イラン革命防衛隊、究極の試練に直面

毎年行われる軍事パレードで行進するイラン革命防衛隊(2024年)
米国・イスラエルの空爆は、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師など多くの最高幹部をわずか数時間のうちに殺害した。しかし、体制存続を確実にするため、指導部が管理してきた巨大な治安機構は依然として健在だ。
精鋭軍事組織「イラン革命防衛隊(IRGC)」は、20万人近い兵力を擁する準軍事組織としてよく知られている。同隊はまた、正式な政治・経済体制と並行して活動する勢力としても機能しており、その主な任務は、1979年のイラン革命後につくられたイスラム体制を防衛し、その影響力を中東全域に拡大することにある。
IRGCが打倒されるか、あるいは何らかの形で転向させられない限り、不正な活動を通じて資金を生み出し、イエメンの親イラン武装組織フーシ派のような代理勢力が米国とその同盟国に挑発行為を繰り返すのを支援する能力は維持されるだろう。IRGCはイランの通常軍隊とは別の軍事部門と情報部門を持ち、国内の企業活動に深く根を下ろしている。
IRGCの傘下には、地域内各地の武装組織との関係を担う秘密性の強い「コッズ部隊」のほか、ミサイル計画やイラン国内の治安を担当している部門もある。
イスラエルは2月28日、IRGCに甚大な被害を与え、同隊のモハンマド・パクプール司令官やハメネイ師の軍事顧問アリ・シャムハニ氏のほか複数の高官を殺害した。これは、イスラエルと足並みを揃える米国が、IRGCの弱体化を狙っている証左といえる。IRGCの関連施設に対する攻撃は、同隊の下部組織の工作員に対する統制を揺るがし、国内の反対勢力を抑え込む能力を低下させる可能性があるとアナリストらは指摘している。
テネシー大学チャタヌーガ校のサイード・ゴルカル准教授は「IRGCの頭を切り落とせば、その体は震え始めるだろう」と語った。
イスラエルが攻撃した標的には、IRGCの本部「タラッラー(Tharallah)」が含まれていた。タラッラーは混乱が生じた際に、情報機関、警察機関、路上で取り締まりを行う民兵組織「バシジ」の活動、心理作戦などを調整している。
IRGCはイラン国内では支配的勢力だが、米国およびイスラエルと比較すると戦力は圧倒的に低い。それでも、アナリストやイランの反体制派指導者によると、IRCGを機能不全に陥らせるためには、数週間から数カ月にわたって空爆やその他の軍事措置を講じざるを得なくなる可能性がある。そうしない場合、イランの体制は維持され、一層抑圧的になる公算が大きい。今回の米国とイスラエルによる攻撃を生き延びた強硬派が権力の座にしがみつこうと、体制に忠実なIRGCの部隊をさらに動員するとみられるからだ。

ルーホッラー・ホメイニ師の写真と武器を持って集結したイラン革命防衛隊の兵士たち(1981年6月)
ハメネイ師の死去によって「体制内で最も強硬かつ軍事化された勢力の影響力が強まった」と米ワシントンのリスク助言会社バシャ・リポートの創業者、モハメド・アルバシャ氏は指摘し、「この機に乗じられるほど組織化された反体制派は存在しない。そのため、今後は改革ではなく権力の集約が進み、閉鎖的な軍事国家に近づく可能性が高い」と述べた。
ドナルド・トランプ米大統領は28日、IRGCと警察が「平和的に一体化」して、政府に反対している一般のイラン人と「連携」するよう呼び掛けた。同大統領はソーシャルメディアへの投稿で、「われわれはIRGC、イラン軍とその他の治安・警察部隊の多くがもう戦いたくないと考え、免責を求めていると聞いている」と述べた。
しかし、47年間続いてきたイスラム強硬派による統治および反米政権からの移行は、短期的には最も起こる可能性が低いとみられているシナリオだと、アナリストらは述べている。
IRGC内部には現実主義者もいるが、彼らのイスラム原理主義への忠誠度は、ハメネイ師や彼とともに国を支配してきた聖職者らに劣らない。IRGC幹部の多くは、1980年代の激しいイラン・イラク戦争の時期に、兵士として戦いながら成人を迎えた。そしてこの時期に、イランの現体制を支えるIRGCの中心的役割が確立された。アナリストらによれば、ハメネイ師による支配の下で、イデオロギー教育がさらに広く根付いたという。

