【世田谷一家殺害】「お金がなかったので空き家に入った」ベトナム人侵入で露見した事件の“風化”

木が生い茂った『世田谷一家殺害事件』の現場。ルオン容疑者らは玄関脇の窓ガラスを割って侵入した

金目のものを探して侵入

’00年12月30日の深夜に東京・世田谷区で宮沢みきおさん(当時44)ら家族4人が殺害された『世田谷一家殺害事件』。その現場となった住宅に金品を盗むために侵入した男らが逮捕された。

5月14日に警視庁は住所不定のルオン・バン・ハイ容疑者(32)と、東京都調布市のグエン・マイン・フン容疑者(28)を邸宅侵入と窃盗未遂の容疑で逮捕したと発表した。2人はともにベトナム国籍の建設作業員だ。

3月に練馬区で警察官がルオン容疑者に職務質問をしたところ、在留資格が切れていることが発覚し、出入国管理法違反(不法残留)容疑で現行犯逮捕。取り調べの中でグエン容疑者とともに現場に侵入したことをほのめかしたという。グエン容疑者は4月に入管法違反の容疑で調布市内にて逮捕された。

「逮捕容疑は’23年9月中旬ごろ~’25年12月中旬ごろまでの間に、世田谷区上祖師谷の殺害事件の現場となった住宅に窃盗目的で侵入し、金品を盗もうとした疑いです。2人は『収入が不安定でお金がなかったので空き家に侵入した』『少しでも生活の足しにするために侵入した』と容疑を認めており、昨年9月ごろに侵入したと供述しています。『世田谷一家殺害事件』の現場だとは知らなかったようです。

昨年12月13日の朝、見回りの警察官が1階玄関脇の窓ガラスが割られているのを発見しました。室内には土足で歩き回った2種類の足跡があり、施錠してあったはずの玄関のドアが開いていたそうです。警察は何者かが侵入したとして、捜査をしていました」(全国紙社会部記者)

世田谷区上祖師谷の事件現場は、現在は都立祖師谷公園内にある。発生直後から警察が証拠保全のために24時間態勢で警察官を常駐させてきたが、’20年の2月に保全を終えたとして警備を引き上げた。本来であれば同年1月に取り壊す予定だった。しかし、遺族の意向により土地を所有する都との間で建物の撤去を猶予する契約を結んでおり、現在に至っている。

事件が続いていた

警備がされなくなってからは、これまでにもいくつか事件が起きている。’20年11月には、建物を囲むフェンスに顔を模した絵やサインなどの落書きをされているのが発見され、翌年5月に男子高校生が器物損壊容疑で送検された。また、’23年10月には10人近くの別の高校生らがフェンスを乗り越えて敷地内に侵入し、軽犯罪法違反容疑で書類送検されている。高校生らは「肝試し感覚だった」「心霊スポットだと思った。事件のことは知らなかった」などと話していたという。

ルオン容疑者らにかけられた容疑に「邸宅侵入」とあるが、あまり耳慣れない言葉ではないだろうか。報道でよく目にする「不法侵入」や「住居侵入」とは違うのか。アトム法律事務所の松井浩一郎弁護士に解説してもらった。

「『不法侵入』という用語は法律上の罪名ではなく、刑法130条前段の侵入罪を総称する通称です。報道などでは便宜的に『不法侵入』と記載されることはあります。

刑法130条前段は、〈正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し(中略)た者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する〉と定めています。同じ条文の中で、侵入先の建物の性質に応じて『住居侵入罪』『邸宅侵入罪』『建造物侵入罪』『艦船侵入罪』と分けて呼んでいるということになります。

『邸宅』とは、居住用の建物のうち日常的には使用されていないものをいい、具体的には、空き家などがあたります。本件の世田谷の現場は、誰も住んでいない状態が続いている空き家であるため、『邸宅』にあたります」

それでは’23年に高校生たちが「肝試し」で侵入した件が「邸宅侵入」とならなかったのはなぜだろうか。

「’23年の事件では、当初『建造物侵入や軽犯罪法違反の疑い』で捜査を進めていましたが、最終的には、立入禁止現場への侵入(軽犯罪法1条32号)で処理されました。これは、侵入したのが建物本体ではなく敷地部分にとどまったこと、被害者がいずれも未成年であり要保護性が考慮されたことなど、諸事情を踏まえた結果であったと考えられます」(同前)

ちなみに、心霊スポットとして有名な廃墟などへの侵入は、「フェンスや施錠など、誰かが事実上管理・支配している状態であれば、建造物侵入に問われる可能性があります」とのことだ。

「金目のものがありそうな空き家」「有名な心霊スポット」……遺族たっての願いで現存し続ける現場の建物に対する人々の認識のギャップからは、事件から経てしまった年月の長さを感じずにはいられない。少しでも早い事件の解決を願ってやまない。

5月15日に練馬署から送検されたルオン容疑者

関係者以外立ち入れないように家のまわりにはフェンスがめぐらされ、前の道路にもかなり手前にバリケードが置かれていた

すっかり緑に飲み込まれたようになってしまっていた

現在も捜査は続けられている