科学者たちが懸念する「人工衛星が多過ぎ」問題

地球周辺のスペースデブリを可視化したCG(画像:ESA)

現在、NASAの推定によると、地球の軌道上には追跡できるものだけで約4万~5万個の人工物があり、大半が地球低軌道上に存在するという。

【写真で見る】2015年11月に地球大気圏に再突入した人工物由来とみられるスペースデブリWT1190F

そして、近年はSpaceXのStarlinkや、Amazon Leo(以前の名称はProject Kuiper)をはじめとする、民間企業による衛星コンステレーション事業が、数千~1万基を超える人工衛星の打ち上げを計画するようになった。その極め付きは、最近イーロン・マスク氏が発表した、約100万基のAI搭載衛星を打ち上げる軌道上AIデータセンター計画だ。

このように地球の軌道、特に低軌道は年々混雑の度合いが増しつつある。そして、天文学者をはじめとする一部の科学者らは、いくつかの事柄について懸念しているという。

軌道上で起こる「交通事故」

そのひとつは、地球の軌道上で人工物の混雑度が増すことで、自動車事故のように衝突が起こるかもしれないということだ。

2025年9月、旧ソビエト連邦が1976年に打ち上げたコスモス807号と、中国の使用済みロケット長征4C、いずれも使用後に放棄され、軌道上を無制御状態で周回していた2つの宇宙機が、約36mの距離まで接近するニアミスがあった。

もし、これが衝突していた場合、追跡可能なものだけで約3000個の破片がスペースデブリとして軌道上にばらまかれることになったと予想されている。

史上初とされるスペースデブリどうしの衝突は、09年2月に、シベリア上空789kmの高度で発生した。アメリカの民間通信衛星イリジウム33号とロシアの軍事衛星コスモス2251号は、シベリア上空で秒速11.7kmで衝突し、追跡可能な大きさのものだけでも2300個以上の破片となって軌道上にデブリの雲を作った。そして、その一部はしばらく後に大気圏に落下した。

SpaceXは、この衝突事故が発生した高度700km前後の軌道に約100万基もの衛星群を投入しようとしているわけだが、この軌道にはすでに「ケスラーシンドローム」の兆候がみられると、ブリティッシュコロンビア大学のアーロン・ボーリー物理学・天文学教授は述べている。

ケスラーシンドロームとは、78年に当時NASAの科学者だったドナルド・ケスラーが提唱した概念で、軌道上のある空間を漂うスペースデブリ(宇宙ゴミ)や人工衛星のひとつが、別のスペースデブリなどに衝突して新たなデブリを散乱させ、連鎖的に衝突を繰り返してしまう状況を指す言葉だ。

ボーリー教授いわく、高度700kmの近辺にはすでに十分な量のスペースデブリが存在しており、ひとたびそれらの衝突が起これば、連鎖的に衝突が発生し、影響が拡大する可能性があるとのことだ。

それよりも低い軌道でも、人工衛星の衝突は起きる可能性がある。今年の初めには、高度550kmを周回するStarlink衛星のうち1基に、中国の人工衛星と衝突する可能性が浮上した。これを受け、SpaceXは軌道上の数千基のStarlink衛星の高度を下げて回避する対応を実施した。SpaceXは25年の上半期だけで、合計14万回以上もスペースデブリを避けるための軌道修正を実施している。

スペースシャトル・エンデバー号に衝突した微少スペースデブリが開けた直径12mmの穴(画像:NASA)

もし、大規模なケスラーシンドロームが現実に起これば、軌道上に無数にスペースデブリが散乱することになるだろう。そうなれば、軌道を漂うデブリは世界の通信網や気候監視ミッションなどに支障をきたすことも考えられる。そして、それらのデブリを除去するには、10年以上もの時間がかかる可能性もあるとポーリー教授は述べている。