演習に参加する革命防衛隊の特殊部隊(2006年)
イラン政府は、IRGCが主導権を握る一種の軍事独裁体制へと移行する可能性がある。米軍が1月初めにベネズエラを攻撃して同国のニコラス・マドゥロ大統領を拘束し米国に移送したことを受けて、同国のデルシー・ロドリゲス副大統領(後に暫定大統領)が米国の意向に沿った行動を示した。だが、アナリストらは、ロドリゲス氏のような人物がイランに現れることは想像し難いと話す。
イランの現政権に反対する米国内の政治組織「ユナイテッド・アゲインスト・ニュークリア・イラン(UANI)」でIRGCに関する調査の責任者を務めるカスラ・アラビ (Kasra Aarabi)氏は「IRGCは極めて過激で宗教思想に染まった戦闘組織だ。このため彼らが離反する可能性は低いと思う」と指摘した。
アラビ、ゴルカー両氏が執筆した報告書によると、IRGCはテヘランの22行政区の全てで軍事施設を監督しており、各施設には傘下の民兵組織バシジの部隊が配備されている。バシジは1月に起きた民衆の抗議デモを政府が鎮圧した際に主導的役割を果たしたという。この主要な軍事施設以外に、テヘラン各地のコミュニティーの大半に小規模なバシジの施設があり、その数は3000に上る。
同報告書によれば、イラン全土に同様の支配構造が存在している。
米ワシントンのシンクタンク「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」のリチャード・フォンテーン所長はソーシャルメディアに投稿し、イランを占領して地上軍を送り込まない限り、イラン政権を倒すことは「極めて難しい」と指摘。「IRGCとバシジは依然として銃を持っているが、一般市民は今も銃を手にしていない」と説明した。
2月28日に米国とイスラエルがイランを攻撃すると、治安部隊は反体制デモが路上で行われるのを阻止する措置を取った。反体制派は昨年12月と今年1月に大規模な街頭デモを行い、多くの死傷者を出す弾圧を招いた。警察はテヘラン全域に検問所を設置し、バシジは大学で反米デモを行った。大学が反体制感情の温床となるケースが多いからだ。

2024年、イランの民兵組織「バシジ」の隊員たちに演説する最高指導者アリ・ハメネイ師
イラン指導部は、指揮系統の崩壊につながりかねないような体制への攻撃に備えてきた。IRGCは2月、指揮官が独立して部隊に命令を下すことのできる「モザイク防衛戦略」を復活させると発表した。この戦略は、外国からの攻撃に対する強靭(きょうじん)性を高めることを特に重視して設計されている。
イラン当局者によると、同国は軍事作戦が長引いた場合に備え、指導部全体で、陸軍司令官を含む4階層のバックアップ体制を敷いている。
IRGCは、ハメネイ師の死が公表された後の声明で、「断固として、内外の陰謀に立ち向かいイランを攻撃する者たちを罰する」と宣言した。
イラン当局者によると、政権は以前から、ハメネイ師が死亡した場合の緊急時対応計画を立てていた。後継者候補には、この体制の創始者であるルーホッラー・ホメイニ師の孫であるハッサン・ホメイニ氏も含まれているが、彼らはハメネイ師のような威信や高官との人脈を持ち合わせていないという。当局者によれば、一つの可能性として、ゴラムホセイン・モフセニ・エジェイ司法長官と2人の高位聖職者が共同で国を運営することも考えられるという。

革命防衛隊のモハメド・パクプール司令官は、28日の攻撃で死亡した
イラン当局者やその他の体制支持者らによると、イラン情報機関は、軍事司令官が権力を掌握する計画を策定している。何年も前から、聖職者支配からの移行は進んでいた。その背景には、IRGCが経済の大部分を掌握し、大学や企業に体制支持派グループを置き、従来の軍や政府内に入り込んできたという状況がある。
権力を掌握する最有力候補としてはイラン最高安全保障委員会(SNSC)事務局長のアリ・ラリジャニ氏と現国会議長モハンマド・バゲル・ガリバフ氏の名前が挙がっている。いずれもIRGCの元司令官だ。