廃止決定?埼玉の「最狂・最狭路線バス」が凄かった!狭すぎて「枝葉がボキッ!」&「終点バック」の合わせ技 “リミット”迫る異例づくしの西武観光バス「倉尾線」に乗る 〜果てなき路線バスの旅〜

自然豊かな秩父・小鹿野エリアの「最狂・最狭路線」G14倉尾線

 街で見かける路線バスの路線網は、毛細血管のように全国各地に張り巡らされ、都市間を結ぶだけではなく、大通りから1本入った生活道路や狭隘な路地、鉄道のない僻地、山奥の秘境を走る路線も数多くあります。

 

 そんな路線バスで停留所をひとつずつ辿りながら目的地を目指すバス旅は、“直行の旅”ではなく、クルマや鉄道旅行では一瞬で見逃してしまう「その土地の素顔」を知ることができます。

 

 地元の乗客に溶け込み、観光客としてではなく、「その町の日常」にそっとお邪魔しているような感覚は、他の移動手段ではなかなか味わえません。

 

 今回は、秩父エリアで路線バスを運行する西武観光バスのうち、車体ギリギリの「激セマ道路」を通るとウワサの“最狭”路線に乗ってきました。

すれ違いは100%困難! 西武観光バス「G14 倉尾線」

 西武観光バスはその名称の通り、黄色い電車でおなじみの西武グループのバス会社です。

 基本的には東京で今も見かける西武バスの従来車両とカラーリングは同じで、1953年から採用されている、ピーコックブルーとクリームにオレンジ色のアクセントカラーが入った「笹カラー」となっています。

【画像ギャラリー】「ええぇぇ!」 これが埼玉の「最狂・最狭路線バス」西武観光バス・倉尾線の全貌です! 画像で見る(30枚以上)

 余談ですが西武バス本体では、西武線の黄色い電車「2000系」をイメージした特別車両が走り始めました。急速に数を減らす黄色い電車とセットで見ておきたいものです。なお、近頃は笹カラーではない新色のバスもデビューしたそうです。

 西武観光バスに話を戻すと、もともとは西武バス本体の「秩父営業所」だったようですが、分社化され、埼玉県の秩父エリアの路線を運行しています。また長野の軽井沢エリアでも路線バスを運行しており、長野県内で西武バスを見られるのは、少々驚きかもしれません。

 さて、その西武観光バスが運行する路線のひとつである「G14 倉尾線」は、秩父市の隣町である小鹿野町の「小鹿野役場」バス停から、国道299号といくつかの県道を経由したあと、終点「長沢」バス停まで向かう路線です。17kmほどの道のりです。

 299号までの間は県道209号の小鹿野市街地を通りますが、その後少々299号を走り、県道37号線、71号線、282号線と進み、徐々に山のなかへ入っていきます。途中、「合角(かっかく)ダム」を過ぎると地図でもわかるとおり、どんどん険しい道のりとなります。

 そして終点の長沢バス停は、「ながさわ」ではなく「ちょうざわ」と読みます。282号線の終点で、その先はれっきとした“林道”になり、「矢久峠(やきゅうとうげ)」を挟めば群馬県神流町に入ることができます。

 秘境のバス路線を厳選した「秘境路線バスをゆく BEST1」(イカロス出版)にも掲載されている倉尾線。「スリリングなポイントが目白押し」と紹介されています。

 果たしてどんな旅ができるのでしょうか。霧雨の降る2026年5月22日、旅(とバス)好きのくるまのニュース編集部員Nが乗り通してきました。

始発バス停の「小鹿野役場」にやってきた倉尾線の車両

 小鹿野町に着いたのは9時ちょうど頃。倉尾線は平日4往復、土休日5往復で、午前中は1往復のみ。逃したら結構ヤバめです。かなり余裕を持って現地入りしました。

 小鹿野役場バス停は町役場に隣接する観光案内所の前にあります。バス発車時刻が近づいても、人の姿はありません。西武秩父駅方面に向かう反対側のバス停には、町営バスを待つ人が何人かいます。

 町営バスや街ゆくクルマを見送ると、回送表示の西武観光バスがやってきました。これが倉尾線に充当されるようです。

 車両は首都圏では珍しくなってきた日産ディーゼル(当時/現:UDトラックス)の中型車で、「A0-484」号車(日産ディーゼル「スペースランナーRM」・型式:PDG-RM820GAN)。もともと西武バス本体の練馬営業所にいた車両のようで、きれいなフルカラーの行先表示機が装着されています。

