PTAの当たり前をなくしたら何が起きた? 「強制加入・強制参加」廃止で見えた意外な結果とは

■「PTAを変えてやろう」という野心はなかった, ■「引き受けられません」と宣言する保護者の登場, ■保護者の本音は? PTA意識調査で浮かび上がった現実, ■「内輪ノリ」「従来のPTAの批判」は避ける!

 保護者同士の顔も知らないまま、名簿で推薦し合うPTAの学級委員。断れば“次点の人に自分で依頼”というルール、そして「1子1回ノルマ」……。そんなある小学校のPTAの慣習に疑問を抱いた一人の保護者が、仕組みを根本から変えました。強制加入・強制参加をやめ、希望者が手を挙げる“活動エントリー制”へ――。『いまこそ、変わる!変えられる!PTAアップデート』(学事出版)の著者・下方丈司さんに聞きました。

■「PTAを変えてやろう」という野心はなかった

――下方さんは、名古屋市立吹上小学校PTAの会長として“改革”に取り組まれました。もともとPTA活動に関心が高かったのでしょうか?

 そういうわけではないんです。長女が小学校に入学した時点(2011年)では、PTAは「子どもが学校に入ったら親が参加しなくてはいけないもの」くらいの感覚でした。ただ、入学直後にPTAの学級委員(クラス委員)の選出があって、違和感を抱いたんですよね。まだ保護者同士は顔もわからない状態なのに、名簿をもとに推薦投票する方法でした。

 2年目に学級委員に選出されましたが、とりあえず1年間やり過ごせばいいと思っていました。子どもが在学中に1回は役員を引き受ける「1子1回ノルマ」があったので、3つ下の次女が入学するまでは“お役御免”だろう、と考えていたんです。

――それが、2014年に副会長、2015年から会長を3年、その後再び副会長を2年務められました。 

 最初に副会長を引き受けた時も、役員さんたちに頼まれただけで、「PTAを変えてやろう」という野心はありませんでした。ただ、最初に委員会に出てみた時、意味のある話し合いはほとんどなくて……。すでに決まったことを読み上げるだけの場になっていて驚いたんですね。

 せっかくみんな平日に仕事を休んで集まっているのだから、「出席した意味があった」と思える場にしたいと考えました。学童保育で一緒の保護者たちはみんなフルタイムで働きながら必死にPTAの仕事をこなしていましたし、なんとか負担を減らせないかなと。

■「引き受けられません」と宣言する保護者の登場

――PTAと言えば、会長や副会長などの「役員会」の下部組織として「学級委員」「広報委員」「校外委員」などがある委員会制が一般的です。下方さんは、この仕組みを変えたそうですね。

 そうなんです。各クラスから選出する学級委員を廃止して、その委員が担っていた活動を、広報部ではなく新聞づくり、成人教育部ではなくセミナーの企画といった具合に“棚卸し”しました。その上で、年間を通して活動のあるものは年度初めに募集して、ピンポイントの活動はその都度、参加希望者を募る「活動エントリー制」にしました。その後、校外委員も廃止しました。

 PTAの参加を強制せず、希望者だけが手を挙げて参加する仕組みにしたんです。

――そこまで踏み込んだのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

 前述の通り、私たちのPTAは名簿をもとに推薦投票する方式で、引き受けられない場合には「自分で責任を持って次点の人に依頼する」というルールまでありました。

 長年これで運営されてきたようですが、私が会長になって2年目の時のことです。選出された人の中から「引き受けられません」「次点の人への連絡もしません」と宣言する人が2人現れました。

 こうした事態は想定されていませんでしたから、PTAは大混乱。なんとか、役員から次点の人にお願いしてことなきを得ましたが、これをきっかけに「今までのやり方ではやっていけない」という共通認識が役員の中で広がったんです。

 校長に「学校として、絶対にPTAがやらなくては困るという活動はありますか?」と聞いたところ「ありません」との返事だったこともあり、「強制のないPTA」に変えようという方針が固まっていきました。