スペースデブリ除去などの軌道上サービス提供を目指している日本のベンチャー企業アストロスケールホールディングスの創業CEO、岡田光信氏は、24年8月に行った業績報告の際に、Starlink衛星がスペースデブリなどとの衝突を回避するため、23年下半期には約11分に1回のペースで軌道変更動作をしていたが、それが24年上半期には約5分に1回にまで増加していることを例に挙げ、同社の事業の重要性を強調した。

光害の問題

天文学者らは、たとえケスラーシンドロームが起こらなくても、宇宙データセンターのために数万基の人工衛星が軌道上に溢れかえるようになれば、地上からの天文観測が困難になる可能性を懸念している。

そのため、すでに軌道上に1万基のStarlink衛星を打ち上げているSpaceXや、その他の衛星コンステレーション企業らに働きかけ、また協力して、衛星の機体に光反射率の低い素材を使用したり、太陽電池パネルなどの反射光が地球に向かないよう調整したりすることで、地上から見たときの衛星の明るさを低減させ、一定の成果を上げてきた。

ところが、SpaceXが軌道上AIデータセンターとして打ち上げようとしている100万基もの衛星やその他の衛星コンステレーション計画は、これまでの地道な努力を水泡に帰す可能性がある。

宇宙持続可能性の専門家であるジョナサン・マクドウェル氏によると、軌道上AIデータセンター用衛星は単体で最大長が約100mに達することが予想されるうえ、常に太陽電池に光が当たる高度500~2000kmの軌道を周回するという。そうなると、天文観測が行われる真夜中でも、地上からはそれらが常に明るく輝いて見える可能性が高い。天文学者でDark Sky Consultingの代表を務めるジョン・バレンタイン氏は軌道上AIデータセンターが「おそらく地球の大部分で、年間を通して一晩中見える」可能性があると述べている。

NASAエイムズ研究センターの天文学者アレハンドロ・ボルラフ氏は「これまで光害のほとんどは都市の灯りや自動車によるものだったが、通信衛星群の台頭により、世界中の天文台に急速に影響が出始めている」「望遠鏡が地球から遠く離れた銀河、惑星、小惑星の謎を解明しようと宇宙を見つめているとき、人工衛星がカメラの前を横切ることがあり、その際に明るい光の痕跡が残ってしまうため、宇宙から届く微弱な信号が見えなくなってしまうことがある」と述べている。

研究者らの試算によると、この影響は地上だけでなく、観測範囲の狭いハッブル宇宙望遠鏡が撮影する画像の約40%、全天サーベイを行うNASAのSPHEREx宇宙望遠鏡が撮影した画像の約96%で、すでに人工衛星が反射する光の影響を受けている可能性があるとされている。

プレアデス星団を撮影した写真に映り込むStarlink衛星(画像:NOIRLab / T. Hansen / IAU OAE / Creative Commons)

昨年、アメリカ国立科学財団(NSF)と米エネルギー省は、チリにヴェラ・C・ルービン天文台を稼働させた。また、ヨーロッパ南天天文台 (ESO)も、現在チリで口径39mの超大型望遠鏡(ELT)を、約20億ドルを注ぎ込んで建設中だ。これら最新鋭の大型地上望遠鏡は大集光力・高空間分解能を活かして、生命が存在可能な地球と同等サイズの太陽系外惑星の調査を行うことを計画している。

しかし、上で述べたような人工衛星が夜空を飛び交い続ければ、観測が著しく妨げられる「光害」となり、せっかく建設した新しい天文台も、その力を発揮するのが難しくなるかもしれない。ボルラフ氏によると、19年には地球低軌道に約2000基の人工衛星が存在していたが、現在はその数が約1万5000基に増加している。

そして昨年12月の時点で業界の衛星打ち上げ予定を考慮すると、今後10年間で低軌道上の衛星数は約56万基に達すると予測されていた。これを踏まえると、マスク氏の100万基の衛星による軌道上AIデータセンターの構想が、天文学の分野に与える影響の大きさは計り知れない。

