レーザー光、精度1cm単位で領土を測定 日本列島守り続けた海上保安庁の観測所が閉所へ

人工衛星に向かって放たれるレーザー光。星空とともに緑色の光線が見える=2月3日午後6時49分、和歌山県那智勝浦町の海上保安庁下里水路観測所(20秒間露光、魚眼レンズ使用、彦野公太朗撮影)
高度800キロの宇宙空間を、秒速7キロで移動するサッカーボール大の人工衛星。肉眼でその軌跡を追うことはできないが、望遠鏡を使って夜空をまっすぐに差す緑の光がそれを可能にする。レーザー光が人工衛星に反射して戻ってくる時間を計測し、地上から衛星までの距離を求める作業を日夜続けているのが、海上保安庁下里水路観測所(和歌山県那智勝浦町)だ。
主な任務は、海図作製などに必要な基礎データを集めること。昭和19年に前身の勝浦地磁気観測所が設置され、船舶の位置を知るための天体観測や、磁気コンパスの誤差を把握するための地磁気の観測を行ってきた。人工衛星を照射して距離を求める衛星レーザー測距(SLR)を開始したのは57年から。精度1センチでの測定を積み重ねて日本列島の位置を精密に確定し、海図作製に役立ててきた。

下里水路観測所
人工衛星の高度は500~2万キロ、大きさもさまざまだ。所員らはコンピューターに人工衛星の軌道予報を入力し、照射角度を千分の1度単位で調整しながらレーザーを操る。
当初はコンピューターの性能が低く、一晩で最大9基しか観測できなかったが現在は40基程度に増え、令和5年には通算5万回の観測を達成。昨年は過去最高の観測に成功し、今年もそれを上回るペースだ。内田智宏専門官(43)は「衛星によって特徴が異なるため、最適な設定を行います。どの衛星を測定するかの優先順位や、雲や天候も頭に入れて作業しています」という。

レーザー測距に用いる望遠鏡の前で説明する鈴木充広所長
地球を覆う岩盤「プレート」の移動や地震などで、大地は変動し続けている。正確な位置情報は現代に欠かせないインフラの一つで精密な経緯度は、車の自動運転にも生かされる。ただ、近年では国産の人工衛星「みちびき」や米の衛星利用測位システム(GPS)を使い、高精度な位置確定が可能になってきた。
また、同観測所は世界各国がSLRデータを共有する「国際レーザー測距サービス(ILRS)」にも参加してきたが、5年には茨城県つくば市にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の施設が完成、SLRが行われている。
「代替手段ができつつあり、これも時代の趨勢(すうせい)ですね」と鈴木充広所長(64)。同観測所でのSLRは12月末で終了し、来年3月に閉所する予定だ。まっすぐな緑の光を操る緻密な測定は、それまでたゆまず真摯(しんし)に続けられていく。(写真報道局 彦野公太朗)

観測を行う内田智宏専門官