電子ごみリサイクル、中国レアアース支配を崩せるか

加サイクリック・マテリアルズは、北米で毎年廃棄される電子製品を世界最大のレアアース「地上鉱床」と呼ぶ

米国の次のレアアース鉱山(希土類)は、アリゾナ州メサの箱に入った2000トンのがらくただ。

山のように積み上げられているのは、電動自転車やドローン、MRI(磁気共鳴画像)スキャナー、ハードディスクドライブなど、使えなくなったさまざまな電子機器の電気モーターだ。そこには、現代の世界に欠かせないレアアース金属の供給における中国支配を緩める最も手っ取り早い方法は、新しい鉱山ではなく古いガジェットに目を向けることではないかという期待が託されている。

国際エネルギー機関(IEA)によると、中国はネオジムやジスプロシウムといったレアアースの採掘量で世界の5分の3を占め、精製能力では90%を上回る。中国政府は昨年、米国との貿易戦争でレアアース輸出規制を武器として使い、その力を見せつけた。米国と欧州では新たな採掘プロジェクトが進んでいるものの、鉱山開発には10年かかることもある。

メサのリサイクル施設は数カ月後の稼働を予定している。建設したのは、5年前にカナダのオンタリオ州で創業したサイクリック・マテリアルズだ。創業者のアフマド・ガフレマン氏は、北米で毎年廃棄される電子製品を、世界最大のレアアース「地上鉱床」と呼ぶ。

「今それを採掘していないのは恥ずべきことだ」と同氏は話す。

サイクリック・マテリアルズは、今年アリゾナ州メサにリサイクル施設を開設する予定だ

国連が昨年発表した報告書によると、使えなくなった機器に含まれるレアアース金属のうち、リサイクルされているのは世界全体で1%に満たない。レアアース磁石を他の原料や部品から分離するコストが利益に見合わないというのがその理由だ。特にこれまでは中国から廉価品を支障なく調達できていたため、リサイクルが進まなかった。

こうした状況を変えるために新しいリサイクル技術を広めようとしている新興企業が増えており、サイクリックもその一つだ。同社は23日、ティー・ロウ・プライスが主導する資金調達ラウンドで7500万ドル(約119億円)を集めたと発表した。米国と欧州に施設を立ち上げ、リサイクル事業を拡大する計画だという。資金調達額は今回分を含めて計1億6200万ドルに達した。だが前途には競争が待ち受けており、一部の競合は米政府の支援を受けている。

米国防総省は昨年11月、使えなくなった機器や採掘鉱石の処理を手掛けるリエレメント・テクノロジーズに8000万ドルの融資を約束した。レアアース磁石メーカーのバルカン・エレメンツは、政府から6億2000万ドルの融資などの産業奨励措置を受けた。バルカンはリエレメントの原料を使用することになっている。奨励策の一環で商務省はバルカンの株式を取得し、国防総省は両社のワラント(新株購入権)を取得した。

さらに国防総省は、レアアース採掘や磁石製造を手掛けるMPマテリアルズの株式15%を取得することで合意した。同社はカリフォルニア州マウンテンパスにレアアース鉱山を所有しており、そこにリサイクル施設を設ける。米アップルはこれに5億ドル出資することを確約した。

超党派の議員グループは1月、レアアースなど重要素材の国内サプライチェーン(供給網)を支えるため、新機関に25億ドルを拠出することを提言した。リサイクルも対象となる。エイムズ国立研究所重要素材部門のイケンナ・ヌレベディム氏は、10年以内にリサイクルが米国のレアアース需要の最大25%を満たすようになる可能性があると指摘した。

サイクリックの工程は、機械でレアアース磁石を他の金属から分離し、中に含まれるレアアース酸化物を化学物質で抽出する。これを開発したのは、イラン出身でカナダのクイーンズ大学教授のガフレマン氏だ。同氏はこの工程を、コーヒーに熱湯をかけるとカフェインが流れ出す現象に例えた。採掘に比べ、使用する水と排出ガスが大幅に少ないという。

現在は米国で全工程を行っているわけではない。レアアース酸化物は加オンタリオ州の施設で生産しており、サイクリックはベルギーの化学会社ソルベイに酸化物を供給する契約を結んでいる。ソルベイのレアアース処理施設はフランスにある。いずれは自社でレアアース酸化物の精製を目指す。

サイクリックのメサの施設は、使えなくなった機器を最大で年間2万5000トン処理できる見通しで、抽出できるレアアース酸化物は250トンに上るとみられる。市場への影響はごくわずかだ。サイクリックは、米国内の需要を8000~1万3000トンと見積もっている。

リサイクルの過程でレアアース以外の金属も取り出せる。サイクリックの推計によると、メサの施設では操業開始から2年間で銅が2500トン生産される。銅価格は現在1トン当たり約1万3000ドルと過去最高水準にあり、2500トンなら3000万ドル以上になる。レアアース酸化物の混合物250トンは現在の指標価格で約2500万ドルになるため、これを上回る。サイクリックは商品取引・鉱業大手グレンコアに銅を供給する契約を結んでいるものの、価格は明らかにしていない。

課題の一つは、廃棄物を十分に確保できるかどうかだ。

「いま市場で入手できる使用済みスクラップは、多くが家電製品の中にあり、その家電製品はたいてい家の戸棚のどこかにある」。コンサルティング大手マッキンゼーのパートナー、マイケル・フーカート氏は昨年9月のインタビューでこう語っている。

廃棄されたガジェットの大半が行き着くのは、レアアースを回収しないリサイクル業者だ。銅、鉄鋼、アルミニウム、貴金属は回収できるものの、レアアース金属は通常、鉱滓(こうさい、スラグ)と呼ばれる廃棄物中で他の副生成物と結合している。サイクリックは、レアアースで利益を得られれば、スクラップの入札で競り勝てると考えている。

サイクリックは、廃棄物の調達先は500社以上に上ると述べた。電動キックボードのシェアリングサービスを手掛けるライムは、数百台分の古い電気モーターを提供したと明らかにした。

加オンタリオ州にあるサイクリック・マテリアルズの保管施設

他のサプライヤーの供給量はこれを上回る。サイクリックによると、ある電子機器リサイクル業者から70トン分のハードドライブが送られてきた。電子廃棄物はテック企業にとって大きな悩みだ。サイクリックに投資している企業には、米マイクロソフトと米アマゾン・ドット・コムも名を連ねる。

米国にレアアース産業を確立しようとするこれまでの取り組みが頓挫したのは、中国産が市場にあふれ、投資対効果が見込めなかったためだ。トランプ米政権の措置は、同様の結果を回避したい意向の表れといえる。MPマテリアルズのレアアース鉱物に対し最低価格を保証したのもそれが狙いだ。

オーストラリアのアイオニック・レアアース社も食指を動かしている。同社は英領北アイルランドのベルファストにある工場で磁石からレアアースを抽出しており、米国進出をうかがっている。マネジングディレクターのティム・ハリソン氏は、自国での成果を「米国でも極めて短期間で再現したい」と述べた。