 反対側からやってきたので、どこへ行くのかと思いつつ眺めていたら、2023年に建て替えられたばかりの役場のロータリーに入っていきました。なるほど、ここで折り返すようです。

 中扉から入り、交通系ICカードをピッとタッチ。乗客は筆者(くるまのニュース編集部員N)以外だれもいません。そのまま9時35分、定刻に出発しました。

 バスはしばらく県道209号 小鹿野影森停車場線を進みます。小鹿野町のメインストリートともいうべき道路で、住宅のほかに歴史のあるステキな旅館や商店なども立ち並びます。食堂やお土産屋さんなどもちらほらあり、立ち寄りたくなります。朝ごはんを食べている余裕がなかったので、「わらじカツ丼」ののぼり旗がお腹にきます。

 これが普通のドライブなら並行する299号を通ってスルーするはず。街並みを楽しめるのはバス旅の魅力です。帰りに途中下車し、街歩きするのも楽しいでしょうね。

 周囲に高校生たちの姿が見え始めたところで「小鹿野」バス停を過ぎ、「小鹿野高校南」の交差点に到着。右折して少々進んだあと、299号に入ります。

 299号最初のバス停は「巣掛峠(すがかりとうげ)入口」というバス停。いよいよ「峠の入口」というバス停が出てきました。乗客はまだ筆者だけ、ひとりでワクワクが止まりません。

 299号を1kmほど走ると「黒海土バイパス前」交差点ですぐに299号とは別れて右折。県道37号 皆野両神荒川線に入ります。すると早速トンネルです。

 地図を見るとバイパスではない旧道はクネクネ道を通ります。ここが巣掛峠のようですが、バイパスとトンネルの効果もあり、峠道らしさはなく穏やかに通過しました。

 やがてバスは丁字路に到着。左折して県道71号 高崎神流秩父線に入ります。ちなみに次のバス停「上吉田駐在所」から終点長沢間は、手を挙げればバス停以外でも乗れる「フリー乗降区間」になります。降りる時は運転士さんに早めに知らせてください。

 上吉田地区の集落を抜け、山間になってきました。「小川戸橋」バス停を過ぎ、自動車整備工場の前を通過すると、郵便局の看板を前にして分岐が出現。そのまま2車線の本線を通るかと思いきや、バスは1車線の側道へと入っていきます。すれ違いができそうな場所はいくつかあるとはいえ、なかなかの狭さです。

 そして再び県道71号線に合流。「塚越」交差点で左折し、終点まで行く県道282号 藤倉吉田線に入ります。

ベテランでも緊張するレベル? 車体に枝葉が「ゴリゴリ、ボキッ」

 小鹿野役場出発から20分弱。県道282号線に入ると、住宅や商店は周囲から姿を消しました。ぐいぐいと坂を登りながら、自然たっぷりの景色に心がはずみます。S字のカーブを通り抜けると、少々景色が開けました。合角ダム前のバス停「女形入口」に到着です。

 合角ダムは秩父エリアに4つあるダムのひとつ。手打ちそばを提供するそば処もあり、ダムを眺められる人道橋もあります。ダムカードも配布していて、管理所で声をかけるとダムカードをもらえます。「合角(かっかく)」は「ごうかく」と読めるので、受験生にも人気なのだとか。

 そんな合角ダムを横目に、ダム湖を渡る「倉尾橋」を渡ります。なかなかの眺望で、橋の赤い塗装とトラス構造も相まって、冒険している雰囲気が出てきました。しばらくは走りやすい2車線が続きます。

「日尾」バス停をすぎ、ゆったりとしたバスの乗り心地に揺られ、すっかり気持ちよくなってきたころ、前方に「落石注意」の標識が目に入ってきました。おやおや、様子が変わってきました。

 続いて「追越しのための右側部分はみ出し通行禁止」、「車線減少」の標識が。緊張が走ります。ここからが難所のスタートです。

枝葉をかすめる倉尾線の車窓

 標識が出てからわずか数分。突然2車線が消えました。最後席にいてもわかるレベルで急に道が狭くなります。もし自家用車を運転していても、この狭さに出くわしたらかなりストレスです。

