆者作成

 また数日後、ウクライナは、同飛行場で「Su-27」戦闘機2機を破壊した。

 SBUによると、このMiG-31戦闘機は対地ミサイルを搭載し、Su-27戦闘機の1機は兵器を満載した状態であり、ミサイル投下作戦を実行するために離陸直前であったと推測されている。

MiG-31戦闘機の特殊な役割

 ウクライナは今回の攻撃の中で、最も破壊したかったのがMiG-31であったと考えられる。

 この戦闘機は、キンジャール空対地弾道ミサイル搭載型と長距離空対空ミサイル「R-33(射程120キロ)/37(射程200キロ)」搭載型があるが、ウクライナが痛めつけられているのがキンジャール搭載型であった。

 現在、キンジャールミサイルを空中発射できるのは、キンジャール搭載型MiG-31×24機と「Tu-22M3M」型爆撃機だけのようだ。

 Tu-22爆撃機は、コラ半島の基地や極東に避難しているために、この機で攻撃するには、移動のために時間がかかりすぎるため、頻繁に実施するのは難しい。

 このことから、ウクライナとしては当面、数に限りがあるMiG-31を破壊することが求められた。今後も、この機がクリミアやウクライナ国境近くに飛来してきたところを破壊する必要があるだろう。

 もしも、MiG-31が搭載するキンジャールミサイルを撃ち漏らした場合は被害が大きい。

 これを防ぐためにはこの機を破壊すれば、キンジャールを使った攻撃回数を減少させることができると考えるのは当然のことである。

MiG-31戦闘機を破壊したかった理由

 破壊したかった理由は、この戦闘機から発射されるミサイルの撃墜率が低いことにある。

 例えば、ウクライナ空軍による日々発表資料から、2025年12月1か月間のロシアのミサイル攻撃とウクライナの撃墜状況を算定すると以下の通りである。

●ロシアの巡航ミサイル攻撃弾数は120発でウクライナによる撃墜が99発(撃墜率83%)

●スカンデル弾道ミサイル攻撃弾数は概ね37発で撃墜が9発(撃墜率25%)

●キンジャールミサイル攻撃弾数は17発で撃墜が4発(撃墜率24%)であった。

図 各種ミサイル攻撃様相(イメージ)

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筆者作成

 ロシアの発射弾数とウクライナの撃墜数は、ロシアが飽和攻撃の様相やウクライナの防空兵器の保有数によって大きく異なるので、比較的長期間、概ね半年という期間で見る必要がある。

 そこで、今年6月から12月までの約7か月の期間の撃墜率を、ミサイルの種類ごとに見てみる。

 各種巡航ミサイルが78%、イスカンデルミサイルが40%、キンジャールミサイルが28%であった。

 ミサイルの種類ごとに撃墜率が大きく異なっており、巡航ミサイル、イスカンデル、キンジャールの順に撃墜率が低くなる。

 それは、飛翔速度が遅い各種巡航ミサイルだと撃墜率が高く、速度が速い弾道ミサイルだと撃墜率が低くなっているということだ。

 飛翔速度が遅い巡航ミサイルがマッハ0.7程度、飛翔速度が速いイスカンデルが約マッハ6、最も速いのがキンジャールで約マッハ10である。マッハ10になると、撃墜率が極端に低くなる。

 イスカンデルとキンジャールは同じ弾道ミサイルで、弾頭重量も同じ500キロである。

 異なるのは、イスカンデルは地上発射で、キンジャールは高速で飛行する戦闘機・爆撃機からの空中発射である。そのため、キンジャールの飛翔速度は最高でマッハ10程度になる。

 ウクライナが弾道ミサイルを撃ち落とすためには、米国製パトリオットミサイルの「PAC-2」では難しく、「PAC-3」だと可能である。

 PAC-3の弾数は米欧からの供給が限られていて、ロシアの弾道ミサイル攻撃を阻止できずに悩まされてきた。このためウクライナは、その他の方法でその回数を減らしたいと考えていたようだ。

MiG-31の一瞬の隙を突いた攻撃

 では、今回のケースでは、ウクライナはどのようにしてキンジャール搭載のMiG-31を破壊できたのか。

 MiG-31を飛行場で破壊したことに関しては、ベルベック飛行場のコンクリートのハンガー(格納庫)から出てきたところを狙ったのか、あるいは、ウクライナから攻撃の可能性が低いロシア領土内から飛行してきたところを狙ったのか、正確なところは不明だ。

