高市政権が迷い込む「イラン」と「予算案」の袋小路

首相官邸に入る高市首相。予算案の年度内成立とイラン問題という2つの難題にどう臨むのか(写真:時事)

新年度予算の年度内成立をめぐる与野党攻防が3月6日、最大のヤマ場を迎えた。自民党と日本維新の会が組む連立与党は圧倒的な“数の力”を背景に、予算案の13日衆議院通過&年度内成立という強行突破を狙う。対する野党側は与党側が少数にとどまる参議院での審議もにらみ、「過去に例のない審議日程や時間短縮は国会軽視」など喧伝し、徹底抗戦の構えだ。

【写真あり】この時は友好ムードが漂っていたけれど、今回はどうなる?

高市早苗首相はこうした野党の批判に対して、「国民生活に支障を来さないためにも、年度内成立が必要」と繰り返し主張。国際社会を揺るがしているアメリカ・イスラエルとイランの軍事衝突による日本経済への影響拡大も審議短縮の理由に挙げ、自らの主張の正当性をアピールしている。

こうした高市首相の言動について、自民党内からは「まさに“高市独裁”。自民党の歴史的大勝を自らの成果として暴走すれば、高転びしかねない」(同党長老)との声も少なからず聞かれる。

ただ、ここに来て「カタログギフト問題」などマイナス要因も相次ぐのに、高市内閣の支持率はなお高水準を維持していることから、同党内でも「『モノ言えば唇寒し』という受け止めが支配的」(若手議員)。高市首相に異論を唱える有力議員も極めて少なく、「官邸主導をなすすべなく見守るしかない」(幹部)のが実態のようだ。

「数の力」で推し進める高市政権

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そうした中、新年度予算案の審議日程をめぐり、与党側が5日の予算委理事会において、いったん提案した7日の一般質疑実施を取り下げたことを受け、与野党はその後の理事会で9日午前に一般質疑、午後に高市首相が出席して「内外の諸課題」をテーマとする集中審議を実施することで合意した。

これに先立って予算委は、6日に「省庁別審査」と一般質疑→8日に地方公聴会→10日に採決の前提となる中央公聴会などの日程を委員長職権で決めた。

審議日程をめぐる一連の交渉について、与党筆頭理事の齋藤健元経済産業相は「土曜日の質疑は、野党が一致して『まかりならん』ということだったので、新たな提案をした。新年度予算案の年度内成立に向けて、ギリギリまで努力するのは議会人として当然のことで、お互い妥協しながら前へ進めることは当然ある」と語った。

対する野党側は、野党筆頭理事で中道改革連合の長妻昭元厚生労働相は「集中審議は非常に重要で、これ(集中審議)を第1段階と捉え、国会議員としての職責を果たしていく。その後の予定については、来週13日の採決ありきという日程を完全に撤回しないかぎり、われわれとしては応じられない」と、徹底抗戦の構えであることを強調した。

これまでの衆院予算委を主な舞台とした与野党の攻防の経過を振り返ると、与党側は予算委基本的質疑(3日間)最終日の3日朝の同委理事会で、8日に地方公聴会、10日に採決の前提となる中央公聴会の開催を提案した。だが、野党側は「採決を前提とした日程には賛同できない」として協議は決裂した。

これを受けて、基本的質疑が終了した後の3日夕の理事会で自民党の坂本哲志予算委員長が公聴会の開催を議決することを職権で決定。再開された予算委において、8日の地方公聴会開催(鹿児島、岩手両県)と10日の中央公聴会開催を賛成多数で議決した。

木原稔官房長官は記者会見で「国会の運営は国会で決めるものと承知しているが、足元の中東情勢を受けて予算の予見可能性を一層高める必要がある。国民生活に支障が生じないよう野党にも協力をお願いしつつ、予算案と、今年度末までに成立が必要な法案を年度内に成立させていただけるよう、国会での審議に誠実に対応していきたい」と述べた。

