米軍の本当の恐ろしさ見せつけたベネズエラ奇襲、圧倒的な電子戦優位で反撃の隙与えず

ベネズエラ攻撃でも高い性能を見せつけた米空軍のB-2ステルス爆撃機(2025年5月28日撮影、米空軍のサイトより)
ウクライナ戦争がベネズエラ攻撃の引き金か
米軍は、イランの核施設空爆(2025年6月)、ベネズエラ大統領襲撃作戦(2026年1月3日)を完璧に成功させた。
ベネズエラ大統領を捕らえ連れ去った作戦は、軍事作戦としてだけで見れば見事だった。
その理由は、航空機が撃墜されず、最もガードが堅い大統領居住地に突入した兵士も殺害されることなく実行できたからだ。
成功の理由は、米軍の圧倒的な軍事力に加え、兵器の優秀さ、戦略・戦術の立案能力や情報力の高さ、兵士の高い遂行能力が挙げられる。
一方で、ロシアから高額で購入したベネズエラの防空兵器がウクライナ戦争の電子戦で詳細に分析され、能力の限界を見破られてしまっていたことも見逃すことはできない。
兵器を製造した国の公表した性能が実際に満たされているかどうかは、実際にミサイルや砲弾が飛び交う現場で使ってみなければ分からないが、 ウクライナ戦争により、ロシア製の防空兵器はその能力の限界を白日の下に晒してしまったのだ。
米国は、ロシア兵器の実態をデータや実験だけではなく、ウクライナ戦争で実戦に基づき確実に検証できたはずだ。
そして、ロシア製防空兵器を打ち破る自信を持った。これが、イランやベネズエラに対して攻撃を仕掛けるトリガーになったことも否めない。
そこで、ウクライナ戦争における兵器の実績を踏まえ、米軍によるイランやベネズエラへの空爆と奇襲作戦が成功した理由について、作戦成功の原点(出発点)となる①ロシア兵器性能の実績、②米国電子戦の実態を焦点に考察する。
特に、ベネズエラ奇襲作戦の背後にあるウクライナ戦争の教訓(共通点)と米軍の優れた電子戦能力(相違点)について記述する。
ウクライナで破壊されたロシア製防空兵器
ロシアの防空兵器は、ウクライナのFPV(一人称視点)ドローンやミサイルで次々に破壊されている。
防空兵器は本来、重要な兵器や施設をドローンなど空中からの攻撃から守るために製造され配備されているものだ。
具体的には、まず長射程の防空兵器は、向かってくる戦闘機などを遠距離から撃墜するため長射程の防空兵器を配備する。
これに対して戦闘機は、防空兵器の監視レーダーが地上反射の影響を受けてレーダーに映りにくくなる低空(150メートル以下)や超低空(50~100メートル、またはこれ以下)を飛行する。
したがって防空側としては、次に低高度を飛行してくる戦闘機、ミサイル、ドローンを撃墜するための短距離ミサイルや高射機関砲を配置する。
これらを組織的に配備したのが、濃密な防空網(防空カバー)である。
しかしながらウクライナ戦争では、ロシアの防空兵器はウクライナの対レーダーミサイル、巡航ミサイル、FPVドローンで次々に破壊されている。
ロシアの防空兵器は、ウクライナに発見され攻撃を受けた時に多くの場合防ぎ切れていない。
ロシア製の防空兵器の性能が公表値通りであれば、おそらくウクライナの攻撃を防げていたはずだ。つまり、ロシア製の防空兵器は公表値ほどの性能を有していないと見るのが妥当であろう。
図1 各種防空兵器から構成される防空網と航空攻撃(イメージ)

出典:各種情報に基づき筆者が作成したもの(図は以下同じ)
特に、レーダー波を放出する兵器は、電波を出さないミサイル発射機よりも、電子戦機によって、その種類、特性、位置などが容易に特定され、攻撃を受けやすい。
防空用レーダーは、戦闘機やミサイル基地などのように目立たないので比較的安全に見えるかもしれないが、実際には電子戦機によって容易にその位置を特定されてしまう。
電子戦機とは、敵の見えにくいものを正確に捕捉するための、現代戦に欠かせない重要な兵器なのである。

