いくら一強・高支持率でも「死角は残る」…高市首相が自民党大会で放った「非協力勢力」牽制と総裁選再選戦略の輪郭

高支持率でも突きつけられた議会政治の現実, 高市政権への非協力勢力を遠回しに牽制, 「目途が立った」という曖昧な表現ににじむ難しさ, 頼みの綱は内閣支持率、その浮沈を決める「消費減税」

第93回自民党大会で演説する党総裁の高市首相=12日午後、東京都内(写真:共同通信社)

 衆院選の圧勝を経て高支持率をキープする高市政権だが、党内では“一強すぎる”ことへの不満からか、不穏なうごめきが同時多発的に起きている。そうした現状に対し、12日の自民党大会で高市首相(党総裁)は、非協力的な勢力を牽制する姿勢をにじませた。高市氏が頼みの綱とする高支持率と、党内政局の行方は——? 国政に広範な人脈と豊富な政治取材経験を持つジャーナリスト・市ノ瀬雅人氏が、演説の深意と政局の現在地を読み解く。

高支持率でも突きつけられた議会政治の現実

 2026年2月の衆院選で、高市早苗首相が総裁として率いる自民党は、316議席という憲政史上最多の議席を獲得した。

 当時、日本政治が「高市一強」体制となることを、多くの人は疑わなかった。しかし、圧勝の高揚感冷めやらぬ中で始まった26年度予算案の審議は、強く望んだ年度内成立を断念し、11年ぶりとなる暫定予算の編成を余儀なくされた。躓きというほどではないものの、いきなり想定外の壁にぶち当たった感は否めない。

 それは、選挙における圧勝のみで、議会政治の全てが回るものではないという事実を、改めて気づかせた。また、参院自民党との微妙な距離感をあぶり出し、党内に「いくら一強といっても限界がある」という現実を静かに、しかしはっきりと認識させる契機となった。

 前後するかのように、自民党内では有力者によるグループ結成など政局的な動きが相次いでいる。石井準一参院幹事長らを中心とした新たなグループの動きには、高市政権樹立を支えた旧安倍派の有力議員の名も取り沙汰される。

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2026年度当初予算が成立し、自民党の石井準一参院幹事長(左端)、松山政司参院会長(左から2人目)らにあいさつする高市早苗首相。右端は片山さつき財務相=7日、国会(写真:共同通信社)

 旧二階派の武田良太元総務相は、独自の政策グループを立ち上げた。これとあえて別の方向性をうかがわせるかのように、旧二階派若手らの間では、別のグループへの動きも出ている。総裁選に2度出馬した小林鷹之政調会長も旧二階派出身だ。

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新たな政策集団の初会合を開き、あいさつする自民党旧二階派の武田良太元総務相(右から2人目)=2日午後、国会(写真:共同通信社)

 旧岸田派では、林芳正総務相と木原誠二元選対委員長のそれぞれの系統が事実上、別々に歩みを進める。この他にも、例えば、松山政司参院議員会長は参院自民党を統括する実力派であり、何よりも岸田文雄元首相の影響力は、依然として大きい。

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衆院予算委で答弁する林芳正総務相=2月27日(写真:共同通信社)

 09年総裁選に立候補した西村康稔選対委員長は、本格的に宰相の座をうかがう。旧安倍派では片山さつき財務相、福田達夫元総務会長らからも目が離せない。

 このほか、石破茂前首相は4月に訪韓するなど精力的な動きを見せる。茂木敏充外相、小泉進次郎防衛相、加藤勝信前財務相、斎藤健元経済産業相、古川禎久元法相らも手堅く存在感を放っている。

 唯一解散しなかった派閥・麻生派は多くの新人議員を取り込み、拡大を続けている。メンバーには河野太郎元外相もいる。

 これらは、個々には巨大な政局とは言えない。しかし同時多発的に生じているという事実は、内閣支持率では盤石さを維持する高市体制の中にあっても、党内では緩やかながら地殻変動が起きていることを物語る。

