「学童落ちた」が止まらない でも職員は手取り13万円、ボーナスなし…過酷な現場を取材した

■年収200万円以下が6割, ■夏休みは朝から夕方まで, ■やりがいはあるけれど……保護者から言われて「傷つく一言」, ■学童の犠牲の上で成り立つ「共働き」と「働き方改革」

 放課後、小学生たちが過ごす「学童」。共働き家庭にとって欠かせない存在であり、いまや小学生の4人に1人が通う社会インフラとなっている。だが、その現場を支える放課後児童支援員は、低賃金に加え、保護者対応など多くの負担を抱える過酷な環境に置かれている。現場の職員に話を聞いた。

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 今春も「学童落ちた」というSNS投稿が相次いだ。「むりむり」「学童落ちて仕事辞めた」「腹くくるしかない」という落胆の声が上がった。

 ここ10年、保育園の待機児童は10分の1まで減り、約2千人になった。だが、学童の待機児童は1.6万人で高止まりしたままだ。

 学童の待機児童問題の裏で、職員の厳しい待遇という問題がある。

 首都圏の学童で働く50代の女性は、ためらいながらこう語る。

「もう辞めようと思います」

 子どもにとって身近な存在であるという誇りを持ちながらも、待遇の低さや職場環境の厳しさに心が折れたという。

 島根県の民間学童の施設長も言う。

「この4月まで、常勤職員の月給は15万円(手取り13万円)。決して恵まれた待遇とは言えず、賞与の支給もできませんでした」

 春からは公営学童も運営することになり、ようやく職員の月給を上げることができ、施設長自身も給与を受け取れるようになった。だが、多くの現場ではいまも低賃金のまま運営が続いているとみられる。

■年収200万円以下が6割

 放課後NPOアフタースクール代表理事の平岩国泰さんは言う。

「いまや小学生の4人に1人が学童に通っています。学童は社会インフラです」

 学童に通う児童は、この20年で3倍に急増した。こども家庭庁によると、学童に登録する児童は2003年の54万人から、25年には157万人に拡大した。

 学童では、職員たちが、子どもを見守りながら、おやつを提供し、生活習慣や学習習慣が身に付くようにサポートしている。

 だが、スタッフの待遇は厳しい。

 全国学童保育連絡協議会(18年調査)によると、週20時間以上勤務する職員の6割超が、年収200万円以下。ワーキングプアと言われる水準だ。

■年収200万円以下が6割, ■夏休みは朝から夕方まで, ■やりがいはあるけれど……保護者から言われて「傷つく一言」, ■学童の犠牲の上で成り立つ「共働き」と「働き方改革」

 15年から「放課後児童支援員」という公的資格を持つ専門職ができた。保育士や教員免許を持つ人、あるいは児童福祉事業に2年以上従事した人などが資格を取得できる公的な資格だ。

 学童の中心的な存在である放課後児童支援員だが、他の職種と比べても待遇は見劣りする。厚生労働省「賃金構造基本統計調査(25年調査)」によると月給(賞与を含まない)は、小中学校教員は46万円、保育士は28万円。一方、放課後児童支援員の月給(基本給+手当)は、19万円と大きく下回る(みずほリサーチ&テクノロジーズが22年、調査をもとに月給換算)。

「待遇が悪い状態が当たり前になってしまい、スタッフの善意に支えられているのが現実です。若い人にとって将来の見通しが立てにくい状況にあると思います」(平岩さん)

 北海道の学童で働く常勤の放課後児童支援員の女性(43)は、給与は月額20万円台に加えて処遇改善手当などがあるが、職場には余裕はないという。

「学童で使うおもちゃは、保護者からの寄付や職員が自宅で使わなくなったものを持ち寄っていることもあります。他の学童では、スタッフがポケットマネーから出していると聞きました」

■年収200万円以下が6割, ■夏休みは朝から夕方まで, ■やりがいはあるけれど……保護者から言われて「傷つく一言」, ■学童の犠牲の上で成り立つ「共働き」と「働き方改革」

