教員が「学校はバカにされている」のジレンマ 「塾」優先の子どもと家庭に教育現場が見据える課題

小中学生の保護者の多くが、子どもを塾に通わせている。特に通塾率の高い都市部では、学校より塾を優先する実態もあるようだ。教員たちはこの状況をどう捉えているのか。
* * *
■「パフォーマンス評価」保護者から詰められ
「時間と手間をかけて生徒たちを評価していることを、生徒や保護者になかなか理解してもらえません。いまの公教育が担う役割と、保護者が望む教育との間にギャップを感じています」
神奈川県の公立中学校の教員、ダイスケさん(仮名、30代)は、こんなジレンマを抱えている。
かつて、学校の成績は、主に定期テストと提出物の点数でつけていた。
だが、文部科学省が「テストの点数だけでは測れない力」を重視する教育に方針を転換。10年ほど前から、生徒のリポートや発表、討議などをもとに思考力や判断力、表現力、そして主体的に学習に取り組む態度を測る「パフォーマンス評価」で成績をつけることが増えた。
塾が出すテストの点数や偏差値は、数値として明快で、納得感を得やすい。このため、「あいまいな評価で成績がつけられている」と、学校の成績に不満を抱く生徒や保護者もいる。「うちの子は塾ではトップの偏差値なのに、学校の成績はなぜ『5』ではないのですか」と、保護者から詰め寄られることが珍しくないという。
■学校より「塾」優先は当たり前
東京都の公立小学校に勤務するトオルさん(仮名、50代)は、「公立校は単に学力を伸ばすところではない」と、割り切って教えている。
「公立小学校の教育レベルは確かに私立小学校より低いと思います。有名私立中学校に受かるような学力は身につきませんから。でも、私立校へのライバル心はありません」(トオルさん)
学校よりも塾を優先させる児童や保護者についても、「昨今は当たり前になりましたし、『別にいいかな』と、思うようになりました」(同)
■疲弊した子どもが増えている
一方で、塾に通う子が増えるに従って、子どもたちの問題行動が増加しているとは感じている。
「たとえば、他の児童の筆箱などをとったりする。注意しても素直に謝れない。塾通いでストレスが溜まり、学校生活で噴出しているのかもしれません」(同)
今年2~3月、AERA編集部が教員向けに行った公教育に関するアンケートには、55件の回答が寄せられた。「児童・生徒が塾通いや習い事で疲弊していると感じることはあるか」と尋ねたところ、「はい」は67.3%、「いいえ」は10.9%、「どちらでもない」は、21.8%だった。
「小中学校の公教育で、中学受験・高校受験の準備ができると思うか」という問いに対しては、「はい」は7.3%、「いいえ」は40.0%、「どちらでもない」は、52.7%だった。

■2学期以降「学校には行かせない」という保護者も
カズヤさん(仮名、60代)が勤める神奈川県の公立中学校では、授業が終わると、清掃や委員会をサボって塾に行ってしまう生徒が少なくないという。
「生徒に理由を尋ねると、親から『お金を払っているんだから塾を優先しなさい』と言われているようです」(カズヤさん)
それでも、生徒を叱るような強い指導はできない。もし、生徒に清掃や委員会に出ることを強要した場合、保護者からクレームが入り、「大問題になりかねない」(同)からだ。
「生徒の顔色をうかがいながら指導するしかありません」(同)
中学3年生の保護者からは、2学期が終わると「うちの子はもう学校に行かせません」と言われることも少なくない。
高校受験に必要な「調査書」(内申書)に記載される「調査書点」(内申点)は中3の2学期に出る。調査書点が出てしまえば、「学校に行かないのが当たり前」(同)。35人学級で、7、8人しか生徒が出席しないこともあったという。
「受験直前は学校の存在を無視して、午前中からやっている塾もあります」(同)
■学校や教員は「バカにされている」?
カズヤさんは「学校や教員がバカにされている」と感じることもある。だが、「ある程度はやむを得ない」という思いもある。
「有名私立高校は、学習指導要領が定めた学習内容を明らかに逸脱した受験問題を出している。公立中学校の教員では対応できない。だから、生徒も保護者も『学校の授業に出ても意味がない』と思うし、学校よりも塾の学習指導を信用するのでしょう」(同)
教員が保護者でもある場合はどうか。神奈川県の公立中学校の教員、アケミさん(仮名、60代)は、こう話す。
「教員の子どもたちも塾に通っていますよ。塾への送り迎えが大変だと嘆いています」

■学校と塾の連携も
前述のアンケートでは「児童・生徒が学校の授業より塾を優先させている、と感じたことはあるか」という問いに、「はい」は49.1%、「いいえ」は24.5%、「どちらでもない」は26.4%だった。
ただし、塾は都市部に集中しており、通塾率は地域によって大きな開きがある。文科省の「令和7(2025)年度全国学力・学習状況調査」をもとにした東京都の通塾率は、公立小学6年生は57.9%、公立中学3年生は68.2%なのに対して、秋田県はそれぞれ22.8%、30.7%だった。ちなみに、秋田県の児童・生徒は家庭学習の時間が長いほうだ。「全国学力・学習状況調査」では、東京都と並び、成績上位の常連だ。
学校と塾の関係について研究してきた大同大学の鈴木繁聡講師は、「日本人は長らく塾を『必要悪』との認識の下で批判しつつ、その存在を受け入れてきた」と言う。
高度経済成長期に塾が急増し、特に1970年代は「乱塾時代」と形容され、「塾が受験競争を過熱させている」と批判された。しかし、1999年、文部省の生涯学習審議会は過度の塾通いを問題視しながらも、塾などの「民間教育事業」が学校外での学習環境のひとつとして大きな役割を果たしていると評価した。
「その後、学校と塾との連携が始まり、今日まで続いています」(鈴木講師)
2005年、東京都港区では、「学力向上」「学習意欲の喚起」「進学指導の充実」を目的に、区立中学校で土曜日に進学塾「早稲田アカデミー」の講師が授業を行うようになった。
08年には、同杉並区立和田中学校で、土曜日に進学塾「SAPIX中学部」の講師が授業を担当する取り組みが始まった。
■教育現場の努力のゆくえは?
規模の大きな取り組みとしては、14年、佐賀県武雄市教育委員会と学習塾「花まる学習会」が契約を結び、20年には同市内の全11小学校が官民一体型学校「武雄花まる学園」になった。
「武雄市は公教育に塾の教育メソッドを本格的に取り入れようとした事例といえます」(同)
つまり、公教育と塾が協力し合う体制が、一部では試みられているのだ。
塾が学力向上の「即効性」を示し、保護者がそこに価値を見いだす一方で、学校は学力だけでなく人間関係や生活面も含めた子どもたちの成長を支えることを課題にしている。
だが、学校現場の努力は、しばしば外から見えにくい。教員たちは、子どもたちが塾を優先する現実を前に、複雑な思いを抱えつつ、日々の指導を続けている。
(AERA編集部・米倉昭仁)

・【保護者の視点】学校の授業に子どもが「こんな教え方では無理」「塾に通ってよかった」 半年100万円の授業でもなぜ塾を選ぶのか
・【子どもの視点】3年間の塾通いに子どもが「ぼくの時間は戻ってこない」と涙の訴え なぜ日本の小中学生は塾に通うのか 親心のゆくえ
・中学校「制服」が高すぎる! 平均なんと6万円超…各地に広がる「統一型制服」は「救世主」になるか