古代ローマのセメント技術で蓄熱 化石燃料依存を減らすか

2000年以上前、古代ローマの建築家たちはポンペイからほど近い場所でコンクリートの配合を発見し、これまで以上に大きく、強く、耐久性のある構造物を建設できるようになった。

現在、彼らの科学は新しい種類のいわば「セメントベースの蓄電池」の中核となっている。この電池は電気ではなく熱を蓄える。安価で再生可能なエネルギー源と組み合わせることで、この古い技術の新しい応用は、暖房に使用される天然ガスやその他の化石燃料の多くを代替する可能性を秘めている。

これは大きな意味を持つ。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のエネルギー全体の約20%が産業用の熱生産に使用され、さらに10%が家庭の暖房や温水用に使用されている。

この新しいセメント蓄熱の化学と工学は、量産性とコスト競争力を持たせるために意図的に単純化されている。生石灰(酸化カルシウム)に水を加えるだけだ。その結果、水酸化カルシウム、つまり古代ローマ時代と同じセメントが得られる。

この反応は大量の熱を放出する。これは、今の時代にホームセンターからセメントの袋を買ってきて混ぜるときに起こることと本質的に同じだ。ローマの技術者たちはその熱を利用して速硬性コンクリートを作り、パンテオンやその他の驚異的な建造物を建設することができた。

また、この反応は可逆的でもある。セメントに十分な熱を加えると、水を追い出して再び生石灰を生成できる。正しく行えば、何度も繰り返して使える。まさに蓄電池のようだ。

水の働き

1970年代以降、技術者たちは、この仕組みを使えば人類は膨大な量のエネルギーをほぼ無期限に蓄えられるのではないかと考えてきた。ただ二つの問題があった。当時は再生可能エネルギーのコストが高すぎて現実的ではなかったこと。もう一つは、水を加えると通常、生石灰が扱いにくいドロドロの状態になることだ。

イリノイ州シャンペーンの1万平方フィート(約929平方メートル)の施設を拠点とする従業員10人の新興企業キャッシュ・エナジー(Cache Energy)は、このようなセメント電池を耐久性があり、効率的で、手頃な価格にする方法を見つけたという。同社のアプローチは、セメントを小さなボール状に成形することだ。ボールはトウモロコシの粒ほどの大きさだ。同社の技術者たちは、放熱と再利用のプロセス中にボールの形状を保つために結合剤――企業秘密だが広く入手可能だという――を加えている。

これらペレットの再利用には、電気から生成される熱が必要だ。蓄えられたエネルギーを放出させたい時に適切な量の水を加えることで、ペレットは最大でカ氏1000度(セ氏537度)の熱を放出すると、同社創業者のアルピット・ドウィベディ氏は述べている。

キャッシュ・エナジーの創業者アルピット・ドウィベディ氏(左)

熱の放出と再利用の両方のサイクルを担うのは、直径約15インチ(約38センチメートル)、高さ8フィート(約2.4メートル)の反応装置で、約100キロワットの熱を生成できる。同社には他に、1メガワットの熱を生成するはるかに大きなモデルもある。

これらの小さなペレットは穀物サイロに保管できる。サイロは再利用可能なペレット用に一つ、そして放熱済みのペレット用にもう一つだ。ペレットはシンプルな穀物用エレベーターで反応装置に再び送り込まれ、反応装置そのものには可動部が一切ない。

この技術を小型化して家庭用バージョンができれば、給湯器の横に設置して電気が安いときに蓄えておき、天然ガスの代わりに暖房をまかなえるようになるかもしれないと、ドウィベディ氏は話す。

キャッシュのシステムの背後にある科学は確かだと、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の土木工学准教授でコンクリート専門家のニシャント・ガーグ氏は指摘する。同氏はキャッシュに関与していない。

しかし、同氏はこの小さなスタートアップが規模を拡大する際に課題に直面するとみている。その中でも最大の課題は、酸化カルシウムと独自の結合剤の適切な配合を見つけることだ。ペレットが何度も放熱と再利用サイクルを繰り返しても、形状を保ちながら効果的にエネルギーを蓄えられるようにする必要がある。

キャッシュの技術はペレット状のセメントに熱エネルギーを蓄えるもので、ペレットは通常の穀物サイロで保管可能

厳しい冬

キャッシュの技術はすでにパートナー企業などによってテストされている。米家電メーカー、ワールプールのグローバル・サステナビリティー部門のシニアマネジャー、スコット・ブロメル氏はオハイオ州にあるキッチンエイド工場に導入したシステムについて、「予想以上に優れた性能を発揮している」ことが分かったと話す。

米国防総省は、極端な気象や緊急事態、または送電網の障害時に軍事施設の暖房用としてキャッシュの技術を活用することを検討していると、米陸軍工兵研究開発センターの広報担当者は述べている。また、キャッシュのドウィベディ氏によると、天然ガス価格の上昇を警戒する欧州とアジアの企業も関心を寄せている。

ミネソタ州ではティム・ウォルズ知事が最近、公益事業者に対して2040年までに100%カーボンフリーの電力を提供することを義務付ける法律に署名した。ミネソタ大学モリス校の幹部たちは、大学に2基ある巨大な1.65メガワット風力タービンの一つが生み出す余剰電力によって、最終的にキャンパス全体の暖房をまかなえるかどうかを判断するためにキャッシュの技術をテストしている。

厳しいミネソタの冬にモリス校の38棟の建物――全体で約100万平方フィート(約9万2900平方メートル)――の暖房をまかなうには、天然ガスの形でキャンパス全体の電力需要の4倍のエネルギーが必要だと、同大学でサステナビリティーディレクターを務めるトロイ・グッドナフ氏は指摘する。天然ガス価格が変動する中、暖房費の予算を立てるのは難しいという。

グッドナフ氏のチームは先頃、キャッシュの反応装置とペレット貯蔵システムの納品を受け、単一の建物をどれだけうまく暖房できるかの評価をすでに始めている。「非常にうまくいっている」と同氏は話している。

ミネソタ大学モリス校に納品されたキャッシュのシステムは貨物用コンテナに格納されている

大学は現在、タービンで発電した余剰電力を地元の電力会社に販売しているが、キャッシュのセメント蓄熱装置に使うことも可能だ。そうすれば、キャンパス全体で天然ガスよりも低い総コストでエネルギー自給を達成できる可能性があるとグッドナフ氏は話す。

沸点

エネルギー資源に乏しい国も数兆ドル規模のAI(人工知能)大手も、いずれも安価なエネルギー源を求めている。カギとなるのは、キャッシュのような技術を、風力や太陽光が非常に豊富で、地元の風力タービンと太陽光パネルがエネルギーを過剰なほど生み出すような場所に配置することだ。

ノースダコタ州とサウスダコタ州が「風力のサウジアラビア」であるならば、グッドナフ氏によると、ミネソタ州は「風力のカタール」とみなすことができる。グレートプレーンズ(北米大陸中西部の大平原)の各州は風力と太陽光による膨大なエネルギーを活用する可能性を秘めており、近年はキロワット時当たりで化石燃料よりも安価になっている。

グッドナフ氏は、電力用の蓄電と熱用の蓄熱の両方を組み合わせれば自身の大学、さらに将来的には州全体がエネルギー自給を達成できると考えている。

「私たちは穀物を貯蔵し、トウモロコシを貯蔵し、大豆を貯蔵し、プロパンを貯蔵している」と同氏。「ではなぜ電子(電気)を貯蔵しないのか?」

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――筆者のクリストファー・ミムズはWSJハイテク担当コラムニスト