ホルムズ海峡封鎖で日本は自衛隊を派遣すべきなのか、高市首相の決断と日本独自の対応策を海自の元司令官が徹底解説

3月17日、参院予算委で質問を聞く高市早苗首相(写真:共同通信社)
[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領が中国、フランス、日本、韓国、英国やイランによるホルムズ海峡封鎖で影響を受ける国々が米国と連携して軍艦を派遣し海峡の安全を維持することを要請した問題で日本政府は憲法や現行法制の範囲内で自衛隊派遣が可能か検討している。
「日本独自として法的な枠組みの中で何ができるか検討中」
3月19日に日米首脳会談を控える高市早苗首相は16日の参院予算委員会で「日本独自として法的な枠組みの中で何ができるか私自身もいろんな指示を出しながら検討を続けている。根拠法、今起きていること、日本でできること、できないことの整理は行っている」と明かした。
憲法と安保法制に詳しい専門家は「存立危機事態による艦船派遣はもちろん、わが国が攻撃を受けた場合と同程度に国民の権利が根底から覆るほどの明確な危険があるとはとても認定できないというのが一般的な感覚だろう」と指摘する。
重要影響事態や国際平和共同対処事態の認定も極めて困難と思われる。自衛隊を派遣する根拠として海上警備行動や米艦防護、海賊対処、防衛庁設置法上の所掌事務遂行のための調査研究規定を根拠とした警戒監視活動も考えられるが、いずれも無理がある。
「トランプ氏の立場は明らかに自己中心かつ独善的」
米国と行動を共にするには米国の行動自体が国際法に抵触するようなものであってはならない。米・イスラエル両軍によるイランへの大規模攻撃はその点で重大な疑義が残る。しかしエネルギー安全保障、中国の恫喝、トランプ氏の圧力という異常な状況に高市政権は置かれている。
日本の原油輸入量に占める中東依存度は92.5%(2021年度)。しかも日本とインド太平洋の安全保障は米国の「核の傘」と在日米軍に依存している。これまでの常識では考えられなかったような論理構成での対応策をひねり出す必要に迫られている。
香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官は筆者に「トランプ氏の立場は明らかに自己中心かつ独善的。日本や北大西洋条約機構(NATO)欧州加盟国、韓国、オーストラリアが米国の要請で軍事活動という対応をとるなら現下の中東情勢に照らし賢い国家方針とはならない」と語る。