ベネズエラ攻撃に使われた米空軍のステルス戦闘機F-22ラプター(1月3日、プエルトリコの米軍基地で、米空軍のサイトより)
米軍による電子情報収集の仕組み
電子戦は、電波を放出する兵器の電子情報を収集することから始まる。
米国は、電子情報収集機「RC-135」やエリント衛星を使って、電波を放出する兵器(レーダー)の電子情報を収集し、それらの特色を解析している。
基地内の解析チームがその固有の特色を多くの時間をかけて解明し、どんな兵器がいつどこにあるのかを可視化する。
図2 米軍による電子情報収集(イメージ)

このような電子情報収集が防空兵器を破壊する攻撃の基礎となっているのである。
解析チームの解明の結果を取り入れて、戦場近くの上空に展開する早期警戒管制機(AWACS)や空中指揮機が、リアルタイムで敵の防空兵器の種類や位置を特定することができる。
詳細な位置情報とそのレーダーの特色を戦闘機に伝え、戦闘機が対レーダーミサイルを発射して破壊する。
この際に、もし敵が放出している電子戦情報が解明できていなければ、正確な攻撃は難しくなる。
図3 早期警戒管制機等が電子兵器の種類と位置を特定(イメージ)

ロシアにはできない米軍の破壊指示
たった1日で、ロシアは無人機やミサイルで約700の目標に対して、ウクライナも無人機で100を超える無人機攻撃を行うことがある。
これらは、慣性誘導で事前に固定目標を狙ったものがほとんどだ。リアルタイムで攻撃目標を指示しているものではない。
かつて、ウクライナがロシアの爆撃機基地に駐機してある40機以上の爆撃機や早期警戒管制機を、FPVドローンを使って映像を見ながらリアルタイムに攻撃したことがあった。
これは稀な作戦であり、通常あることではない。最近、クリミアのレーダーサイトや防空兵器を映像で確認しつつ攻撃したことがあるが、1度に10個程度の目標を攻撃しているだけである。
一方、米軍の場合は、攻撃したい数百あるいはそれ以上の目標を戦闘機やミサイル部隊により短時間で一度に攻撃することが可能である。
戦闘機・攻撃機のディスプレイには、敵の防空兵器などの徹底分析された情報に加え、早期警戒管制機(AWACS)が収集する敵戦闘機などの情報や無人機や偵察衛星が収集する地上目標情報などの情報が、情報共有システムを通して表示される。
なお、この情報共有システムに関して、米軍は空軍が中心となってABMS(Advanced Battle Management System:先進戦闘管理システム)を開発しており、陸海空の統合的な指揮統制の実現を目指している。
いつどの目標をどのような順番で攻撃するかが指令されれば、各戦闘機や爆撃機が一斉に攻撃に移り、数百の目標を短時間に制圧するのである。
米軍によるベネズエラ攻撃では、米軍の作戦を妨害するベネズエラの陸海空軍が装備するすべての防空兵器、火砲、戦車部隊などの攻撃目標を、空中指揮管制機が優先順位を定め、短時間に精密な攻撃を実施させたと考えられている。
図4 空中指揮機等による攻撃目標指示(イメージ)