大気汚染やオゾン層破壊の懸念

軌道に配置される人工衛星にも設計寿命があり、それが尽きると役目を終えることになる。

地球低軌道にあるほとんどの衛星は、使用済みになると地球の重力によって高度を落とし、大気圏に再突入して燃え尽きることになる。バレンタイン氏によれば、100万基もの衛星が軌道に配置されると、それらの衛星の寿命が尽きて落下してくる頻度が約3分に1回程度にまで高まることが予測されるという。

現在、古い人工衛星や使い捨てられたロケット本体は大気圏に再突入しているが、そのペースは1日に約3回と言われている。それが、3分に1回になるとどうなるのだろうか。

2015年11月に地球大気圏に再突入した人工物由来とみられるスペースデブリWT1190F(画像:IAC/UAE/NASA/ESA )

人工衛星やロケットなどが大気圏に再突入すれば、その機体は激しい大気との摩擦によって燃え、大半は蒸発して上層大気中にガスとなって漂うことになる。そしてそのガスとなる物質には、酸化アルミニウムやリチウムといった、潜在的に危険な汚染物質が含まれており、それらの濃度が急激に上昇すると、オゾン層の破壊や気候変動の原因になる可能性が、まだ研究段階だが指摘されている。

南カリフォルニア大学の研究では、大気上端に流入する人工衛星由来の酸化アルミニウム化合物の量が16年の年間2.13トンから22年にかけて8倍の年間16.6トンに増加したと推定されている。そして、将来的にメガコンステレーション計画が実行されれば、人工衛星の再突入率が上昇するため、年間362.7トンの酸化アルミニウム化合物が上層大気に流入すると予測されている。

現在のところ、こうした問題にはまだほとんど対応策がない。地球への影響をより正確に特定するには、さらなる研究が必要だ。

なお、大気圏に再突入した人工物は大気圏ですべて燃え尽きるわけではなく、地上に燃え残りが落下する確率がゼロではないことも、覚えておく必要があるだろう。

宇宙の商業化と研究分野への配慮

地球低軌道から月の間の宇宙空間は、かつては米ソ冷戦下での国威発揚や技術力誇示の場だった。それが冷戦終結後は、軌道上に国際宇宙ステーション(ISS)が建造され、参加各国が協力して学術研究などを行う拠点となった。

しかし21世紀も1/4が過ぎた現在、ISSは退役が迫り、一方でSpaceXをはじめとする民間の宇宙ベンチャーが多数誕生し、NASAのアルテミス計画でも、Blue Originなどの民間企業が月着陸船の開発を請け負っている。

世界各国の宇宙機関や民間宇宙ベンチャーが再び月面に目を向けているのは、そこにあると言われているレアアースなどの資源をいち早く発見し、利用しようという目的があるからだ。さらに、ロケット打ち上げ事業や衛星コンステレーション事業、宇宙旅客事業や、月面や小惑星の資源採掘事業など、計画段階を含めれば、宇宙における商業活動は着実に増えている。

アルテミス計画で使用される予定のIntuitive Machinesの大型貨物輸送用月着陸船とHoneybee Roboticsの月面探査車(画像:Intuitive Machines)

しかし、依然として宇宙にはまだまだ数多くの謎が残されており、科学者たちによる観測や研究活動を、商業活動が妨げてしまうようなことは避けてほしいところだ。

67年に国連で署名が開放された宇宙条約では、基本的な理念として商業分野・学術分野双方が協調的に宇宙に関わっていくこととされている。だが、この記事で取り上げてきたような問題は宇宙条約ではカバーしきれていないのが実情だ。

その対応の遅れを取り戻すために、国連主導の取り組みから、国際天文学連合(IAU)などによる提言、さらには宇宙機関や企業、科学者らによる実務レベルでの協議なども行われている。だがいずれの動きも決定的なものとは言い難いため、いつかどこかの時点で、時代に即した、新たな協調性ある宇宙利用を推進する世界規模の合意や枠組みが必要になるのではないだろうか。