――役員の間で反対の声はありませんでしたか。

 ほとんどなかったですね。みんな名簿だけを見て学級委員を推薦し合う光景を見ていますから、「あんな嫌な空気をなくしたい」という気持ちが強かったのだと思います。

■保護者の本音は? PTA意識調査で浮かび上がった現実

――活動エントリー制の導入に向けて、何から始めたのでしょうか。

 会長になって2年目の2016年に「PTAに対する保護者の意識を問う」アンケートをおこないました。ネガティブな意見が多いだろうと予想していたのですが、PTAは「必要」「あったほうがよい」という回答が過半数を占めました。PTA活動についても「積極的に参加したい」「参加してもよい」が3分の1ほどいたんです。

■「PTAを変えてやろう」という野心はなかった, ■「引き受けられません」と宣言する保護者の登場, ■保護者の本音は? PTA意識調査で浮かび上がった現実, ■「内輪ノリ」「従来のPTAの批判」は避ける!

 その一方で、PTA委員や役員について「ぜひやりたい」と答えた人はゼロ。「絶対にやりたくない」「あまりやりたくない」を合わせて60%以上という結果でした。

 中には、役員をやった時にストレスで身体を壊したという体験を長々と書いてくれた方もいました。「1子1回ノルマ」によってイヤイヤ参加させられていることが、改めて浮き彫りになったと思います。

 この結果をもとに話し合いを重ねて、会長になって3年目から活動エントリー制の導入に踏み切りました。

■「PTAを変えてやろう」という野心はなかった, ■「引き受けられません」と宣言する保護者の登場, ■保護者の本音は? PTA意識調査で浮かび上がった現実, ■「内輪ノリ」「従来のPTAの批判」は避ける!

■「内輪ノリ」「従来のPTAの批判」は避ける!

――改革をスムーズに進めていくために、心がけたことなどはありましたか。

 役員が“内輪”でやっているのではなく、「みんなの意見を聞きながら進めています」という雰囲気を作ることでしょうか。「一部の人が勝手に決めた」と思われてしまうと、無駄な反発を招きますから。

 アンケートのほかに意見交換会を実施して、PTAを変えようとしていることを広く伝え、広報紙でも「今こうなっていますよ」「変えていますよ」と機会があるごとに発信していました。

 また、これまで一生懸命活動してくれていた人たちを批判しないことも気を付けていました。「今のPTAは強制参加でひどいから改めよう」ではなく、「もっと主体的に参加できるPTAにしていきましょう!」というふうに、ポジティブな言い方を心がけていましたね。おかげで、特に反発もなく進められたと感じています。

――導入後の活動はスムーズになりましたか?

 新体制のPTAとして最初の大きな行事が運動会だったのですが、前日準備や受付、カメラマン、後片付けなどへのエントリーを募ったところ、無事に必要な人数が集まりました。

特に後片付けは、当日もマイクで呼びかけたら、なんと80人くらいが手伝ってくれたんです。

 前年は5人しか来てくれなかった作業ですから、大きな変化ですよね。活動エントリー制になったことで“強制感”がなくなり、「PTAには近寄らないほうが吉」という雰囲気が薄れたことがよかったのかな、と思いました。私は2019年で吹上小PTAを離れましたが、今でも大きく変わっていないと聞いています。

(取材・文/仲藤里美)

■「PTAを変えてやろう」という野心はなかった, ■「引き受けられません」と宣言する保護者の登場, ■保護者の本音は? PTA意識調査で浮かび上がった現実, ■「内輪ノリ」「従来のPTAの批判」は避ける!

○下方丈司(しもかた・たけし)/1969年、名古屋市生まれ。名古屋市立大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了(修士・人間文化)、愛知県立大学大学院人間発達学研究科博士後期課程単位取得満期退学。2014年度~2019年度の6年間、小学校PTA会長・副会長としてPTAのあり方を変えるための試行錯誤に取り組む。2017年度~2022年度には名古屋市立小中学校PTA協議会の役員を務め、「PTA運営ガイドライン」の制作に携わる。本業はCMや企業の動画など映像制作で、大学の非常勤講師も務める。二児の父。著書に『いまこそ、変わる! 変えられる! PTAアップデート』(学事出版)。

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