京都駅前、高層ビル解禁へ?「市民脱出」を止める壁は高さ60メートルかーー1億円マンションとオフィス難の限界

京都駅前の混雑常態化

 東京や大阪から列車が到着するたびに、大勢の乗客が駅前にあふれる。京都観光が閑散期に入り、中国人観光客が減ったからか、烏丸口バス乗り場の行列は少し短いが、駅前の混雑は変わらない。年明けの京都駅(京都市下京区)は普段どおりの光景を見せた。

【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが50年前の「京都駅」周辺です!(計9枚)

 日が暮れたバス乗り場から北側を眺めると、京都タワーのイルミネーションが輝く。高さ31mの9階建て本体の上に、工作物として100mのタワーが設置されている。周辺の建物も京都タワーの本体とほぼ同じ高さだ。

 京都市では古くから景観保護のため、木造の塔として日本一高い54.8mの東寺(南区)五重塔以上の建物を建てないことが不文律となっていた。今は地域ごとに高さが制限され、この辺りは上限31m。京都タワーも工作物のタワー部分を除いてこの制限内だが、この風景が将来、変わるかもしれない。

民間投資と景観保護のせめぎ合い

京都駅前の混雑常態化, 民間投資と景観保護のせめぎ合い, 新景観政策の規制転換, 市民の間で賛否両論

高さ60mの高層化が計画される京都中央郵便局(画像:高田泰)

 京都市の有識者会議(座長・大庭哲治京都大経営管理大学院教授)は2025年末、

・京都駅烏丸口の駅前広場に接するエリア:上限60m

・その外側と駅南側の一部:上限45m

に規制緩和する意見書案をまとめた。60mは1997(平成9)年に開業し、景観論争を巻き起こした京都駅ビルと同じだ。

 有識者会議は2025年4月、京都駅前の20年後を検討する目的で設置された。年末の会議では

「京都独自の景観を保護するため抑制的に考えるべき」

「民間投資を呼ぶには一定の高さが必要」

などの意見が出た。

 京都駅周辺は建物の高さや容積などが制限されない国の都市再生緊急整備地域に指定され、駅ビルに近い京都中央郵便局周辺で高さ約60mの複合施設整備計画がある。京都市まち再生・創造推進室は

「近く意見書案を公表してパブリックコメントを募り、年度内に有識者会議の意見をまとめる」

とスケジュールを明らかにした。

新景観政策の規制転換

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上限31mに規制される京都タワー周辺(画像:高田泰)

 京都市は2007(平成19)年、新景観政策を導入した。都市計画法で定められた高度地区は10、12、15、20、25、31mの6段階、風致地区は8、10、12、15mの4段階などに建物の高さを制限する内容だ。新景観政策以前は高度地区に上限45mの区域があったが、削除して規制を強化した。京都駅前は高度地区に該当する。

 しかし、10年も経たない間に問題が浮上する。そのひとつがオフィスやマンション用地の不足だ。京都市内の土地は既に満杯状態。廃校となった小学校跡など残った空地が次々にホテルになり、高さ制限でタワーマンションも建てられないからだ。

 オフィス仲介大手・三鬼商事の調査では、オフィス空室率は2025年11月で4%を下回った。1坪当たりの平均賃料も大阪市や神戸市より1000~2300円高い1万4000円に迫っている。不動産サイト運営のライフルによると、2024年新築マンション平均販売価格は東山区、中京区、北区で

「1億円」

を超えた。その結果、人口は緩やかな減少が続き、2020年の146万人が2025年で143万人に。ところが、京都府南部14市町と滋賀県西部5市で構成する京都都市圏の人口は増加を続け、1980年の236万人が2020年で

「287万人」(22%増)

に増えている。市民が安い住宅を求め、滋賀県大津市などへ流出したわけだ。

 このため、京都市は2015年、交通拠点の駅周辺で規制を緩和する地区計画見直しを打ち出した。対象には京都駅、太秦天神川駅(右京区)、桂川駅(南区)・洛西口駅(西京区)、竹田駅・くいな橋駅(ともに伏見区)、十条駅(南区)・上鳥羽口駅(伏見区)が選ばれている。

 さらに、2020年に街づくりに貢献する建物の高さ制限を緩和する特例許可制度を導入したほか、2023年に部分的に規制を見直す新たな都市計画を施行した。規制緩和は繁華街の四条河原町を含み、京町家が多く残る「田の字地区」(中京区、下京区)を対象外としているが、京都駅南側の大通り沿いで20~25mの上限を31mに引き上げている。

市民の間で賛否両論

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京都駅近くに移転した京都市立芸大(画像:高田泰)

 京都駅前は商業施設や観光施設、オフィスなどさまざまな施設が集積し、四条河原町と並ぶ拠点になった。開発が遅れていた駅の東側には、京都市立芸術大が進出し、新たなにぎわいを形成しつつある。

 しかし、駅が整備された当時は市街地の南端だった。東寺や東本願寺、西本願寺が近いものの、京町家は少ない。駅前で客待ちするタクシー運転手(67歳)は「駅前だけならもう少しビルが高くてもええやろ」と意見書案に賛同する。

 京都駅周辺の高さ制限緩和を求める意見書を京都市に提出した京都商工会議所は

「世界から人が集まる京都の玄関にふさわしい姿に見直すべき。有識者会議の結論を期待しながら見守っている」

と述べた。これに対し、駅前地下街の飲食店従業員(48歳)は

「多くの観光客は京都の景観を楽しみにしている。安易に犠牲にしていいものか」

京都ならではの風情を醸し出す京町家は、2009(平成21)年度の約4万7000軒が2024年度に約3万4000軒(28%減)まで減った。「京都駅前で規制緩和すれば、なし崩しに田の字地区へ波及するのでないか」と心配する。

 京都弁護士会は11月、京都中央郵便局の高層化に反対する意見書を松井孝治京都市長や金子恭之国土交通相に提出した。60mの高さが新景観政策を逸脱するなどを理由に挙げ、京都市がこれまで進めてきた高さ制限緩和の動きを

「50年後、100年後を見据えた都市政策より目先の経済的利益を優先した」

と批判している。

 千年の都の景観は市民にとってかけがえがない財産だが、オフィスやマンション不足は早急に対処しなければならない課題だ。パブリックコメントで市民の声はどう出るのだろうか。