首都圏の鉄道が続々とワンマン化、山手線は自動運転へ 安全性と現場のやりがい低下の懸念も

■かつてはローカル線の象徴だった

 「立川行き、ドアが閉まります」

 神奈川県川崎市を貫く大動脈、JR南武線。平日の昼間、川崎駅で立川行きの電車に乗ると、発車直前に車内のスピーカーから流れたのは、車掌ではなく運転士の声だった。

 川崎~東京・立川間を結び、通勤・通学の足として沿線住民の生活を支えてきた南武線。全線にわたり、運転士だけで列車を運行する「ワンマン運転」を行っている。

 6両編成の列車の最後部に車掌の姿はない。運転士は、運転台の上部に設置されたモニターを見ながらホームの安全を確認し、別の手元のモニターでドアの開閉を行うと、電車を出発させた。

 ワンマン運転は、かつてローカル線の象徴だった。国鉄末期の1980年代、赤字ローカル線の合理化策として広がった。ただ、ローカル線には券売機も自動改札もない無人駅が多く、車内で運転士が運賃の収受まで行う必要があったため、ワンマンで対応できるのは2~3両編成だった。

 一方で、技術が発達し次第に都市部でも状況が変わった。券売機や自動改札が整備され、交通系ICカードの普及により車内で運賃収受が不要となった。加えて防犯カメラやホームドアの整備が進み、安全性も高まった。こうした技術革新により、都市部を走る10両編成などの長い列車でもワンマン運転が可能になった。都市部に広がるこの運行形態は、「都市型ワンマン」と呼ばれる。

 首都圏の都市型ワンマンは、1991年に都営大江戸線が開業時から導入したのを皮切りに、東京メトロや東急電鉄などの各線で実施が進む。

 関西では、阪急電鉄が都市型ワンマンを相次いで導入する。2024年3月に伊丹線(塚口~伊丹〈兵庫〉)で開始し、今年3月には箕面線(石橋阪大前~箕面〈大阪〉)、来年春ごろに嵐山線(桂~嵐山〈京都〉)にも広げる予定だ。

 こうした流れのなか、JR東日本もワンマン化に舵を切った。

 先陣を切ったのが、冒頭の南武線と、東京などを走る常磐線各駅停車(綾瀬〈東京〉~取手〈茨城〉)だ。昨年3月、運転士と車掌の2人体制だった列車を、運転士だけのワンマン運行とした。

 ワンマン化の狙いについてJR東は、「生産年齢人口の減少による労働力不足などを背景に、鉄道の効率性と持続可能性を高めるため」と説明し、こう続ける。

「これにより、社員の活躍のフィールドや成長機会を広げるとともに、限られた人材を人にしかできない創造的な仕事へとシフトさせ、社員の就労意識の変化にも対応していく」

■技術革新で可能になった都市圏の“ワンマン”

 今年の3月14日には、横浜・根岸線(八王子〈東京〉~大船〈神奈川〉)間で開始し、来年春には京浜東北・根岸線(大宮~南浦和〈埼玉〉、蒲田〈東京〉~大船)、中央・総武線各駅停車(三鷹〈東京〉~千葉)でも導入予定だ。

「その後30年頃までに、山手線、埼京・川越線(相鉄直通線含む)においても準備を進め、ワンマン運転を実施する予定です」(同)

 鉄道ライターの小林拓矢さんは「どの鉄道会社も、ワンマン化はやらざるを得ない状況になっている」と指摘する。

「数十年単位で見ていくと、人口減少に伴って輸送量は確実に減っていきます。鉄道の運輸収入は大きな伸びは見込めず、働き手の確保も一層難しくなります。そうした状況のなかで、各社は人手に頼らない体制づくりとして、ワンマン運転を選択せざるを得なくなっています」

 ワンマン化によって懸念されるのは安全性だ。車掌が不在となることで、これまで車掌が担ってきたホームでの乗客の安全確認や車内トラブルへの対応が手薄になる恐れがある。

 JR東は対策を進めている。列車発車時の安全性向上のため、運転席に乗降確認モニターを設置。あわせて、JR東として初めて、異常時等で乗客と輸送指令室との通話や輸送指令室から直接車内放送を行う機能を導入したという。

 さらに、人工知能(AI)を用いた新たな安全技術も導入する。今年の2月下旬、神奈川県内を南北に走る相模線(茅ケ崎~橋本)で、「AI人物検知システム」の運用を開始。車両に人が接近している場合に検知できるようにした。

 相模線は21年の時点で、ワンマン対応した新型車両「E131系」を投入。各車両の前後に、乗降の様子を確認するためのカメラを搭載した。従来のカメラは、離れた場所にいる人物は小さく映り、検知が難しかった。そこで、2基のカメラ画像を統合してAIで人物を検知する技術を開発。カメラから遠ざかっても検知率が低下しないようにした。今後は、ほかの路線でも、ホーム上の混雑が目立つ路線に順次導入していく予定だという。

「すべての人にとっての安心実現に向けて、安全設備の高度化を図っていく」(JR東)

 阪急電鉄は、乗客により安全・安心に利用してもらうため「センサ付ホーム固定柵や列車内に防犯カメラを設置し、駅間に避難誘導看板を設けている」と説明する。

 センサ付ホーム固定柵は、センサ機能によって車両とホーム固定柵の間に人がいないかを検知し、安全を確認して戸閉め操作を行う。列車が動き出した後も、異常があれば運転士に知らせる仕組みだ。

■ぽっぽや(鉄道員)のモチベーションは

 こうして各社が安全確保に向けた整備を進める一方、鉄道ライターの小林さんは「ソフト面での対策が心配だ」と語る。

「いくら自動化されたとはいえ、車掌がいなくなった分、運転士が担う業務は確実に増えます」

 たとえば、踏切内で事故が起きた場合、一部ワンマン運転列車では指令室が異常をキャッチし、車内のスピーカーを通じて直接、乗客に状況を伝える仕組みになっているという。それでも、運転士は指令室とのやり取りや現場対応を同時にこなさなければならない。車掌とともに運行する場合より、負担は明らかに増す。

「運転士の負担の増加は疲労の蓄積につながり、結果として安全運行に影響を及ぼしかねません」(小林さん)

 ワンマン化の先には、運転士も乗車しない完全自動化が見据えられている。

 JR東は、山手線に35年までに自動運転システムを導入する計画だ。新幹線も、上越新幹線(東京~新潟)で30年代半ばの自動運転化を計画。将来的には、北陸新幹線(東京~敦賀〈福井〉)や東北新幹線(東京~新青森)においても、自動運転を視野に入れている。

 小林さんは、完全自動運転には、人と車両の接触のリスクを低減するためのホームドアの設置や、踏切を廃止して高架化・地下化する対策が不可欠だと指摘。そして、次のような懸念も示した。

「鉄道で働く人たちのモチベーションが下がるのではないかと思います。現場の人間は誇りを持ってやっている。完全自動化になれば、やりがいを失うのではないでしょうか」

 ワンマン運転から完全自動化へ。効率化を加速させている鉄道において、安全性を確保しながら、現場で働く人のモチベーションをいかに保つのか――。今後の鉄道の成否を握っている。

(AERA編集部・野村昌二)

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