香田洋二氏(筆者撮影)
「自国民の安寧と社会の繁栄と安定という国益とはかけ離れた、もっと言えば“これらを軽視した”米国中心の活動となってしまう。米国との関係は自由と民主主義を国是とする同盟国存立の基本だが、トランプ氏の独善的な中東政策とは少し距離をとることもまた合理的な選択だ」
「日本はイスラエルに振り回されてはならない」
「中東のみならず世界のアウトローであり、強烈に戦闘的で手が付けられないイスラエルにわれわれ自由諸国が振り回されることは自由と民主主義を国是とする日本にとって選択してはならない政策であることは明白だ」とイスラエルに振り回されてはならないと香田氏は釘を刺す。
「同時に、イランはトランプ氏が指摘するように民衆の弾圧、核開発、テロやハマス・ヒズボラ・フーシ派支援、ウクライナ侵略戦争でのロシア支援、スンニ派大国サウジアラビアとの対立など、中東と世界の不安定の原因者でもあり、一線を画する配慮が高市政権には求められる」
「これらを考慮した場合、今回のホルムズ海峡危機は米国とイランが原因国となった戦闘状態ではあるものの、人口1億2000万人の資源小国で有数の工業国かつ食糧非自給国としてのわが国の生存に直結する事態であるとの情勢認識が必要だ」と香田氏はいう。
エマニュエル・マクロン仏大統領は「現在の状況下ではホルムズ海峡の開通や解放を目的とした作戦にフランスが参加することは決してない」と断言する一方で「状況が落ち着き、爆撃の中核が終息すれば、われわれは他国と共に護衛システムの責任を担う用意がある」という。
ドイツ首相報道官「この戦争はNATOとは何の関係もない」
「海上輸送と保険に関わるすべての関係者を巻き込んだ包括的な政治的、技術的、そして運用上の取り組みが必要だ」。マクロン氏はインドをはじめとする複数の欧州および地域のパートナー国との協議はすでに始まっていることを明かした。
ドイツ首相報道官は「この戦争はNATOとは何の関係もない。NATOの戦争ではない。NATOは防衛同盟であり、自国の領土を守るための同盟だ。この戦争が続く限りいかなる関与もしない。軍事力によってホルムズ海峡の安全を確保するという選択肢にも参加しない」と釘を刺す。
トランプ氏から目の敵にされているキア・スターマー英首相は「米国、欧州、湾岸諸国と実行可能な計画策定に向けた協議を続けているものの、まだ決定段階には至っていない」と慎重姿勢を崩さない。英国は紛争終結こそが海峡再開への最善かつ最も確実な道との立場だ。
中国外交部は「軍事行動を直ちに停止し、緊張状態をエスカレートさせることを避け、地域情勢の混乱が世界経済に及ぼす影響をこれ以上拡大させないよう改めて求める」と繰り返した。韓国は「米国と緊密に意思疎通を図り、慎重に検討した上で決定を下す」という。
「日本向け船舶の安全航行確保に絞り込んだ対応が求められる」
香田氏は「“米国の要請や期待”とは切り離した、わが国独自の判断として純粋に日本国と国民の生存と繁栄の維持という観点に立った、自前のホルムズ海峡の航行安全の確保、つまり日本向け船舶の安全航行確保に絞り込んだ対応が求められる」と強調する。
「NATO欧州加盟国も相当の確率で同じ政策を推進すると考える。わが国の憲法と自衛隊法及び2015年の安保法その他の関連法で自衛隊に対し戦闘終期であっても交戦継続中のホルムズ海峡における日本関連船舶の航行安全任務を自衛隊に付与することはできないと考える」という。

ホルムズ海峡付近を航行するタンカー=3月11日(写真:ロイター=共同)
「交戦が継続中のホルムズ海峡における日本関連船舶の航行安全任務を付与するための新法を急いで制定する必要がある。この際の派遣自衛艦などの武力行使に係る権限については現憲法下で任務達成を可能とする“ぎりぎり”のものを定める必要があることは言うまでもない」
「 要するに一国の政府の責任として、よく言われる米国の要請や圧力ではなく、日本国民の安寧と繁栄のために自らの判断で特別措置法を制定して対処するということだ。もちろんこれは非常に難しいことだ」と香田氏は語る。
「米国の意向に沿うことが国家目的でないことは明白」
「現憲法下での派遣部隊の武力行使の権限と武器使用については大きな議論になる恐れがある。同時に政府の究極の責任は国民の安寧と繁栄だ。自衛隊の派遣や米国の意向に沿うことが国家目的でないことは明白だ」(香田氏)
「それゆえ、武力行使と武器使用に関する論議を避けてはならず、これまで繰り返されてきた政府の法規解釈の枠を超えた、現行憲法下でぎりぎりの解釈に基づく権限を自衛隊に付与する決断力が、高市政権に求められるところである。残念ながら、高市首相の国会答弁は、これまでの政府の考え方の枠内にとどまっているように思える」(同)
9.11米同時多発テロの際、海自補給部隊インド洋派遣時の海自の最高スタッフ(海幕防衛部長)だった香田氏は「この点、つまり従来の枠を超えた自衛隊に対する権限付与が求められることは間違いない。これこそが高市政権の真価が問われるところだ。小泉純一郎首相も、安倍晋三首相(故人)もやったことはない」と語る。
「高市首相にはまなじりを決し、断固とした姿勢で実行してもらいたい。日本人の安寧と繁栄こそが究極の国益だ。 最後に国会で米国の国際法違反ばかりを高市首相に言わせたがる野党、米国の意向に沿うことのみの観点で報道するマスコミなどの能天気さも気になる」と香田氏はいう。
【木村正人(きむら まさと)】 在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
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