「キハ80系」、全国に特急網を広げた気動車の記憶

はつかり号は「ガッカリ号」?, 全国に特急網を広げたキハ82系, 見慣れないスマートな列車が…, 北海道を駆けたキハ82系特急, 短命だった「ブルドッグ」, 似て非なる?特急「北アルプス」, キハ82系とキハ181系、外見の違いは?

函館本線の「山線」を経由する唯一の特急だった「北海」で活躍するキハ82系(撮影:南正時)

国鉄の特急列車といえば、東海道本線に電車特急「こだま」が登場するまでは機関車牽引による客車列車であり、さらに運行路線も東海道本線などごく一部の幹線に限られていた。それを大きく変えたのが、気動車による特急の登場である。

【貴重な写真を一挙公開】▶「ブルドッグ」と呼ばれた初の特急気動車キハ81系と一時代を築いたキハ82系▶「おおぞら」「北海」「オホーツク」など北海道の特急から▶山陰を走った「まつかぜ」「はまかぜ」、九州の「にちりん」「おおよど」▶最末期まで活躍した「ひだ」「南紀」まで

特急型気動車は、1960年に東北本線の特急「はつかり」用として導入されたキハ81系が始まりだ。その翌年1961年にはキハ81系の経験を生かし、改良型といえるキハ82系が登場した。両系を合わせたキハ80系列は総数384両が製造され、全国の非電化区間を中心に特急列車網拡大の立役者として活躍した。

今回は、このキハ80系列の活躍を振り返ってみたい。

はつかり号は「ガッカリ号」?

日本初の特急形気動車キハ81系は、上野―青森間を常磐線経由で結ぶ特急「はつかり」として登場し、独特のボンネットスタイルで「ブルドッグ」と呼ばれた。

【写真】「ブルドッグ」と呼ばれた初の特急気動車キハ81系と、全国に特急網を築いたキハ82系。「おおぞら」「北海」「オホーツク」など北海道の特急から、山陰を走った「まつかぜ」「はまかぜ」、九州の「にちりん」「おおよど」、そして最末期まで活躍した「ひだ」「南紀」まで、全国を走ったキハ80系列の特急列車たち

しかし、上野―青森間の750kmという未経験の長距離高速運転のため、初期はトラブルも続出した。キハ81系のトラブル発生はエンジンに集中しており、東北本線の奥中山の勾配区間ではオーバーヒートして立ち往生、その後も各地で同様の問題を繰り返し、時には火が出たこともあった。

トラブル続きで乗客から不満の声があがり、当時のマスコミには「はつかり号はガッカリ号」などと揶揄されるありさまだった。

だが、キハ81系の投入によって「はつかり」は大幅なスピードアップを達成し、当初はトラブルの多かった運行も次第に安定していった。

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独特のボンネット型で「ブルドッグ」と呼ばれ親しまれたキハ81系。写真は後年「くろしお」で活躍した当時の姿(撮影:南正時)

その後、キハ81系の経験を踏まえて改良を施し、量産化されたのがキハ82系である。先頭車はボンネット型ではなく貫通型の前面となり、緩やかな曲面のフロントガラス、窓上にライトを配した優美なデザインとなった。

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貫通型の前面になったキハ82系。特急「北海」で活躍する姿(撮影:南正時)

【写真】函館駅で発車を待つ特急「おおぞら」

全国に特急網を広げたキハ82系

通称「サンロクトオ」と呼ばれる1961年10月のダイヤ改正は大規模な「白紙改正」で、それまで東海道本線や山陽本線など全国で10本に満たなかった特急列車が四国を除く全国に拡大した。

主要路線でも非電化区間がまだ多かった当時、キハ82系は特急列車網拡大の立役者として全国各地に投入された。京都―長崎・宮崎間を結ぶ「かもめ」をはじめ、山陰本線初の特急となった「まつかぜ」は、京都から同線をほぼ全線走破して博多に至るロングラン特急で、C57形やD51形などSLとの共演も見られた。

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山陰本線の阿川駅でD51形牽引の列車と並んだキハ82系の特急「まつかぜ」=1974年(撮影:南正時)

この際にキハ82系で運行を開始した特急列車の代表格が、北陸本線初の特急だった「白鳥」である。この列車にちなみ、キハ82系は「白鳥形」とも呼ばれる。

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北陸本線の親不知付近を走るキハ82系の特急「白鳥」=1961年(写真:竹島紀元)

