NASAの木星探査機ジュノーが衛星エウロパの氷殻を測定 厚さは30km近くに達する可能性
木星の衛星Europa(エウロパ)は、分厚い氷の下に広大な内部海が存在すると考えられており、太陽系内で生命が存在する可能性が高い天体の一つとして注目されています。
今回、NASA(アメリカ航空宇宙局)の木星探査機「Juno(ジュノー)」で取得したデータを分析した結果、観測された範囲における氷殻の厚さが約29kmに及ぶ可能性が高いとする研究成果を、NASAのJPL(ジェット推進研究所)でJunoミッションのプロジェクトサイエンティストを務めるSteve Levinさんを筆頭とする研究チームが発表しました。研究チームの成果をまとめた論文はNature Astronomyに掲載されています。

【▲ NASAの木星探査機「Juno(ジュノー)」が2022年9月のフライバイ時に撮影した衛星Europa(エウロパ)(Credit: Image data: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS. Image processing: Björn Jónsson (CC BY 3.0))】
Europaの氷殻をめぐる長年の謎
研究チームは、2022年9月に行われたJunoによるEuropaフライバイ(接近通過)時の観測データを分析し、長年の謎だった氷殻の構造の解明に取り組みました。
Europaの表面は分厚い氷で覆われていますが、その下には液体の塩水(海水)の層が存在すると推測されています。しかし、表面を覆う氷殻がどの程度の厚さなのかについては、研究者の間でも意見が分かれていました。数km程度の「薄い殻」説から、数十kmに及ぶ「厚い殻」説まで様々なモデルが提唱されてきましたが、決定的な証拠が得られていなかったのです。
この論争に決着をつけるべく、研究チームはJunoの観測装置のひとつ「MWR(マイクロ波放射計)」のデータに注目しました。
マイクロ波による“透視”で導き出された氷殻の厚さ
今回の研究の鍵となったMWRは、物体から放射されるマイクロ波を捉えて温度を測定します。本来は木星の分厚い雲の下にある大気構造を調べるために設計されたものですが、Europaのような氷天体の内部構造を探る上でも強力なツールとなりました。
マイクロ波は可視光線よりも波長が長く、氷の内部深くまで浸透する性質を持っています。また、周波数によって「見える深さ」が異なるため、高い周波数は表面付近の温度を、低い周波数はより深い層の温度を捉えることができます。MWRはこれらの特性を活かし、異なる6つの周波数帯(チャンネル)を用いて観測を行うことで、氷殻の内部構造を深さごとに詳細に調べることを可能にしました。
2022年のフライバイ時、JunoはEuropaの表面から約360kmの距離まで接近しました。この時に得られたデータを研究チームは分析し、氷の温度勾配(深くなるにつれて温度がどう変化するか)をモデル化しました。その結果、対流のない純粋な水の氷と仮定した場合、フライバイ時にJunoが観測した範囲における氷殻の厚さは約29km(誤差±10km)であるとの結論に至りました。
研究チームによると、もしも氷の中に塩分が含まれていた場合、推定される厚さは5kmほど薄くなる可能性があります。それでも、「薄い殻」説が支持する数kmという厚さに比べれば、ずっと分厚いことになります。

【▲ NASAの木星探査機「Juno(ジュノー)」のCGイメージ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
表面の亀裂は深くまで届いてはいない可能性
さらに、MWRのデータは氷の厚さだけでなく、その内部構造についても興味深い事実を明らかにしました。
Europaの表面には、無数の線状の模様(線条)やカオス地形と呼ばれる複雑な崩壊地形が見られますが、これらは氷が割れたり動いたりした痕跡だと考えられています。
今回の観測データを解析したところ、表面近くの氷には、マイクロ波を散乱させる「散乱体」が存在することが示唆されました。この散乱体について研究チームは、幅数cmから数十cm程度の亀裂や空隙だと考えています。重要なのは、これらの構造が地下深くまで続いているわけではなく、表面から数百m程度の深さまでしか存在しないと推測される点です。
生命居住可能性への影響
今回示された「分厚い氷」に「浅い亀裂」という氷殻の特徴は、Europaの海における生命の可能性を考える上で重要な意味を持ちます。
生命が存在するためには、水だけでなくエネルギー源や栄養素が必要です。Europaの場合、木星からの放射線によって氷から分離した酸素やそれを含む化合物が、氷殻を通ってその下にある内部海へと運ばれるプロセスが、生命維持にとって重要だと考えられています。
しかし、もしも氷殻が分厚く、なおかつ表面の亀裂が浅い部分までにしか届いていないとすれば、表面の物質が内部海まで到達するのは、これまで考えられていたよりも難しいかもしれません。
Junoの主任研究員を務めるSwRI(サウスウエスト研究所)のScott Boltonさんは、「氷殻の厚さと、その中のひび割れや空隙の存在は、Europaのハビタビリティ(生命居住可能性)を理解するための複雑なパズルのピースです」とコメントしています。

【▲ 木星の衛星Europa(エウロパ)の氷殻断面の概念図(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/Koji Kuramura/ Gerald Eichstädt (CC BY))】
次世代のミッションへの架け橋
Junoがもたらした今回の知見は、Europaの全体像を解明するための大きな一歩ですが、まだ全ての謎が解明されたわけではありません。Levinさんによれば、冷たく固い外層の下に、少し温度が高い「対流する氷の層」が存在する場合、氷殻全体の厚さはさらに増す可能性があるといいます。
現在、NASAの探査機「Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)」とESA(ヨーロッパ宇宙機関)の木星氷衛星探査機「JUICE(ジュース)」が、2030年代の木星系到着を目指して飛行を続けています。特に、Europa Clipperには氷殻の厚さや内部海の性質を詳細に調べるための氷透過レーダーなどが搭載されており、Junoの観測データをもとに示された今回の研究成果の検証につながることが期待されます。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
・NASA/JPL - NASA’s Juno Measures Thickness of Europa’s Ice Shell | NASA Jet Propulsion Laboratory
・Levin et al. - Europa’s ice thickness and subsurface structure characterized by the Juno microwave radiometer (Nature Astronomy)