強行突破の姿勢に疑問の声も噴出

こうした一連の高市政権の対応について、自民党は「表向きには異論は唱えず、年度内成立にも協力する構え」(同党長老)だ。ただ、同党の国会対策関係者の間では「数を頼んで押しまくれば、いずれしっぺ返しがくる」といった不安の声も少なくない。強引に予算の年度内成立にこぎつけても、その後の与野党対決法案の審議が円滑に進む保証はないからだ。 

今回の特別国会の当初会期は7月17日まで。高市首相にとって、予算成立後の3カ月余りの期間に憲法改正など「国論を二分する政治課題」の審議を促進するには、「野党の理解と協力が不可欠」となる。

だからこそ、自民党内にも「自ら公約した年度内成立にこだわって強行突破を繰り返すのは愚策。急がば回れという懐の深さが必要」(国対幹部)との厳しい声が出ている。

昨年11月の日米首脳階段は友好ムードを演出できたが、今回は極めて難しい階段となりそうだ(写真:ブルームバーグ)

官邸サイドが描くのは、13日に予算案が衆院を通過→18日に参院予算委で基本的質疑(3日間)が終了→18日夜に高市首相が訪米し、19日にドナルド・トランプ大統領と日米首脳会談を開催→23日から年度末までの9日間で審議を促進して予算年度内成立、という段取りだ。

とくに、19日の日米首脳会談は「高市首相にとっても、失敗が許されない」(外務省幹部)。それだけに、国賓待遇で訪米する高市首相自身はもとより、秘書官グループも「万全の準備で臨まねば」と緊張感を隠さない。トランプ大統領がイスラエルとの連携で断行したイラン攻撃に対して、G7各国の賛否も交錯しており、高市首相の対応も注目されているからだ。

2日の衆院予算委では、共産党の田村智子委員長が「先制攻撃は国連憲章や国際法に違反する可能性があり、米国とイスラエルに攻撃中止を求めるべきだ」と追及。これに対し、高市首相は「これが自衛のための措置なのかどうかも含めて、詳細な情報を持ち合わせているわけではない。わが国としてその法的評価をすることは差し控える」と、“逃げの答弁”に終始した。

「強固な日米同盟を確認するための日米首脳会談だけに、トランプ批判などできるはずがない」(外務省幹部)からだ。

その一方で、日本国内へのエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖状態が続き、アメリカ側が自衛隊の機雷掃海(除去)での派遣を求めてきた場合、「どう対応するかは極めて難しい問題」(同)となる。

政府は2015年の安全保障関連法制定時、機雷敷設に伴う同海峡の封鎖を「存立危機事態」の想定例として繰り返し引用。集団的自衛権を行使して自衛隊が機雷掃海(除去)することがありえるとしていた。

したがって、「今後、アメリカ・イスラエルとイランの軍事衝突が泥沼化し経済的な混乱が生じれば、事態認定の是非が再び議論となる可能性が大きい」(官邸筋)とみる向きが多い。

日米首脳会談が「政権の前途」を左右する可能性

存立危機事態は、安倍晋三政権下で15年に成立した安全保障関連法で新設された。密接な関係にある他国が武力攻撃を受けたことで日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由が根底から覆る危険が生じた状態を指す。

高市首相は昨年11月の国会答弁で、台湾有事で台湾とフィリピンの間のバシー海峡が封鎖された場合、「武力行使を伴う封鎖」であれば「存立危機事態になりうる」と述べた経緯もある。日米首脳会談でトランプ大統領から海上自衛隊による掃海を求められた場合、対応に窮する展開も想定される。19日の日米首脳会談は高市首相にとって「地雷原に足を踏み入れる会談」にもなりかねない。

元東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏は5日、自身のX(旧ツイッター)に「なぜ高市首相は、アメリカやイスラエルのイラン攻撃を国際法違反と批判しないのか。ヨーロッパ主要国は、きちんと批判しているのに、(高市首相は)日米首脳会談を前にして沈黙を守っている。西側の中で、イランと最も緊密な日本が、その外交力を発揮しないのは残念だ」と指摘した。

自民党内でも「今回の訪米は、高市首相にとって政権の前途を左右しかねない“正念場”となる」(長老)との見方も広がる。