 バスもスピードを緩めます。舗装も荒く、吊り革が左右にぶんぶん振られています。ちなみに対向車が来たら100%すれ違い困難です。

 右窓のすぐ目の前には苔むした法面。左の窓はガードレールこそあるものの、崖。「シャリシャリシャリ、パキッ」。車体が枝葉を擦る音まで聞こえてきました。後ろを振り返ると、いまここをバスが通っているのが本当に不思議です。中型車でさえこの有様なのですから、大型車は確実に無理です。運転士さんの腕の良さが光ります。

 緊張の区間をとりあえずクリアしました。対向車が来なくてよかったです。左の車窓に平成の名水百選に選ばれた湧き水「毘沙門水」の水汲み場が見えました。ドキドキで喉が乾いたので、降りてミネラル豊富な水で体力回復したいですが、終点はまだ先です。

 とホッとしたのも束の間。やっぱりまだまだ狭い道が続くではないですか。先ほどの枝と接触するほどのレベルではないですが、再びところどころで狭くなっています。

 途中、「新要トンネル」を通ります。すぐ横には岩盤をくり抜いただけの簡素な旧トンネルがあり、かつての倉尾線はここを通っていたようです。

 バス停の間隔も長くなってきました。2車線の広い区間と待避所のある1車線の区間を経由し、ぐんぐんと先へ進んでいきます。一向に下り坂にならず、標高も高くなっているようです。

 小鹿野役場から約40分。「次は終点、長沢」のアナウンスが聞こえてきました。

終点「長沢」でバック駐車する倉尾線

 長沢手前の道もかなり狭くなっています。まだ一応は県道ですが、もう林道区間に突入しているかのような様子で、2車線は完全に消滅。待避所が何箇所かある1車線で、右に法面、左に崖が迫ります。

 見通しもかなり悪く、カーブミラーを活用しながらゆっくり進みます。住宅もポツリポツリと増えはじめました。

 まもなく終点長沢に到着。多少道が開けましたが、依然譲り合わないとすれ違いはできません。

 そしてバスは停留所の先のロータリーでUターン…。と言いたいのですが、こんな狭い道でUターンなんかできず、ましてやロータリーなんかあるわけがありません。先は林道です。どうやって折り返すのでしょう。

 するとバスは長沢バス停を通り過ぎました。「あれ!」。少々進んで一旦停止し、左に後退をはじめました。ここに「バックでバス停に車庫入れ」するということのようです。なるほど。

 長沢バス停&折り返し場は、この狭い道の進行方向左側にあります。待避所+アルファくらいなサイズの開けた場所で、中型バスがちょうど収まる程度のコンパクトなスペース。バック駐車は非常に珍しいですね。

 ちなみに終点バック駐車は奈良県十津川村営の超・秘境バス路線「西川線」も同様で、こちらは崖からせり出た「天空の駐車場」が終点という、非常にエキサイティングな終点となっています。

 後続車がいたので、バックする運転士さんは手を挙げてあいさつをしつつ、バス専用のスペースに収まりました。ようやく到着です。乗客はけっきょく誰一人いませんでした。

運転士さんに話を伺うと… 衝撃の事実が発覚

 長沢バス停は林道入口の700mほど手前の藤倉地区にあります。まだ県道区間ではあるものの、ほぼ林道のような狭さです。

 ちなみにこの先の林道 二子山線は後でクルマで走ってみましたが、運転に自信がないなら絶対におすすめしません。

 今回の取材で小鹿野町まで乗ってきた全長5m×全幅2mの大型SUVでは通行困難の狭さで、泣きそうになりながらバックで引き返しました。一応群馬県境の矢久峠までは歩きで70分くらいですが、時期によってはクマ出没が懸念されます。今回は雨ですし、クマ対策も万全ではありません。歩いての県境越しは諦めました。

 なかなかの秘境にある長沢バス停。もちろん飲み食いができるお店や商店はゼロです。簡易的な公衆トイレはあり、群馬方面へハイキングする場合には重宝するでしょう。ただ、登山届を提出する場所は周囲には見当たりませんので、ハイキングや登山でバスを利用する場合は確認したほうが良さそうです。

