最新型駆逐艦のCIWSを急遽取り替えた北朝鮮、金正恩が抱く不安と恐れ

防空レベルが低い北朝鮮の不安, 防空兵器の質と量が国家存亡のカギ握る,  台数が限られる新型防空兵器, 北朝鮮は大部分が旧式の防空兵器, 巡航ミサイル攻撃を防ぐ手段が乏しい, CIWSを急遽取り替えた北朝鮮, 防空システムの急な性能向上は難しい

訪朝し金正恩総書記と会談したロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領(2025年10月10日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

防空レベルが低い北朝鮮の不安

 2025年6月、イランの核施設が米軍、イスラエル軍によって破壊された。また、2026年1月にはベネズエラ大統領が米軍によって拘束された。

 この事件を見た北朝鮮の金正恩総書記は、明日は我が身だと不安を覚えたのではないだろうか。その不安は、イランの最高指導者以上に深刻なはずだ。

 それはなぜか。北朝鮮の防空兵器がイランやベネズエラよりも見劣りがするからである。

 イランとベネズエラで米軍が実施した作戦では、作戦開始と同時に、両国の防空兵器を破壊あるいは機能を停止させ、妨害できなくした。

 実は、イランやベネズエラは、ロシア製の優れた防空兵器を保有し、防空システムも十分に整備されていた。にもかかわらず、米軍の攻撃に手も足も出なかった。

 イランやベネズエラより旧式の防空兵器が多いとみられる北朝鮮は、米軍の攻撃に耐えられるはずがないと考えて当然だろう。

 本稿では、米軍から斬首作戦を受ける恐れがある北朝鮮の防空兵器が、米軍のミサイル攻撃に対処できるのかについて考察してみたい。

防空兵器の質と量が国家存亡のカギ握る

 現代の戦いでは、地上あるいはステルス戦闘機から発射されるミサイルで相手国を攻撃するのが通常だ。一方、防御側は防空兵器を保有しそのミサイルを空中で破壊する。

 もし防空兵器がなければ、あるいはその兵器が時代遅れで現代戦に対応できていなければ、ミサイル攻撃で壊滅状態になる可能性が高い。

 しかも、攻撃してくる相手がステルス戦闘機を保有している場合、探査レーダーをくぐり抜けて防空範囲内に入って攻撃してくるので、防空兵器のみならず軍事基地などに甚大な被害をもたらすことになる。

 そのため、どんなに強力な攻撃兵器を開発して保有していても、優れた防空兵器がなければ国家防衛という観点からは不十分だ。

 例えば、ウクライナ戦争で、確かにロシアのミサイルは優秀でウクライナのエネルギー施設などに大きな被害が出ている。

 しかし一方で、ロシアの国土をカバーする防空兵器が脆弱あるいは十分な量がないため、ロシア国内のエネルギー施設が、ミサイルや低速の自爆型無人機に破壊される事態が生じている。

図1 ロシアの防空システムとウクライナの各種ミサイル等攻撃(イメージ)

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 出典:各種情報に基づき筆者が作成(図は以下同じ)

 ロシアの防空兵器を導入しているイランやベネズエラが、ウクライナよりはるかに強力な米軍にそれらの防空兵器がミサイル攻撃を受けて破壊され、壊滅的被害を受けたのはうなずけよう。

 台数が限られる新型防空兵器

 では、ミサイル開発を進めている北朝鮮の防空の実態はどうなのか。

 北朝鮮は、ロシア製「S-300」そっくりの「KN-06(ポンゲ5)」防空ミサイルを2017年から運用を開始したという。その後も、その改良型の実験を継続的に行ってきた。

 2025年11月にロシアの「S-400」、「S-500」と外観がそっくりの防空ミサイル発射機が、航空隊創設80周年記念式典に展示された。

 おそらく、ロシアからS-400やS-500の技術供与を受け、実験をしていると考えられる。

図2 防空兵器イメージ図 左:S-400 右:S-500

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 北朝鮮が公表する写真などを継続的に見ていると、それらの防空ミサイルシステム(ミサイル発射機、監視・射撃管制レーダーや射撃管制システム)がロシア製とほぼ同じであることが分かる。

 このことから、北朝鮮の防空兵器はロシア製を基本とし、発射機の一部分を北朝鮮が改造しているとみてよいだろう。

 北朝鮮が実際に保有しているとされるロシア製S-300/400/500シリーズの防空兵器は、実験が終了したS-300の1セットのみで、他は実験中のものだけだとみられる。

北朝鮮は大部分が旧式の防空兵器

「ミリタリーバランス2025」によると、北朝鮮が現在保有する防空兵器は、長中射程の「SA-2」(射程45キロ)約180基、「SA-3」(射程35キロ)約20基、「SA-5」(射程60~300キロ)約10基である。

図3 北朝鮮が現在保有している各種防空ミサイル(イメージ図)

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 北朝鮮が保有するこれらのミサイルは、旧ソ連で1960年頃から1970年頃の間に運用が開始され、北朝鮮には1980年頃から、SA-2、SA-3/5の順で逐次供与されてきたものだ。

 これらは50年以上も前に運用開始されたものであり、現代の戦闘機や巡航ミサイルとの対空戦闘では時代遅れになっているとみられる。

 軍事専門家の間ではレーダーの監視能力の低さ、レーダーのミサイル誘導能力の問題が指摘され、ミサイル自体が捜索・追随する能力の低さ、戦闘機の速度と動きの変化を追えない性能、電子戦に弱いという評価を受けている。

 この10年ほどを考えただけでも電子技術は長足の進歩を遂げており、常識的に考えても時代遅れになっているのは間違いない。

図4 北朝鮮が考えていると想像される防空能力(イメージ)

