ピエール・ガスリーが、低迷続くアルピーヌF1との契約を延長したのはなぜなのか? 今年の苦戦は飛躍への一歩か
ピエール・ガスリーは、アルピーヌF1との契約を3年延長。2028年まで同チームにとどまることを決めた。F1での優勝経験を持ち、高いパフォーマンスを発揮し続けているガスリーが、低迷が続くアルピーヌとの契約延長を決めた理由はどこにあるのだろうか?
アルピーヌはここ数年、厳しい戦いを強いられている。ルノーF1の後を引き継ぎ、2021年からアルピーヌの名を名乗るようになった同チームは、その1年目のハンガリーGPでエステバン・オコンの手により優勝。しかしこれは、レースが荒れに荒れた中での幸運という要素が強かった。その他、昨年までの間に5回の表彰台を手にしたが、やはりいずれも幸運だったが故に手にできた表彰台と言うことができよう。しかも首脳陣が次から次へと変わり、来季からは自社製のパワーユニットもなし(メルセデス製PUを使うことになっている)。ガスリーがそんなチームと契約を延長したことを、不思議に思う人がいるかもしれない。
それには、明確な答えがふたつある。
ひとつは、他に競争力のあるシートはなかったということだ。マクラーレンとフェラーリは、既にラインアップが決定済み。メルセデスも、実際の契約はまだであるものの、シート獲得を狙うにはあまりにもハードルが高いと言わざるを得ない。かつて所属したレッドブルのことは……考えただけで当時の恐ろしい記憶が蘇るに違いない。ウイリアムズやザウバーといったチームも、すでに将来のラインアップが確定している。
ふたつ目は、来季に向けた開発にポジティブな面があるということだ。2026年から、F1のレギュレーションが大きく変更。ほとんどのチームは既に、来季マシンの開発にリソースのほとんどを振り分けている。そんな中アルピーヌは、今季厳しい戦いを強いられることが分かると、2026年向けの開発に全集中。昨年加入した元フェラーリのエンジニア、デビッド・サンチェスの下で技術陣の体制が安定している。
また、フラビオ・ブリアトーレはチームの経営を掌握。親会社のルノーもF1プロジェクトへの継続的な関与を改めて表明している。

Pierre Gasly, Alpine
「もちろんそうした(移籍先を探した)よ」
ガスリーはイタリアGP終了後にそう語った。
「そうするのは普通のことだ。シーズン開幕時のパフォーマンスを見れば、残留するのは当然の選択だったわけじゃない。そこには、様々な思惑もあった」
「でも正直に言って、非常に有力な選択肢だと思っている。来シーズン、良いパフォーマンスを見せられるまで待つだけだ」
「チームと僕、そして僕とチームの両方に対して、明確な意思表示をし、コミットメントを示すのは良いことだと思う」
「そして一緒に働いている仲間たちのおかげで、チームに加入した時よりもずっと良い気分だ。だから契約延長はチーム全員にとってプラスになるに違いない」

Gerard Lopez, head of Lotus F1
ルノーがF1チームを取得し、ワークスパワーユニットの搭載を開始したのは2016年のこと。それまではロータスGPとして戦っていたチームは、ジニー・キャピタルとその代表であるジェラール・ロペスが率いていたが、ひどい管理体制であり、経営破綻寸前だった。最先端の設備を維持するための投資が全く行なわれなかっただけでなく、優秀なエンジニアの多くは、次の給与がしっかり支払われるのか、その不安に苛まれ、他チームへと転職していった。しかも首脳陣はF1で成功する上で必要なタイムスケールを理解しておらず、加えてルノー本体の経営が悪化…情報が深刻化していった。
かつてはベネトンやルノーとして数々のタイトル、勝利を手にしてきた名門チームが、存続の危機に立たされていた。
そんな状況から立ち直るため、ここ最近では経営陣が度々入れ替わったが、それによってもチームが危機に瀕しているという印象をほとんど払拭することはできなかった。ただブリアトーレの出現により、賛否両論あるものの、ある種の安定感は生まれつつあるようだ。
ダーティなイメージもあるとはいえ、ブリアトーレはベネトン時代にはミハエル・シューマッハーを擁し、そしてルノーになってからはフェルナンド・アロンソを擁してタイトル獲得に貢献した人物。その手腕は確かだ。

Flavio Briatore, Executive Advisor, Alpine
マネージングディレクターとしてチームに加わったのは、スティーブ・ニールセン。彼もかつて、ルノーで手腕を振るった人物である。
ガスリーは2025年の開発を犠牲にして2026年向けプロジェクトに取り組むと言う方針を早い段階で受け入れ、新しいドライバー・イン・ループ・シミュレータの導入など、水面下での進捗に満足しているようだ。
2026年に向けてのもうひとつのメリットは、ルノーがPUの開発を中止したことだ。ルノーは当初、2026年用PUの開発を進めていた。しかしカスタマーPUを入手した方が経済的に効率的だと判断。メルセデスとPU供給契約を結ぶことができた。
このメルセデスは、2026年型PUの開発が最も進んでいると噂されている。その噂が事実であれば、アルピーヌがいきなり高いパフォーマンスを発揮するようになっても不思議ではない。
「もちろん、僕の方としては、急ぐ必要はなかった」
そうガスリーは語った。
「フラビオがチームのポテンシャルを確信させてくれたと思う。そして先ほども言ったように、今年の競争力が落ちているのには理由がある」
「他のチームと比べて、開発をかなり早い段階で中止することを決めた時、僕はチームを全面的に支持した。今は確かに少し辛いけど、前進していく上で、そしてF1での僕の目標のためにも、来シーズンに向けて間違いなく最善の策だったと思う」
「エンストンのチームを、心から信頼している。優秀な新しいスタッフも何人か加わった。組織力、仕事の進め方といった点において、チームは僕がこれまで見てきた中で、おそらく最高の状態にあると思う」
「今年のマシンでうまく機能しないと分かっている全てのことは、来シーズンのチャンスを最大限に高めるために、意図的に変更しないという決断をしたからなんだ」
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