大麻との戦いに敗れつつある米高校 授業中も吸引
【ブレントウッド(カリフォルニア州)】ある金曜日の午前10時9分22秒、リバティー高校でジェームズ・ガイス氏のスマートフォンに通知が届いた。ベイプが使用されている可能性を示す指数が上昇していた。
ガイス氏は管理棟を飛び出してゴルフカートに乗り込むと、広い校内を飛ばして通知で特定された「女子トイレE」に到着した。数分も立たないうちにガイス氏はトイレのドアの外にいた。
女子生徒1人がトイレから出てきた。「ちょっといい? トイレで誰か他の人と一緒だった?」とガイス氏は話しかけた。同氏はリバティー高校で大麻使用への対処を任されている校内指導員――多くの生徒は密告屋と呼んでいる――の一人だ。
さらに2人の女子生徒が出てきた。ガイス氏はベイプセンサーが鳴ったと生徒たちに告げた。「私が逃げたらどうなるの?」と生徒の一人が言った。
「戻ってきたときに捕まえる」とガイス氏は答えた。
生徒は逃げなかった。ガイス氏は3人を会議室に連れて行き、校長のエファ・ハッカビー氏がそれぞれのリュックサックを調べた。手指消毒液にフォルダー、香水、黒のレギンス1本、ポテトチップスの空袋が入っていた。校長は生徒――12年生(日本の高校3年生に相当)2人と9年生1人――にジーンズのポケットをひっくり返させたり、パーカのフードをチェックしたりした。1人は話し方がゆっくりで、目が据わっているようだった。
別の校内指導員、ブラッド・エインスワース氏がその場に残って誰もいなくなったトイレを調べたところ、金属製のごみ箱にセットされたごみ袋の下に押し込まれたベイプ用カートリッジの空き箱を発見した。
リバティー高校は米国の高校から大麻を締め出す戦いの最前線に立っているが、厳しい状況にある。カリフォルニア州は1996年に米国で初めて医療用大麻を合法化した。同州で娯楽用大麻は2016年から合法で、2018年に小売りが始まった。リバティー高校の現在の12年生がまだ小学生だった頃だ。現在、米国の24州と首都ワシントンが娯楽用大麻を合法化している。
カリフォルニア州で娯楽用大麻の購入が法律で認められるのは21歳以上(医療用大麻は18歳以上)だが、生徒によれば、年長のきょうだいや友人、知人から入手するのは比較的容易だという。認可された大麻販売店は配達を行っているところが多く、成人は有効な身分証明書を提示しなければならない。

リバティー高校の12年生ウィル・トリムアさんは、同年代の生徒の多くが大麻を「自然」なものとみなしていると話す
かつては常用者がハイになるための手段とみられていた大麻が、合法化によって心身の健康を維持するための一般的な手段として受け止められるようになった。大麻企業は現在、不安や痛み、睡眠障害の治療薬として商品を宣伝している。食用大麻がかわいいパッケージに入っていたり、「ストロベリーコフ」「ズキットルズ」など、大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を含むベイプ用リキッドにフレーバーが付いた製品が販売されていたりして、大麻は安全でおしゃれで、楽しいもののような印象を与えることがある。
リバティー高校12年生のウィル・トリムアさん(17)は、同年代の生徒の多くが大麻を「オーガニックと認識している。完全に自然の素材で作られた製品」とみていると話す。トリムアさんによれば、ニコチンとは違って、大麻は医師が推奨することもあるため、「だったらなぜ体に悪いということになるのか」と多くの生徒は考えているという。自身は大麻を使用していないという。
ミシガン大学の2025年調査によると、12年生の約26%、8年生の8%が過去1年間に大麻を使用したと回答し、2019年調査の約36%、12%からそれぞれ低下した。
だが校長らによると、校内で大麻を目にすることが増えており、大麻によって健康や安全に関わる問題が生じているという。
大麻の主な向精神性成分であるTHCが10代の若者の脳にとって、どれだけ危険なものになり得るかを示す科学研究が相次いでいる。10代の若者による大麻の常習は、学業不振、注意力や記憶力の欠如と関連があることが研究によって分かっている。研究者によれば、大麻が合法化された州で販売されている市販の大麻製品は、過去数十年の間に一般的に使用されていた大麻と比べて効果がはるかに強いという。
ベイプは10代の若者にとって最も一般的な大麻の使用法だ。2024年には大麻を使用した12年生の67%、8年生では57%がベイプを使い、2021年の58%、48%からそれぞれ増加した。特にフレーバー付きのベイプ製品は大麻特有のにおいがごまかされ、気付かれにくいこともあり、10代の若者の間で広く受け入れられている。
リバティー高校などの学校は大麻の発見や抑止を強化している。一部の学校幹部は、こうした取り組みもあって校内での大麻の使用が抑制されていると話す。しかし同校が導入しているベイプセンサーや、違反の取り締まりを専門に行う人材の配置といった取り組みはコストを含め負担増につながる。
ただのグミか、大麻入りか
ニューヨーク市のデウィット・クリントン高校は、生徒が学校に持ち込める食品の種類を制限している。校長のピエール・オーブ氏によると、生徒が昼食や間食と一緒に食用大麻をこっそり持ってくるようになったからだ。学校職員は手作りの焼き菓子や怪しいキャンディーを没収している。
「見ただけではそれが何かは分からない。ミミズの形をしたグミかもしれないし、中に何か入っているかもしれない」とオーブ氏は話した。
リバティー高校では女子トイレEの調査後、ハッカビー校長は目が据わっていた生徒はハイになっているとほぼ確信した。生徒は別室に送られ、学校職員の監視下に置かれた。だが、トイレで発見されたベイプ用カートリッジの空き箱と生徒3人を明確に結びつけることはできなかった。その箱は何時間、または何日も前からそこにあったのかもしれない。カートリッジは見つからなかった。

