「Mac Fan」最終号は完売 33年貫いた「初心者を置き去りにしない」編集方針 アップルが日本に受け入れられた日

■初心者の「翻訳者」, ■ジョブズ追悼ムック, ■育てたコミュニティー, ■アップルが日本で受け入れられた日, ■「Mac Fan」とアップルのこれから

 「Mac Fan」(マイナビ出版)が今春、紙での定期刊行を終了し、ウェブ中心の体制に移行した。創刊から一貫して初心者ユーザーと製品をつなぐ「翻訳者」の役割を担ってきた同誌の笹本貴大統括編集長に33年の読者との歩み、アップルと日本のユーザーの移り変わりについて聞いた。

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■初心者の「翻訳者」

――創刊33年で本誌休刊、ウェブ中心へ移行した背景は。

笹本 書店も減り、読者はスマホやタブレットへ流れていく時代です。「Mac Fan」の読者はITリテラシーが高く、電子版の利用者も増えていた。それを契機にウェブへのシフトを本気で考えました。2024年に隔月刊化とウェブ強化を始め、昨秋は「Mac Fan Fes.」で久しぶりのリアルイベントも開催しました。雑誌を出すだけでなく、読者と直接触れ合うことが、これからの接点のひとつだと実感しました。

 紙の定期刊行は終わりますが、初心者向け入門ガイドなどはムックとして「Mac Fan」の冠で続けます。アップル50周年やティム・クックCEO退任の話も重なり、区切りとして納得しています。

 アップルは昔、より個性的で挑戦的なブランドでした。製品の思想や使い方も独特で、それをかみ砕いて伝える存在が必要でした。私たちはアップルとファンの架け橋であり、「翻訳者」だったと思います。「アップル製品をどう楽しむか」を代わりに伝えていた。そんな感覚があります。

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■ジョブズ追悼ムック

――印象的な出来事は。

笹本 2011年、スティーブ・ジョブズ逝去の際に刊行した追悼ムックは、亡くなってから数日で制作したと聞いています。 CEO退任時に掲載した「ありがとう、スティーブ」特集をベースに、過去の取材記事を再編。突貫でしたが、当時は「Mac Fan」だけが出せた本でした。

 定期刊行最終号の表紙に登場いただいたジ・アルフィーの高見沢俊彦さんは、本誌で連載もやっていただいたほどのヘビーユーザー。最後も「芸能人表紙」で締めたかった。最終号はおかげさまで完売しました。

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――他のMac専門誌が消えるなか、最後まで残った理由は。

笹本 ネット上に情報が溢れる中で、「雑誌でしか得られないもの」の価値が、より重要になっていきました。そうした変化を踏まえ、雑誌の強みである「一覧性」や「専門性」を生かした記事を強化してきたことも一因だと思います。実用的な情報に加えて、「Mac Fan」でしか読めない専門的な企画を拡充し、体験価値を高めてきました。その積み重ねが、結果として読者に支持されてきたのだと思います。また、「初心者を置き去りにしない」という姿勢を一貫してきたことも、長く続けられた理由のひとつではないでしょうか。 

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■育てたコミュニティー

――日本でのアップルコミュニティーを育てたのは、「Mac Fan」をはじめとする雑誌やイベントだった。

笹本 1997年に大阪ドーム(現・京セラドーム大阪) でイベント「Mac Fan Expo in Kansai」を開催し、多くの来場者が集まったと聞きます。当時のMacユーザーは少数派で、Windows全盛のなか「同じ趣味の人とつながりたい」というニーズは比較的強かったのではないかと。雑誌やイベントがその道筋をつくり、その後に展開されたApple Storeを含め、さまざまな場がユーザー同士の接点として、それぞれ機能していたのではないかと感じています。

――アップルの印象と日本に与えた最大の影響は。

笹本 最先端を最初に出す会社ではなく、「機運が高まったタイミングで決定版を出す」のが圧倒的に上手な会社です。たとえば白いイヤホンで「iPod」をアイコン化したり、iPhoneで「スマホ=iPhone」を印象づけたり。ユーザーが使う姿そのものを「広告」にする力が際立っていました。

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■アップルが日本で受け入れられた日

――アップルが日本で市民権を得た「転換点」はどこでしょう?

笹本 世代によって違うとは思いますが、やっぱりiPhoneではないでしょうか。「Mac Fan」でもiPhoneの記事が徐々に増えました。長く読んでいただいている読者の中には 「Macの記事をもっと」という声もありましたが、iPhoneは、それまでのアップル製品以上にライフスタイルへ入り込んだデバイスだった。仕事や生活まで含めて、“使い方”が爆発的に広がった。そこが大きかったと思います。

――「先取りしすぎて失敗」な製品もありました。

笹本 手帳端末の「Newton」がそうでした。Apple Vision Proも現時点ではそうかもしれません。ただし、失敗を次に生かす柔軟さがアップルにはあります。ジョブズ復帰後は乱立していた製品ラインを整理しました。Apple Watchも当初はラグジュアリー志向で展開されていましたが、心拍の異常や転倒の感知機能など、ヘルスケア重視に切り替えて成功しました。

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――アップルはフロッピーディスクも光学ドライブもイヤホンジャックもいち早く搭載をやめた。その強引さを、読者はどう受け止めていたんですか?

笹本 古くからのMacユーザーは、そうした変化にも比較的寛容に向き合ってきました。「アップルはそういう会社だよね」と受け止める文化があるんです。

―― 「スタバでMac」といったイメージも。「アップル製品を持っているとかっこいい」という感覚は、いつ頃から生まれたんでしょう。

笹本 「カフェでノートPCを使う」というスタイルが広がる中で、モバイル性に優れたMacBookシリーズを使うユーザーが比較的多かったことが、そのイメージにつながったのではないかと思います。

 また、「かっこいい」というイメージについては、初代iMacが示したデザインのインパクトも大きいと思いますが、その感覚を一気に広げたのはiPodの存在だったのではないでしょうか。

 こうした流れによって「モノを見る目」そのものが変わった気がします。「デザインのいいものを使いたい」とか「生活を少し良くしたい」という感覚ですね。そこからiPhone、AirPodsと続きました。電車の中でもみんな使っていることで、目にする機会が圧倒的に増えたんです。

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■「Mac Fan」とアップルのこれから

――2026年、おすすめのアップル製品は。

笹本 今年3月にリリースされたばかりの MacBook Neoです。「10万円を切る価格で購入できるMac」として、普段使いなら十分。iPhoneだけ使っている人の「Macデビュー」にも向いています。メモリは8GBでも日常用途なら問題ありませんが、本格的な動画編集や3D制作といった用途であれば、より上位のモデルを選択されるとよいと思います。

――これからのアップルと「Mac Fan」の役割は。

笹本 ファンのなかには、いまだに「ジョブズが生きていたら」と考える声が残っているのも事実です。以前、僕が担当して「ティム・クック特集」をやりました。今でも好きな企画です。ただ、内容としてしっかり評価していただく一方で、象徴としてのスティーブ・ジョブズの存在の大きさを改めて感じる場面もありました。次期CEOであるジョン・ターナスには、エンジニア・ハードウェア寄りの「One more thing」を期待しています。

 紙媒体はどこも同じ悩みを抱えていると思います。「紙でなくてもいい」方向に進んでいます。でも、ムックとウェブ、イベントで「翻訳する役割」は続けたい。「Mac Fan」は初心者を見捨てない姿勢で33年続きました。その姿勢は次の接点にもつながっていくと思っています。

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(聞き手・構成/AERA編集部・古寺雄大)

※AERA 2026年6月8日号

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