「ムスリムは犯罪者。追い出そう」モスク建設計画めぐり激化する排斥運動

■広がり続けるヘイトスピーチ, ■「お父さんとお母さんは悪い人なの?」, ■「日本人ファースト」による排外主義, ■日本で暮らすムスリム約42万人, ■先立つのは外国人に対する不安や偏見

 日本で暮らすムスリム(イスラム教徒)は2024年末時点で推計約42万人。前年比で約7万人増え、約20年前と比べると3.8倍となったが、礼拝に使うモスク建設をめぐって反対運動が激化したり、「犯罪者」「追い出そう」とSNSに書き込んだりする排斥行動が深刻化している。現場を歩いた。

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「モスク建設反対運動は、卑劣な差別を扇動しています」

「卑劣な差別に加担しないでください」

 1月5日夕方5時。神奈川県藤沢市の湘南台駅地下通路に、マイクを握った女性の声が響いた。行き交う人々に呼びかける、差別反対のスタンディングだ。

 8人が参加し、「多文化共生いいね」「わたしは差別に抗う」などと書かれたプラカードなどを手に、2時間ほど立った。

 参加した市内に住む70代の男性は言う。

「誰かが傷つく差別は許せない」

 スタンディングを主催した女性のTさんは、こう話す。

「スタンディングをすることで、一番は通行する市民の方々へ『差別反対』の可視化と関心をもってもらうのが狙いです」

■広がり続けるヘイトスピーチ

 いま、藤沢市で、ムスリムが礼拝に使うモスク建設計画をめぐって対立が生じている。

 発端は昨年10月上旬。保守・愛国系の政党の党員とみられる人物がSNS上に「藤沢市に巨大なモスクが建設される」「ムスリムが世界を侵略しようとしている」などと投稿した。 するとSNS上で、「早朝から大音量の音楽が流れる」「敷地内に土葬墓地ができる」といった噂が広がり、建設反対の声が相次いだ。さらに、「治安が悪化する」「ムスリム増加でレイプ事件が急増する」といった極端な言説も飛び交うようになった。

 モスクの建設計画があるのは、湘南台駅から西に約6キロ離れた県道沿い。かつて種苗店があった場所で、約980平方メートルの敷地に鉄筋2階建てのモスクが建設される計画だ。完成は2028年12月を予定している。

 内外からの意見を受け藤沢市は昨年10月、公式サイトに見解を公表。建設計画そのものは、法令に基づき粛々と進められてきたものと説明した。さらに、同市計画建築部の担当者は、礼拝の呼びかけに使うスピーカーは建物内に設置するので音が外に漏れることはないと話す。

「土葬についても、モスクの計画がある土地は、土葬の許可が下りる場所ではありません」

 それにもかかわらず、SNSでの投稿や、建設反対派がまくビラに書かれた内容を信じる人もいて、ムスリムへのヘイトスピーチや差別的言動が広がり続けた。

■広がり続けるヘイトスピーチ, ■「お父さんとお母さんは悪い人なの?」, ■「日本人ファースト」による排外主義, ■日本で暮らすムスリム約42万人, ■先立つのは外国人に対する不安や偏見

■「お父さんとお母さんは悪い人なの?」

 こうした事態に、排外主義に反対してきたTさんは強い危機感を覚えた。

「このまま放置されたら、まずい。傷つく人が増え、『差別ってしていいの?』と勘違いされてしまうと思いました」

 実際、建設反対派が駅で行う街宣活動を見たムスリムの小学生が「イスラム教ってそんなに悪いの」「私のお父さんとお母さんは悪い人なの?」と教師に相談したりするケースも起きているという。

 問題を見過ごせないと感じたTさんは、昨年12月から、同じ思いの人たちと湘南台駅や藤沢駅(藤沢市)前などで定期的にスタンディングを続けている。

 Tさんによれば、スタンディングをしていると「差別はよくないよね」「頑張って」「本当はモスク反対派の人たちに反論したかったけれど怖くてできなかったから、スタンディングをしてくれてありがたく、励みになる」と声をかけてくれる人も増えているという。

「少しずつでも、市民に思いは伝わっていると感じます」(Tさん)