 高市首相の権力の源泉は、派閥ではない。「飯会は苦手」と公言する。側近らに党内の隅々まで目を光らせる管理的統治より、大衆への直接的訴求を選んできた。つまり、強みは、いまでも60〜70%という高水準を維持する内閣支持率にある。有権者との直接的な結びつきなのである。

 一方で、それは有力な武器であると同時に、脆弱性にも転位し得る。万が一、世論の支持を失ったとき、それでも高市政権を支えるという党内の人的基盤が手薄であるためだ。

高市政権への非協力勢力を遠回しに牽制

 立党70年を迎えた自民党大会が4月12日に開催された。高市首相は、深みのある紺のスーツを纏い、総裁として壇上に立った。そして、自身が置かれている権力基盤の優位性も弱点も知り尽くしているかのように、精緻に計算された言葉を紡いだのだった。

「わが党は先の衆院選で316議席という過去最多の議席数を賜ることができた。国民から『重要な政策転換を何としてもやり抜いていけ』と、力強く背中を押していただけた」

「今年いくつの公約を実現できたのか、来年いくつの公約を実現できるのか。それが党勢の拡大、来春の統一地方選、再来年の参院選での自民党への信頼につながる」

「国でも地方でも選挙に勝ち続ける、強い自民党をつくることが目標だ。私が先頭に立つ」

 高市首相は演説で、立て続けにこう力を込めた。自身の最大の権力基盤である衆院選での地滑り的大勝と、高支持率という武器が、歯切れ良い物言いを裏打ちしている。

 公約を守るということは、有権者への約束であり、異を唱えようがない。党内に対し、政策実現への注力を求めるのには、うってつけの表現だ。そして、これら政策実現を今後の選挙への勝利と結びつけることは、間接的ながら、高市体制への献身を当然とすることと同義となる。

 政策遂行への非協力姿勢を遠回しに牽制し、有権者への信頼を大義として、党内の引き締めを図ったということだ。

 衆院解散さえ幹事長への相談なく実行したと伝えられるほどに、高市首相の政治スタイルは「根回し不足」と評される。しかし、その結果が、空前の圧勝である。

 仮に「相談がない」と不満を持つ議員たちが、「誰が代わりに選挙を勝てるのか」という問いに直面したとしても、答えはなかなか用意できない。高市氏が、選挙勝利という実績と大衆人気を、党内批判を封じる強力なツールとして意識しているのは間違いない。

高支持率でも突きつけられた議会政治の現実, 高市政権への非協力勢力を遠回しに牽制, 「目途が立った」という曖昧な表現ににじむ難しさ, 頼みの綱は内閣支持率、その浮沈を決める「消費減税」

第93回自民党大会で笑顔を見せる高市早苗首相。左は鈴木俊一幹事長、右は麻生太郎副総裁=12日、東京都内(写真:共同通信社)

 演説の中で最も踏み込んだであろう言葉は、憲法改正についての部分だ。「立党から70年。時は来た」「改正の発議について『目途が立った』と言える状態で、来年の党大会を迎えたい」と具体的な期限を示したためである。

「来年の党大会」とは来春である。その年の秋には、悲願とする長期政権樹立のためには避けて通れない次期総裁選がある。改憲発議について目途が立った状態で党大会を迎えるということは、総裁再選に向けて環境を整備するという意味合いを持つ。

 また、ライバル陣営や批判勢力といえども、70年来の党是の実現には協力せざるを得ない。総裁選の準備のほか、党内を一方向に動かし、グリップする手段でもある。演説の言葉と来秋の総裁選再選戦略を、鮮やかに一致させている。総裁選への助走は静かに、しかし着実に始まっているのだ。

「目途が立った」という曖昧な表現ににじむ難しさ

 もっとも、改憲に関し、現実の政治状況の厳しさは否めない。参院は与党が過半数割れしている。憲法改正の発議に必要な3分の2の勢力は事実上、現時点では確保されていないと見るのが適切だ。