【写真】京都―長崎・宮崎を結ぶ長距離特急だった「かもめ」で活躍するキハ82系

「白鳥」は当初、大阪―青森間1052.9kmを結ぶ編成と、途中の直江津で分割・併合して大阪―上野間を結ぶ編成を連結した「多層建て列車」として運行され、それぞれが6両編成で食堂車と1等車(のちのグリーン車)を連結していた。誤乗車を防ぐため、青森駅発着編成を「日本海白鳥」、上野発着編成を「信越白鳥」と呼んだ。

見慣れないスマートな列車が…

この当時、筆者は福井県の武生に住むまだ中学3年の鉄道少年で、玩具カメラのような「フジペット」(12枚撮りフィルム)を持って武生から米原まで「撮り鉄遠征」に向かった。北陸本線のホームで停車中のD51形蒸気機関車を撮っていると、その向こうのホームに見慣れないスマートな列車が入ってきた。それが今思えば特急「白鳥」の姿だった。

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米原駅に停車する「白鳥」(奥)とD51形=1961年(写真:大塚康生)

この年、偶然にも筆者が後にアニメ界の仕事に就いた際に知り合うことになるアニメーターの大塚康生さんが、故郷の山口に帰省する途中に米原に立ち寄ってE10形やD50形を撮影しており、その一コマにD51形と「白鳥」が写っていた。筆者は、その後師と仰ぐ大塚さんとその時接近遭遇していたのだった。

キハ82系の投入によって全国に登場した特急列車のうち、筆者が記憶に残る列車、そして特筆すべき列車を見てみよう。

北海道初の特急は、キハ82系によって函館―旭川・釧路間を結んだ「おおぞら」だった。その後「おおとり」「北斗」「北海」など、キハ82系による特急が勢ぞろいした。

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北海道初の特急としてキハ82系で運行を開始した特急「おおぞら」(撮影:南正時)

北海道を駆けたキハ82系特急

1972年に運行を開始した「オホーツク」は珍しいカタカナ名の特急で、ロシア語由来の愛称名として話題になった。「北海」は函館本線山線を経由する唯一の特急で、C62形蒸気機関車が重連で牽引する急行「ニセコ」と共にいくつもの峠を越えた。

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カタカナの列車名で登場時は注目された特急「オホーツク」(撮影:南正時)

【写真】特急「おおぞら」の食堂車キシ80の車内風景

筆者は1976年に、ある週刊誌の企画で釧路―函館間を走る「おおぞら」の食堂車キシ80形を同乗取材した。太平洋を望み、狩勝峠の車窓を見ながらの食堂車の旅は、峠越えのエンジン音とも相まって思い出深い。

1965年3月のダイヤ改正では、大阪のターミナルの1つである天王寺から阪和線、紀勢本線、関西本線を経て名古屋に至るロングラン運転の特急「くろしお」が登場した。この列車はキハ82系によって運行を開始したが、特筆されるのは1972年以降、「はつかり」でデビューしたブルドッグことキハ81形が先頭に立っていたことだ。

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関西本線弥冨付近を走るキハ82系の特急「くろしお」。当時の「くろしお」は天王寺―名古屋間を結ぶロングラン特急だった=1976年(撮影:南正時)

量産された前面貫通型のキハ82系が全国特急網の主力を担う一方、初の特急型気動車であるキハ81系は少数派かつ非貫通型で編成の自由度が低く、先頭車の定員が少ないということもあり、比較的短命だった。

「ヨンサントオ」と呼ばれた1968年10月の全国白紙ダイヤ改正で、東北本線の全線電化に伴い「はつかり」が電車化された後、キハ81系は奥羽本線の特急「つばさ」の1往復に転じ、翌1969年10月の改正では上野―秋田間の特急「いなほ」と、常磐線の特急「ひたち」に転用された。

短命だった「ブルドッグ」

さらに1972年10月のダイヤ改正では「いなほ」「ひたち」が電車化されたことから、東北地方を離れ和歌山機関区に移動。特急「くろしお」で運用されることになった。だが、「くろしお」は1978年10月の紀勢本線和歌山―新宮間の電化によって電車化されるとともに、それまで直通していた新宮・紀伊勝浦―名古屋間は引き続き気動車による特急「南紀」として分離されることとなった。