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 さらに、北朝鮮は新型のレーダー付き短距離防空ミサイル(携帯対空ミサイルを除く)をほとんど保有していないようだ。

 北朝鮮が保有できていないとみられている理由は、ロシアがウクライナ戦争でウクライナに防空兵器を大量に破壊されている状況からみて、北朝鮮に提供できるほどの余裕がないのは明らかだからである。

巡航ミサイル攻撃を防ぐ手段が乏しい

 米軍からミサイル攻撃を受け破壊されたイランやベネズエラの防空兵器の実態から、北朝鮮の防空能力は比較的容易に推測できる。

 ベネズエラは、長距離防空ミサイルのSA-3、S-300、中距離防空のブークを保有していたが、短距離防空ミサイルは保有していなかった。

 短距離防空用には、新型の携帯対空ミサイルの「SA-16」(レーダーが付属せず目視による監視のため目標捜索能力が低い兵器)を大量に保有していた。

 少なくとも、比較的新型のS-300やブークは、ロシアによれば巡航ミサイルを撃墜できるという評価であった。

 しかし、ロシア製兵器の信用は、米軍の攻撃・破壊によって完全に裏切られてしまったようだ。

 イランは、ベネズエラよりも近代的でまた自国開発の防空ミサイル、具体的には、ロシア製の長距離防空ミサイルのSA-2、SA-5、S-300、S-400(情報によって有無が異なる)、中距離防空のブークや米国製の「ホーク」、短距離防空のロシア製の「トール」、中国製の「紅旗」(ロシア製SA-4と同等)を保有している。

 ロシア製の兵器を参考にして自国開発した防空兵器を大量に保有していたという情報もある。

グラフ 北朝鮮・イラン・ベネズエラの防空ミサイル保有数

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出典:ミリタリーバランス2025などより筆者作成

 両国とも、新型を含めたこれだけ大量の防空兵器を保有していれば、都市、核施設、軍事施設の防空は可能だと考えていただろう。

 だが、両国とも米国やイスラエルの航空攻撃で重要施設は破壊され、電子戦攻撃によって無力化され、ほとんど何もできなかった。ロシア製の防空兵器が公表されている諸元通りに機能しなかったのは間違いない。

CIWSを急遽取り替えた北朝鮮

 北朝鮮は2025年4月25日、駆逐艦「崔賢」号の進水式を行った。

 その駆逐艦の左右の側面にロシア製の30ミリCIWS(Close-in weapon system:近接防空システム)「AK-630」が設置してあった。その火器の射撃映像が4月28日に公表された。

写真1 左:「崔賢」号設置の「AK-630」、右:「崔賢」号設置「AK-630」の射撃

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出典:朝鮮中央通信

 ところが、同年10月5日に金正恩氏が「崔賢」号を視察した時の写真では、写真2の兵器に取り替えられていた。

 写真1と2を比べると、形が全く異なっていることが分かる。北朝鮮は、わずか5か月ほどしか経っていないのに、完成した兵器を交換したのである。

写真2:取り替えられたCIWS

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出典:朝鮮中央通信

 この形のCIWSに類似したものを調べたところ、中国の「730型CIWS」にかなり似ている。しかし、レーダーの形や位置などが異なり、全く同じではない。

 半年もたたないうちに、ロシア製のCIWSを取り外し、中国製に似たCIWSに取り替えた理由は何か。

 考えられる変更の理由は、①CIWSの「AK-630」が時代遅れで、実際の射撃実験の結果、攻撃してくるミサイルを撃墜できなかった、②ロシアが北朝鮮に新型の兵器ではなく旧型を供与した、③ロシアの防空兵器がウクライナ戦争でウクライナのドローンにより大量に破壊されている実績などであろう。

 CIWSは、国産艦へのミサイルの攻撃に対して最後の砦だ。

 この兵器が万一十分に機能しなければ、高価で大量の兵器を搭載し兵士も多く乗り込んでいる艦船が沈められてしまう。北朝鮮の金正恩氏は、より信頼できる兵器を選んで、早期に取り替えたのだろう。

防空システムの急な性能向上は難しい

 ウクライナ戦争でも、イランやベネズエラへの航空攻撃でも、ロシア製の防空兵器はことごとく破壊されて、重要施設などを守ることはできなかった。

 その結果、ロシアの防空兵器の性能では、米国製ミサイルを撃墜できないことが判明した。

 さらに、北朝鮮は、低空からの攻撃を防ぐ短距離防空ミサイルをほとんど保有しておらず、低空で飛行して攻撃する戦闘機、巡航ミサイル、ドローンには対処できないとみられる。

図5 北朝鮮防空能力の現実 左:能力最大の見積もり 右:妥当な能力見積もり

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 低空からの攻撃を阻止できなければ、レーダーなどが破壊され結果的に高高度や中高度からの攻撃も阻止できなくなり、防空組織が崩壊してしまう。ウクライナ戦争でのロシア防空実態がこのことを示している。

 ロシアの防空兵器を導入してきたロシアの友好国は、ウクライナ戦争、イランへのイスラエルと米軍の攻撃、ベネズエラへの米軍による電撃作戦で自国の空を守れないことに気付いたはずだ。

 しかし、対処しようにもロシアの状況や経済制裁その他の環境からみて、米国や欧州、また日本の防空兵器の性能にキャッチアップするには相当な時間がかかりそうである。

 北朝鮮の金正恩氏がおそらく抱いているであろう不安は、今後しばらく続くとみて間違いない。

 イランやベネズエラのように石油という資源がない北朝鮮は、背後に中国も控えていて、米国からすぐ攻撃を受けるというような状況にはない。しかし、金正恩氏の心中が穏やかではないのは確かだろう。

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