 再来年の参院選で改憲勢力が伸長すれば可能性は開けるが、あくまで期待値に過ぎない。「目途が立った」という言葉の曖昧さに、こうした現実の困難さが読み取れる。

 なお、衆院憲法審査会長には、改憲をライフワークとしてきたベテラン議員で、高市氏の後ろ盾となってきた古屋圭司前選対委員長が就いている。

 このほか、皇族数確保の問題で「皇統に属する男系男子を皇族とする案を第一優先として、国会における議論を主導する」と宣言した。男系男子路線を明確に最優先とすることは、保守層への強いメッセージである。

 支持基盤である党内保守派を見据えた、保守票の固め直しの意義を持つ。「126代にわたって男系で皇統が継承されてきた歴史的事実こそが、天皇の権威と正統性の源だ」とも語った。

 別の角度から注目すべきは、一定の時間を割き、地方創生を訴えたことだ。本来、高市氏は総裁選でも、都市部で党員票が多く、政策でも都市型であり、もっと言えば、新自由主義的色彩を帯びたイメージがあった。地方創生は、石破前首相が看板とした政策であり、高市氏とは、いささか距離を感じさせる分野だ。党内ハト派の系譜を引く岸田元首相も、デジタル田園都市国家構想に尽力してきた。

「47都道府県のどこに住んでいても安全に生活でき、必要な医療・福祉を受けられ、質の高い教育を受けられ、働く場所がある。これが高市内閣の目指す日本列島の姿だ」

「魅力ある地域資源を活かした地場産業の成長を支援する。経済成長を確かなものとして、総合的な国力を強化するためには、大胆かつ息の長い取り組みが必要だ」

 このほか、日本列島にくまなく経済投資することの重要性にも触れた。これは、次期総裁選で地方組織の支持を得る狙いが垣間見える。党大会の聴衆である全国の党員・地方議員への直接的な呼びかけであった。

 政権内では「孤高」のイメージがあったとしても、日本全国への党員に対しては、ともに知恵を出し合おうと呼びかける。全国100万人の党員との直接的コミュニケーションで突破口を模索していると言えそうだ。

頼みの綱は内閣支持率、その浮沈を決める「消費減税」

 しかし、どのような戦略にも「死角」はある。スポットライトを浴びて颯爽と言葉を放つその舞台裏では、足かせとなる障壁がすでに見え隠れしている。

 高市首相にとって、今後、直面する可能性のある最大のリスクは、頼みの綱である内閣支持率の低下だ。有権者の支持こそが権力の最大の地盤であり、それが揺らいだとき、命綱となるはずの党内基盤は脆弱性が残っている。

 そして、仮定の話ではあるが、支持率低下の引き金として可能性を想定させるのは、衆院選公約の目玉である「食料品限定の消費税率2年間ゼロ」の早期実現が頓挫した場合だろう。この約束は事実上、高市政権の公約の中でも、まさに「背骨」に当たるものだ。

 導入以来一度も引き下げられたことのない消費税率を軽減するという約束は、支持政党の枠を超え、国民の視線を一手に集めている。出口の見えない物価高という現実の痛みは重い。それにも増して、高市氏に旧来型の政治の変革を求める期待が強いとするなら、消費税率引き下げの実現は、その最大のリトマス試験紙でもある。

 国論を二分する安全保障・情報関連の法整備も、双方向にリスクを持っている。国家情報局設置法案、スパイ防止法制定、国旗損壊罪制定といった課題は、本質的な重みにおいて消費税議論を上回るとさえ言える。「勇み足」を感じさせた瞬間に世論は敏感に反応する。

 さらに、円安の過度な進行と物価高への対応の不備は、足をすくう要因となり得る。東アジアの安全保障環境は、台湾、北朝鮮といった不安定要因を抱えたまま緊張が続く。「手遅れ」は言うまでもなく、「勇み足」も禁物だ。それは、台湾有事の際の存立危機事態に関する高市首相の国会答弁が示している。

 高市首相は演説で「ぶれない総理、責任をとる官邸、そして政権の安定が必要だ。強い自民党をつくることは、結果を出せる政権をつくる第一歩」と喝破した。変革に向け、自身を追い込むと同時に、党執行部・党員にも覚悟を突き付けた。

 ご祝儀相場は、名実ともに終わりつつあるのだ。

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