 だが、おそらくウクライナ国境から遠く離れた他の飛行場から飛来してきてベルベック飛行場に着陸し、そこでキンジャールを搭載して離陸する予定だったのではないかと考えられる。

 その理由は、以下の通りである。

①ロシアがウクライナのミサイルやドローン攻撃を避けるために、戦闘機を国境から離れた空軍基地に移動していた。

②重い弾道ミサイルを搭載し、ミサイルを発射して帰投するまでの燃料を補給するために中継地点のベルベック飛行場に飛来した。

 

 そして、MiG-31は、着陸からミサイル搭載、離陸までに必要な数時間以内という一瞬の隙を突いて攻撃されたようだ。

図 MiG-31の移動・着陸・離陸の動き(イメージ)

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出典:各種情報に基づき筆者が作成したもの(以下同じ)

一瞬の隙を突く作戦を可能にしたもの

 ウクライナは一瞬の隙を突いた攻撃を可能にした。そのためには、次の3つの条件が必要である。

①クリミア半島全土の軍事関連施設や兵器の動向をリアルタイムで知ること。

②一瞬の隙を見つけた瞬間(短時間)に攻撃できる手段を持つこと。

③攻撃を防ぐ防空システムが破壊されていること。

 軍用機の動きをリアルタイムで掴むためには、通信電波情報とエリント情報を入手する方法がある。両方を同時に入手できれば、その情報はほぼ間違いなく正確だ。

 エリント情報は、エリント衛星やエリント収集機で収集できる。軍用機からレーダーの電子情報が出されれば、その情報を入手し、機種とその位置(移動状況でも)を刻々と捉えることができる。

図 ウクライナ電子情報収集(イメージ)

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 映像の偵察衛星情報は、撮影したその瞬間の情報である。そのため、その後の行動を予測できない欠点があり、その情報を使って直ちに攻撃に移行するのは難しい。

 また、大型のFPV(一人称視点)ドローンで攻撃するには、ウクライナの領土から数百キロ離れていれば、発進して目標に到達するのに数時間必要になる。

 そのため、クリミアの動く目標が停止している短い時間にそれを破壊するには、目標に近い位置から攻撃する必要がある。

図 海上からのドローン攻撃(イメージ)

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 具体的にはどう攻撃したのか。

 ウクライナは、クリミアの攻撃目標の近くの海上にドローン搭載の無人艇を待機させて、そこからドローンを発進させて攻撃したのではないかと考えた(図)。

 加えて、ドローンが破壊されずに目標に突入するためには、防空兵器のシステムが破壊されていることが必要であり、防空兵器そのものの性能が米欧の兵器に比べて、かなり悪いことからできることでもあった。

 ロシアの防空兵器がことごとく破壊されていることについては、JBpress『巡航ミサイルによる攻撃を防げないロシア防空網はすでに壊滅状態』(2025.11.23)に述べている通りである。

ますます孤立するクリミア半島

 MiG-31の破壊は、戦闘機1機を破壊したという事実だけではなく、そこから見えてくる以下のウクライナの強点やロシアの弱点がある。

(1)クリミアの飛行場でミサイルを搭載して出撃する直前のMiG-31を破壊できたことは、今後のキンジャール攻撃を阻止するためのスタートとなった。

(2)一瞬の隙を突いて攻撃できたことは、ウクライナはクリミアの重要拠点の動きがリアルタイムで分かっていて、いつでも攻撃できる手段があるということを証明した。

(3)ロシアの戦闘機などが、遠方からクリミアに着陸して、基地を中継して再び攻撃する要領ができなくなりつつある。

(4)黒海では、ウクライナの無人艇がロシアからの制約を受けずに自由に動けている。ロシアは、この海では潜水艦を除いて行動できないために、無人艇の作戦を止められない。

(5)クリミアの防空網は破壊されていることから、ウクライナの無人艇から攻撃され、戦闘機の中継地点として使用することに制限を受けている。黒海はロシアにとって安全な海域ではなくなった。

 前述の5つのことから、クリミア半島は、ロシア軍の作戦範囲から切り離されて、ますます孤立してきているように見える。

 ウクライナはあらゆる情報収集手段を使って、ロシアの行動を観察してパターンを捉え、ロシアが最も痛手を受ける弱点に対して攻撃を行う。

 今回の攻撃は、小さなドローンで大型の爆撃機を破壊したことと同じレベルのウクライナの頭脳戦と言ってよいだろう。 

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