リバティー高校のハッカビー校長は、トイレにセンサーを設置した
リバティー高校の生徒は、持ち込みが禁止されているものを下着の下など学校職員が確認できない場所に隠すことが分かっている。多くの場合、生徒は証拠をトイレに流す。メンテナンス業者が最近トイレのつまりを修理していると、ベイプ用のカートリッジやペンが10個以上、配管から出てきた。
ハッカビー校長は「いたちごっこだ」と話す。最近はニコチンと同じくらい大麻を持っていることが多いという。
ハッカビー校長によると、校内のトイレでのベイプによる大麻・ニコチンの使用が急増したのは2021年と22年、生徒が新型コロナウイルス流行によるリモート学習から学校に戻った後のことだった。学校職員や生徒によると、当時トイレに入ると、大勢の生徒が立ち上る煙に包まれていたという。
「トイレでパーティーが開かれているかのようだった」。当時9年生で現在12年生のカミヤ・ブラントさん(18)はこう話す。「まともじゃなかった」

リバティー高校の12年生、カミヤ・ブラントさんは、センサーのおかげで大麻・ニコチンの使用場所が学校近くの駐車場に移ったと話す
生徒数およそ2750人のリバティー高校はトイレが使用できる時間帯を制限し始め、授業中と放課後はドアに鍵をかけた。生徒は授業中にトイレに行きたくなったら、使用許可証を持ち歩くことが義務付けられている。
リバティー高校はその後、2023年に合計11個のベイプセンサーを、トイレの入り口を撮影するカメラと一緒に設置した。センサーが鳴っても校内指導員が対応できない場合は、ベイプ指数が高いときに誰がトイレに出入りしたかを学校職員が映像を見て確認することができる。ハッカビー校長は、映像による証拠は調査を行う根拠として十分だと話した。
リバティー高校が使用しているベイプセンサーを製造するベルカダによれば、センサーの売上高は過去1年で76%増加した。センサーは1台約1000ドル(約16万円)で、それとは別に年間249ドルのライセンス料がかかる。カメラは最低価格が1台約500ドルで、これに年間219ドルのサービス利用料が追加される。ベルカダはニコチンとTHCの蒸気を区別できるとする新たなアルゴリズムを作成しており、一部の学校で試験導入されている。
リバティー高校では、初めて大麻所持の違反が見つかった生徒は、自動的に1日間の校内停学処分になる。スタンフォード大学による大麻教育プログラムも受講する。同校は昨年、大麻所持など一部の違反行為に対する処分として、5日間の課外活動禁止を新たに導入した。
こうした措置は、アメリカンフットボール(アメフト)の選手や演劇部の生徒、生徒会メンバーといった学内のリーダー的存在の生徒たちを規則に従わせる一つの手段だ。彼らが規則に従えば、他の生徒にも効果があるとハッカビー校長は話す。
アメフト部に所属する12年生のジャクソン・ベルさん(18)は、この対策は効果を発揮していると言う。「チームメートをがっかりさせると考えただけで、そっちの方がつらいと思う」
トイレでのベイプ使用状況は改善している。ある最近の木曜日、センサーが25回鳴った。最近はこのくらいの数字で推移しているが、2023年の平均40~50回からは減っているとハッカビー校長は話した。ほとんどの生徒が本来の目的で学校のトイレを再び使うようになった。

リバティー高校の生徒たちによれば、年長のきょうだいや友人、知人から入手するのは比較的容易だという
だが、大麻の使用が実際に減ったとは思わないと話す生徒もいる。学校当局の対策がトイレに集中した結果、大麻は校内や校外の他の場所で吸引されるようになった。大麻やニコチンを使用する場所として人気なのが、学校の隣にある駐車場の階段だ。「そこに行くといつでも煙を吐き出している集団を見かける」とブラントさんは話す。
授業中でもかまわず吸引する生徒もいるとブラントさんが言うと、周りにいた生徒たちもうなずいた。ベイプペンをシャツの袖やパーカのフードの中に隠し、教師が見ていないときにこっそり吸っている。
教師が授業で映像を見せているときは、やりたい放題だとトリムアさんは言う。「電気が消えたら、煙が上る時間だ」