 すぐ左には川があります。せせらぎが聞こえます。自然たっぷりのなか、深呼吸したくなります。

 折り返しまでは3分ほどあります。小鹿野役場からの540円の運賃を精算し、運転士さんに「折り返しに乗ります」と告げて一度降り、撮影を済ませて再びバスに乗ります。

終点「長沢」バス停

 まだ少し時間があるので、乗客の利用状況などはどうなっているのか、運転士さんに話を伺いました。

「地元の方も最近では乗らなくなっちゃいましたので、(終点長沢まで来る人は)ほとんどいないです。もともとは結構いたんですよ。20〜30年前くらいは子どもたちもいっぱいいましたしね。

(少子化という)そういう世の中ですから。まだ子どもたちも何人かはおられるみたいですが、町のスクールバスで移動するようになり、このバスには乗らなくなりましたね。残ったお年寄りの人も乗らなくなり、近頃はめっきりです。たまに2、3人いますけれど、それくらいですかね」。

 今回担当してくださった運転士さんは大ベテラン。かなり狭い道ですが、難なく運転しているように見えました。やはりプロは緊張しないのでしょうか。

「そりゃあ、気を遣いますよ。気を抜いたらこすっちゃうので、緊張感はありますよね」。

 そりゃそうですよね…。恐怖感なく運転していただき、本当にありがとうございます。

 軽い取材を終え、一番前の席に座ろうとしたとき、運転士さんから驚きの一言がありました。「この路線、そろそろ無くなるみたいなんです」。

 えーっ。事前情報はありませんでした。もしかして今回が最初で最後の乗車になるかもしれません。

 倉尾線はもともと利用客の少なさから、埼玉県から小鹿野町に対し、補助金が交付されて運行していたようです。しかし、小鹿野町も廃止を検討していたらしく、2024年の交通計画案では「新たな公共交通サービスの導入を検討」としています。

 今のところ西武観光バスの公式発表はまだで、後日電話で取材したところ、「まだ確定ではありません」とのことでした。

西武観光バス「G14 倉尾線」。まもなく廃止か

 バスは行先表示を「小鹿野役場」に変えるとともに折り返しの準備を進め、小鹿野役場に向かって復路を進みます。路線廃止というあまりの衝撃に、今まで通ってきた狭隘路すら忘れてしまいました。

 逆方向から乗ってみても、やっぱり狭すぎです。往復で乗ってみて、いちばん狭いところは「日尾〜長久保入口」の間であることがわかりました。

 復路は運転席に近い座席を取ったため、運転の様子がわかります。カーブミラーをよく確認しつつも、見通しが悪いため、運転士さんは体勢を変えながら先の様子まで気を遣っています。とても安全運行です。

 往路とは違い下り坂なので、ハンドル左のレバーを倒し、リターダー(補助ブレーキ)を使いながら下っていきます。がらんどうの車内にリターダーの「ジー」という音が響きます。

 再び合角ダムを通り、先程の狭い県道の側道、トンネルを抜け、299号まで来ました。小鹿野役場まではもう少し。降りる準備をするため、荷物をまとめていると、小鹿野の市街地に入ってきました。まもなく終点の小鹿野役場です。

 ここまでの往復で、やはり乗客は筆者のみ。利用客不足は相当に深刻なようです。運転士さんに「ありがとうございました」と告げて精算し、降車。回送になったバスを見送ります。もうこの景色は二度と見られないかもしれません。

 ちなみに西武観光バスでは「G13 志賀坂線」も存続の危機に瀕しています。小鹿野エリアから西武観光バスが撤退するのも、時間の問題かもしれません。貴重な秘境バス路線はこうして静かに消えてゆくのです。

※ ※ ※

 幾度ものカーブを超え、ダムを超え、枝葉をこすりながら到着した終点バス停ではバック駐車という異例づくしの倉尾線。すでに廃止のタイムリミットが迫っています。乗れるのは今のうちなのは間違いありません。

 バス旅で必要なのは、ちょっとの勇気と思い切り、そして運賃だけ。整理券を手に取り、シートに腰をかければ、知らない地名のアナウンスとともに、見たことない景色が車窓に映ります。

 旅に出るのに、あえての「路線バス」という選択。正式廃止になるまでに、一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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【地図】これが「西武観光バス・倉尾線」のルートと「激狭スポット」です!

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