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紀勢本線三瀬谷付近を走るキハ82系の特急「南紀」(撮影:南正時)

【写真】紀勢本線の特急「南紀」で長年活躍したキハ82系。上り列車と下り列車が交換する2本並びの風景

この際に、ファンに愛された「ブルドッグ」は全廃された。筆者の取材経験は「くろしお」に転じて以降だが、長年運用されたキハ82系と異なり、キハ81系の奮闘ぶりを知る者は筆者より年上の鉄道愛好家だけであろう。

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京都鉄道博物館で保存されるキハ81系(撮影:南正時)

「ヨンサントオ」のダイヤ改正では、全国の非電化幹線・亜幹線にさらに特急が誕生した。この改正の際には後継車種として勾配線区向けにパワーアップしたキハ181系が登場したが、各地の電化進展による特急列車の電車化などで置き換えられたキハ82系も新たな線区に進出し、特急網の拡大にさらに一役買うこととなった。

その1つが、名古屋から高山本線を経由して高山や北陸方面を結ぶ特急「ひだ」である。同改正で急行を格上げする形で誕生し、後継車両のキハ85系に交代する1990年までキハ82系が長年活躍を続けた列車としても知られる。

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高山本線の特急「ひだ」(撮影:南正時)

【写真】絵入りのヘッドマークとなった後の特急「ひだ」

似て非なる?特急「北アルプス」

「ひだ」と関係する列車として特筆されるのが、ともに高山本線で運転されていた名古屋鉄道(名鉄)の直通特急「北アルプス」である(当初は準急、のちに急行を経て特急に格上げ)。私鉄から国鉄乗り入れの珍しい気動車特急だった。

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キハ82系の特急「ひだ」と同時期に活躍した名鉄の高山本線直通特急「北アルプス」=1985年(撮影:南正時)

使用されていた名鉄のキハ8000系気動車は1965年から1969年にかけて製造され、名鉄のパノラマカー7000系同様に側面のワイドな連続窓が名鉄らしさを強調するとともに、前面の「ヒゲ」のある塗装や貫通型の前面などキハ82系を思わせるデザインだったが、性能は国鉄急行型気動車のキハ58系に準じていた。

「ヨンサントオ」で登場したキハ82系の特急としては、博多から小倉を経て日豊本線をほぼ全線走り抜き、西鹿児島に至るロングラン特急「にちりん」も挙げられる。日豊本線の非電化区間ではSLと共に走り、筆者は峠の駅である青井岳駅でのC57形牽引列車との行き違い風景が印象的だった。

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日豊本線の青井岳駅でC57形牽引の列車と行き違うキハ82系の特急「にちりん」=1974年(撮影:南正時)

この列車の間合い運用として、1974年に登場した特急「おおよど」があった。この列車は博多―宮崎間を鹿児島本線・肥薩線・吉都線を経由して結ぶ列車で、1980年まで運転された。筆者は沿線で何度か撮影したが、肥薩線の大畑ループを乗車できなかったことに悔いが残った。

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鹿児島本線の田原坂付近を走る特急「おおよど」(撮影:南正時)

キハ82系とキハ181系、外見の違いは?

キハ82系は国鉄の特急列車網拡大に大きく貢献し、その美しいデザインから引退後30年以上が経った今も鉄道ファンからの人気は高い。最後まで活躍した列車は「南紀」で、1992年3月のダイヤ改正で定期運用を終えた。

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キハ82系(左)と後継のキハ181系。違いはどこにある?(撮影:南正時)

【写真をもっと見る】北海道の特急「おおぞら」で筆者が密着取材した食堂車キシ80の車内や、山陰本線でD51形蒸気機関車と並ぶ「まつかぜ」、日豊本線でC57形と並ぶ「にちりん」など、キハ82系全盛期の勇姿。高山本線「ひだ」と共に走った名鉄のキハ8000系なども

最後に、キハ82系のパワーアップ版として登場したキハ181系は、見た目はほぼ同じデザインで鉄道ファンでも見分けがつきにくい。だが、よく見ると受ける印象は異なる。そこでキハ80系とキハ181系の前面の写真を並べてみたので、ぜひその違いを見つけてほしい。ヒントは、キハ82系は「女性的」、キハ181系は「男性的」デザインといわれていることだ。