■「日本人ファースト」による排外主義

 ムスリムへの排他的な空気は、藤沢市にとどまらない。

 この1年、「日本人ファースト」が叫ばれるようになり、排外主義的な風潮が一気に高まった。中でもターゲットにされているのがムスリムだ。

 福岡市では昨年9月、モスクの前で保守系の政治団体が「抗議街宣」を行い、「日本から出て行け」などと声を荒らげた。きっかけは、その3カ月ほど前。モスクに入りきれなかったムスリムが、隣接する公園にあふれたことだった。その日はイスラム教の大祭で、想定を超える人が集まった。だが、その光景が、「侵略」「乗っ取られる」といった文言とともにSNSで拡散された。

 日本に40年近く暮らすムスリムの男性は嘆く。

「私たちはこれまで差別されることなく平和に暮らしてきた。なのに、急に『ムスリムの問題』が出てきた」

■広がり続けるヘイトスピーチ, ■「お父さんとお母さんは悪い人なの?」, ■「日本人ファースト」による排外主義, ■日本で暮らすムスリム約42万人, ■先立つのは外国人に対する不安や偏見

■日本で暮らすムスリム約42万人

 ムスリムへの排他的言動で共通するのは、日本に住むムスリムが急増したのを背景に、誤情報が拡散され、排斥の対象となっている点だ。日本に住むムスリムは2024年末時点の推計約42万人と、前年比で約7万人増え、約20年前と比べると3.8倍となった。

 藤沢市は、製造業やサービス業などの分野で労働力としてムスリムが増えているとみられている。帝国データバンクの調査(25年)では、神奈川県内で外国人を雇用する企業は27.6%と、前回調査から2.7ポイント上昇した。

 北海道江別市。札幌市に隣接するこの街でも、ムスリムへのヘイトが起きた。

 江別市は中古車の流通が盛んで、中古車の解体や輸出に携わるムスリムの在留者が急増していて、現在約200人のパキスタン人が暮らす。彼らは日本のビザを正式に取得し、10年以上にわたって生活している人もいるという。

 それが昨年6月ごろ、市内に立つモスクが違法建築だとして、SNSに「パキスタン人が江別市を占拠」「江別パキスタン村が誕生」といった真偽が不確かな言葉が流れ、「パキスタン人は犯罪者」「外国人を追い出そう」というヘイトスピーチがあふれた。

 10月になると、市内のパキスタン人が経営する中古車販売店に爆竹が投げつけられ、多数のロケット花火も撃ち込まれた。手にバットのようなものを持った人物がうろつくこともあった。こうした嫌がらせは連日続き、子どもに危害が及ぶことを警戒し通学を見合わせるパキスタン系住民もいたという。

■広がり続けるヘイトスピーチ, ■「お父さんとお母さんは悪い人なの?」, ■「日本人ファースト」による排外主義, ■日本で暮らすムスリム約42万人, ■先立つのは外国人に対する不安や偏見

■先立つのは外国人に対する不安や偏見

 江別市によれば、モスクは、原則として建物を建てられない市街化調整区域内にあり、都市計画法に適合しておらず違法建築物にあたるという。ただ、市内には76件の違法建築物が確認されているが、外国人が所有するものはごく一部で、大半は日本人が建てたもの。パキスタン人は、日本の建築規制のルールを理解していなかったという。それにもかかわらず、非難がパキスタン人に集中したことについて市の担当者はこう言う。

「違法建築そのものよりも、外国人に対する不安や偏見といった感情が先立っているように思います」

 差別と偏見は社会の分断を深める。その連鎖を、断ち切るにはどうすればいいか。

 先のTさんは、「差別が蔓延した社会の先に何があるのか一人一人考えてほしい」と訴える。

「差別が広がれば、人々の間に分断が生じ、憎しみが広がり、最悪の場合、戦争に繋がります」

 それを防ぐためにも、互いに理解し合おうという気持ちが重要と話す。

「移民反対を唱える人は、『郷に入っては郷に従え』と言います。しかしそれは、強制するものではなく、互いに理解し合おうという考えのもとで身につけていくものです」

 ムスリムも、わたしたちも、同じ街で暮らす隣人だ。互いを理解し合う姿勢が、共に生きる社会の土台となる。

(AERA編集部・野村昌二)

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