なぜ文系で数学必須が広がるのか 東洋大・経済学科で8割が「数学受験」 15年かけた改革とは

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社会の変化を背景に文理融合教育が求められる中、文系の学生にもデータサイエンスやAI(人工知能)を学ばせる大学が増えています。しかし、大学入試の現場では、私立大学の文系学部の多くは英語、国語、地歴・公民の3科目が主流で、私立文系専願者は早い段階で数学を“捨てる”ことが少なくありません。そんな中、15年をかけて文系学部の「数学必須入試」を増やし、経済学科では一般選抜入学者の8割が数学受験になった大学があります。(写真=東洋大学の白山キャンパス、編集部撮影)

文系学部の入試で数学を必須に

文系学部の数学必須入試といえば、早稲田大学の政治経済学部が2021年度入試から大学入学共通テストの数学Ⅰ・Aを課し、日英両言語の長文を読ませる独自問題を導入したことが知られています。入学後に同学部の授業を履修するには、数学の知識を必要とすることが背景にあります。

しかし、関西地区のある総合大学の担当者は、「文系学部の入試に数学を課したいのはやまやまだが、受験者が減るので、とてもうちでは怖くてできない」と本音を語ります。

実際、早稲田大学政経学部でも、入試を変えた21年度の志願者数は5669人で、前年より約2200人、28%も減り、早稲田大学全体の志願者も10万人の大台を割って9万1659人に急減したことが話題になりました。政経学部の志願者数は、翌22年度はさらに減って5000人を割り込みましたが、23年度以降は徐々に回復し、25年度は7215人まで戻っています。入試改革が定着し、受験者にも周知された結果と言えます。

一般選抜入学者の78%が数学利用

こうした中、早稲田大学に先駆けて、文系学部の数学必須入試を導入し、拡大してきたのが東洋大学です。

経済学部経済学科に数学必須の入試方式を導入したのは、11年度入試から。徐々に他の文系学部・学科に広げていき、11年度の募集人員は15人、志願者は146人にすぎなかったのが、25年度は募集人員848人、志願者は1万257人にまで急増しています。

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東洋大学経済学部経済学科では、数学必須入試での入学者数も右肩上がりに増えた(図=東洋大学提供)

文系の一般選抜の入学者に占める数学必須入試の割合も、11年度の0.4%から22年度に11.5%、25年度は22.6%と初めて20%を超えました。中でも導入の起点となった経済学科では、25年度の一般選抜入学者のうち、78.0%が数学必須入試で入学しています。

東洋大学のような大規模大学で文系の数学入試を拡大していった秘訣について、加藤建二・入試部長は「一気にやったらダメです。志願者は5分の1くらいに減ってしまいます。東洋大学は数学必須の文系入学者を増やしたいという思いがあって、15年かけてここまで来ました」と話します。

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加藤建二・入試部長。長年、東洋大学の入試改革を担ってきた(写真=編集部撮影)

きっかけは経済学を理解できない学生

加藤部長は08年に入試課に異動する前は経済学部の教務課にいました。

「当時は入学時に数学のプレースメントテストでクラス分けをしていましたが、高校時代に数学を学んでいないために経済学についていけない学生がいました。入試課に移ってから経済学科の先生と相談して、数学必須の募集人員を徐々に増やしていきました」

具体的には経済学科の場合、まずは数学を含む4科目、5科目型を導入し、さらに3科目型では英語、国語、地歴・公民から1科目選択だったのを、英語、国語、地歴・公民型と英語、国語、数学型に募集人員を分けました。その後、英国数型や4科目、5科目型に募集人員をシフトしていきました。

「受験生は受験先を決める際、前年の合格ラインや倍率を気にします。この合格ラインや倍率を受験生が受けやすいようにコントロールすることで、受験生は増えていきます。経済学科で成功したので、この10年くらいで他の文系学部・学科に広がりました。文学部でも学科によって導入しています。高校の先生も今では『東洋大学の入試は数学が必要』と思っています。これからの時代は文系でもプログラミングを学んでいくことになります。間違いなく数学は必要です

5科目、4科目型入試の入学者も、25年度は大学全体で一般選抜入学者の22.6%を占めています。

数学入試の拡大で学生の質も向上

入試を変えたことで、入学者の質も変化しました。東洋大学は各高校の大学進学実績を分析することで、ターゲットとする高校を設定しており、その数は1200校に及びます。東洋大学の入学者のうち、ターゲット校出身者の比率は、08年度は33.3%でしたが、25年度は55.9%にまで増えています。

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東洋大学では高校の上位校からの志願者も増加傾向。2025年度は2年連続でターゲット校の志願者が50%超になった(表=東洋大学提供)

受験生の併願先も変わり、以前は日東駒専(日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学)の中での併願が多かったのが、今は明治大学や立教大学などとの併願に変わってきたと言います。

「教員たちが一番、『学生が変わった』と実感しているようです。入学すると4月に英語や数学などの基礎テストを行いますが、『今年の結果が最もよかった』などと言われます。学生の質が変わったことで、教員も教えることが面白くなっているように感じます

昨年末の学校推薦型選抜で物議を醸した基礎学力テスト型入試の導入も、こうした入試改革の延長線上にありました。

「教科型の学力は小論文やプレゼンでは測れません。中堅以下の多くの大学で、基礎学力に欠ける受験生が総合型選抜で入学している現状を見て、『年内入試でも大学の授業に耐えられる基礎学力をつけてほしい』というメッセージを出そうと思いました

次の課題は英語外部試験の活用

今後の入試の課題に挙げるのは、英語の4技能を測るために外部試験の利用率を高めることです。25年度の一般選抜(前期)での英語外部試験利用率は57.4%に達していますが、地域差が大きく、首都圏(1都3県)の志願者では62.1%なのに対して、首都圏以外では45.5%にとどまっています。地方では地元の国公立大学などが利用しないと、外部試験を利用する受験者数が増えないことが背景にあります。

「入学者を追跡調査すると、GPA(成績評価)や海外プログラム参加率は外部試験利用者のほうが高いことがわかっています。外部試験の割合を高めて利用率60%をめどに、本学の英語試験を廃止して外部試験だけにすることを目指しています

私立大学の主流である3教科入試で文系学部が数学を必須とするところは増えていませんが、共通テスト利用入試に数学を含む4教科、5教科型を導入し、国立大学との併願者を獲得しようとする大学は増えています。

例えば、近畿大学は25年度入試で、近年、合格者が増加傾向にある共通テスト利用方式に新たに多科目型を導入し、医学部を除いた学部の共通テスト方式(前期)で5教科以上の多科目型を選択できるようになりました。

文系であっても、大学に入ればAIやデータサイエンスを学ぶことが求められる時代。大学受験では、早々と教科を絞らず、幅広く勉強していたほうがいいでしょう。

(文=中村正史)