■夏休みは朝から夕方まで

 放課後の子どもの受け入れは午後からだが、夏休みなどの長期休みになると、平日午前8時から午後6、7、8時頃まで子どもたちに対応しなければならない。

 常勤職員は若手が少なく中高年が中心で人手不足。大学生や定年後のシニアのアルバイトに支えられているのが実情だ。

 過去23年、学童に通う児童が2.9倍に増える一方で、施設や人員は追いついていない。学童の数は1.8倍増にとどまる。その結果、1つの部屋に多数の子どもが集まる状況が生まれている。中には70人、80人規模の子どもを、1つの部屋で見る学童もあるという。

 あまりの密集具合に、学童が「鳥小屋」「野戦病院」と呼ばれることもある。

「授業が終わって、子どもたちは声を出したいし、動きまわりたい子も多いです。でも、空間が狭いと、子ども同士でぶつかることもあり、職員は声を張り上げ続けなければならない。子どもも、大人も疲弊してしまいます」(平岩さん)

■やりがいはあるけれど……保護者から言われて「傷つく一言」

 平岩さんは言う。

「小学校低学年児が学校にいる時間は年間1200時間ですが、学童では最長1600時間を超えます。学校よりも長い時間を学童で過ごす子もいるのです」

 教科を教える縛りなしで、子どもたちと関わりたいと、教員から学童に転職した人もいるという。

■年収200万円以下が6割, ■夏休みは朝から夕方まで, ■やりがいはあるけれど……保護者から言われて「傷つく一言」, ■学童の犠牲の上で成り立つ「共働き」と「働き方改革」

 冒頭の島根県の施設長も話す。

「子どもたちは日本の宝です。私自身、朝から夕方までさまざまな業務を担いますが、まったく苦しいものではなく、子どもたちへの思いが原動力となり、やりがいと楽しさを感じながら取り組んでいます」

 しかし、学童の仕事が、十分に理解されているとは言い難いという。

「“ただ預かってもらっている”という認識で利用されると、子どもたちと真剣に向き合っている思いがそがれてしまいます」(島根の施設長)

 放課後NPOアフタースクールによると、保護者からの傷つく一言があるという。

 それは、「とにかく預かってくれたらいいので」だ。

 学童でどれだけ安全管理を徹底していても、けがやトラブルは起きるもの。トラブルを防ぐことだけを優先すれば、子どもの自由は制限される。ジレンマがあるなかで、保護者と同じ方向を向いて、子どもが成長する環境をともに築いていきたい。

 そんななかで「とにかく預かってくれたらいいので」と放たれる一言には、放課後児童支援員が専門職として認識されていないことを痛感するという。「ただ子どもを見ているだけでしょ」「保育しているだけでしょ」と言われるように感じるのだ。

 トラブルが起こると、事実関係の詳細な説明や、文書での報告を求められることも少なくない。保護者の仕事が終わる夜間まで、説明のために残業して待つこともある。平岩さんは言う。

「学校も放課後も同様ですが、保護者から深夜に長文の苦情メールが届いたときは、朝から読むと、精神的に厳しいものです。学童のスタッフはコロナ禍ではエッセンシャルワーカーと呼んでいただけました。必要な仕事と言われながら、現実とのギャップが大きいままです」

■学童の犠牲の上で成り立つ「共働き」と「働き方改革」

 東京都は4月、学童の職員に対して、最大月8万2千円の家賃補助をする制度を始めた。

「保育士は家賃補助制度がありますので、学童もやっと支援されるようになったのだと勇気づけられました。他の都道府県でも続いてもらいたい。まずは保育士さん並みの待遇になってくれるとうれしいです」(平岩さん)

 ただ、こうした支援はまだ一部にとどまる。現場の負担はむしろ増している。

 元公立小学校指導教諭でベネッセ教育総研究所の主席研究員、庄子寛之さんは言う。

「教員の働き方改革により、6時間授業をしない学校が増えてきています。授業の間の休憩時間を10分から5分に短くしたり、掃除の時間もなくしたりする学校もあります。下校時間が早まった分、学童に行く時間も前倒しになります」

 その影響は学童に及ぶ。

「日によって下校時間が異なり、午前中で下校する日でも変更が十分に共有されないことがあります。その場合、学童が急きょ対応せざるを得ません。人手や昼食の準備が追いつかないこともあるといいます」(庄子さん)

 学童の犠牲の上で、共働き、教員の働き方改革が実現していないだろうか。

(AERA編集部・井上有紀子)

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