旧ソ連軍の各軍管区部隊(方面軍)には、空中指揮機が配備されていて、方面軍演習では各種空軍機や地上軍部隊の指揮を実施していた。
だが、ウクライナ戦争では空中指揮機からのコントロールがなく、情報収集機(早期警戒管制機兼用)による電子情報の収集が行われている動きも見えない。
ロシアは現在、空中から多目標への攻撃指示ができていないようなのだ。これが大きな相違点であり、米軍の凄さと言えよう。
奇襲を達成する米軍の秘匿作戦
米軍においては、作戦が実際に開始され、1発のミサイルを発射するまでは、どの部隊が何をするか予測することがほとんど不可能である。
なぜなら、米海軍や米空軍の動きが平時の状態から不明なことが多いからだ。作戦後の動きも、ミサイル攻撃により目標が爆発したことは判明しても、その時のミサイルや軍用機の動きは映像などでは公表されない。
例えば、米海軍の空母は横須賀港に入る時、埠頭に係留されている様子は映像で公表される。
だが、その空母がいったん港を出航すると、日本海に入ったことや西太平洋からインド洋に向かったことなどは公表されるが、どの位置にいるとか、どのように動いたかという情報は一切公表されない。
今回のベネズエラ攻撃でもこの隠密行動が作戦を成功に導いた。
米空母の動きは、敵のエリント偵察衛星が空母上空を通過する際に、空母が電波を放出しなければ、その位置はまず解明できない。また、画像偵察衛星で洋上を移動する空母を見つけることも不可能に近い。
B-1爆撃機を投入した囮作戦
米空軍は、戦闘機では「F-35」や「F-22」などのステルス戦闘機を投入したが、「B-2」爆撃機ほどのステルス性能がない「B-1」爆撃機もベネズエラ攻撃に使用した。
このB-1爆撃機は、主に長射程巡航ミサイルでベネズエラ防空兵器の射程外からのスタンドオフ攻撃に使用されたと見られている。
防空兵器に向けてミサイル攻撃する場合、防空兵器はその位置を知られないよう展開位置を変える場合があるため、攻撃側は展開した最新の情報を手に入れなければならない。
一方、ベネズエラからすれば、防空ミサイルの射程外であっても監視レーダー内にこの爆撃機が入れば、防空部隊は「攻撃されるかもしれない」と緊張感が走る。
そして各種レーダーを作動する可能性が高い。
しかし、実はこれは米軍の思う壺でもある。ベネズエラ軍の防空兵器がレーダーを作動させれば、米空軍の情報収集機や早期警戒管制機がベネズエラ防空部隊の最新の情報(種類と位置)を、瞬時に知ることができるからだ。
図5 囮として機能させたB-1爆撃機

ステルス性能が比較的低いB-1爆撃機は、むしろそのことによって囮としての役割を果たし、作戦全体の精密度を上げることができたのだ。
EA-18Gの電波妨害で防空と指揮機能マヒ
電子戦では、敵に電波を放出させることでその位置を特定し、対レーダーミサイルで攻撃する場合が多い。
ただし、この攻撃だけでは、すべての防空兵器を破壊できたかどうかは分からない。
攻撃後にもしも残存した防空兵器があれば、これにより攻撃を受け被害を受けることがある。
また、指揮通信機能が残っていれば、残存している部隊に反撃命令が下され、その後、戦闘機などにより反撃されることもありうる。
そうした事態を避けるには、電波妨害を行うと効果が大きい。
米軍が使用した機体の中に、空母搭載の「EA-18Gグラウラー」電波妨害機があった。
この機が、定められた時間、ベネズエラ軍の防空兵器のレーダーを妨害し、指揮通信を途絶させて各部隊を孤立させ、上級部隊から隷下部隊へ命令が届かないようにしていたと考えられる。
図6 電波妨害で残存兵器の機能を阻止

米軍の電子戦がロシアを圧倒的に凌駕
ロシアはかつて、「S-300 」防空ミサイルが弾道ミサイルを撃墜できると言っていた。このことから、ロシアとの協力関係がある国は、そのことを信用して多額のお金を払って購入していた。
イランやベネズエラは、S-300以外にも各種防空ミサイルに大金を払って購入し配備していたにもかかわらず、米国のステルス機を使ったミサイルなどに一矢も報いることができなかった。
イランやベネズエラへの奇襲攻撃では、米軍の電子戦が、ロシアの電子戦を圧倒的に凌駕していたことを示したものであった。
米軍の電子戦能力は、ロシアと中国のそれに対して圧倒的な差をつけていることが判明したのである。
中国・北朝鮮は、イランやベネズエラと同じロシアの防空兵器を購入している。
もしも今、ロシアの兵器を購入していた国が米国から攻撃を受ければ、イランやベネズエラの二の舞にあるいはそれに近い戦いの様相になる可能性がある。
これまで述べてきた米軍の戦い方は、派手なミサイル攻撃の陰に隠れていて映像では見えていない分野が多い。
しかし、中国がこの点に強い関心をもって見ていたことは間違いない。もし、台湾有事や朝鮮半島有事があり米軍が巻き込まれれば、ベネズエラ作戦と似た戦いが生起する可能性があるからだ。
今後は、中国も今回の米軍のような戦いができる準備を行ってくるであろう。

B-2爆撃機(右)と編隊を組んで飛ぶ2機のEA-18G電子戦機(左4機のうちの中央2機、2022年3月28日撮影、米空軍のサイトより)
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