阪神優勝のMVPは? 大本命は佐藤輝明だが… 他球団が高評価する「最も厄介だった選手」は

今年の阪神は強かった。2リーグ制となった1950年以降の史上最速で、2年ぶり7回目の優勝。投打で脂が乗り切った選手が多い陣容は、黄金期の到来を期待させる。現時点でMVPを予測するなら、だれになるだろうか。(データは9月11日時点)
もっとも光り輝いた選手といえば佐藤輝明だろう。リーグトップの36本塁打、90打点をマーク。球団では1986年のランディ・バース以来39年ぶりとなる本塁打王が確実な状況だ。投高打低が顕著になる中、広い甲子園を本拠地にしながらアーチを量産したことには大きな価値がある。MVPの本命であることは間違いない。
打線では佐藤の脇を固める3番・森下翔太、5番・大山悠輔の和製クリーンアップは走者を還す打撃技術が高く、1番・近本光司、2番・中野拓夢と共に不動のメンバーだった。出塁率の高い森下や大山、リーグ盗塁王の近本、首位打者争いを繰り広げる中野と、それぞれ貢献度は高いが、佐藤にはやや及ばないだろう。
投手陣も12球団屈指のタレントをそろえ、MVP候補が並んでいる。才木浩人、村上頌樹のダブルエースは甲乙つけがたい成績だ。才木は12勝5敗で最多勝争いをしており、防御率1.62はリーグトップ。村上は11勝4敗、防御率2.12で勝利数や防御率では才木にやや劣るが、勝率.733、奪三振数124はいずれもリーグトップだ。他の先発陣も、新外国人右腕のデュプランティエ、大竹耕太郎、伊藤将司、伊原陵人、高橋遥人とゲームメーク能力が高い投手がズラリと並んでいるが、MVP候補となればエース2人に絞られるだろう。
投手では救援陣も抜群の安定感で優勝に貢献した。48試合連続無失点と日本記録を更新中の石井大智、及川雅貴は共に防御率0点台。40ホールドの及川、35ホールド石井のほか、湯浅京己、桐敷拓馬らが、守護神・岩崎優につなぐ強固な勝利の方程式が確立していた。救援陣からMVPが出てもおかしくはない。

■他球団の選手や首脳陣が評価した坂本
阪神を取材するスポーツ紙記者はこう話す。
「藤川球児監督のマネジメント能力も光りました。シーズンを通じて投げた経験がない及川は開幕から1軍で完走させる一方で、岩崎、桐敷、湯浅は疲労を考慮して登録抹消でリフレッシュさせるなど無理をさせない。野手も連戦が続くと主力をスタメンから外し、コンディションを整えていました。遊撃と左翼は『競争のポジション』と意識づけて若手のモチベーションを高めるなど起用法も絶妙でした。個々の能力が高いだけでなく、組織としてもスキのない集団でした」
他球団はどう感じただろうか。選手や首脳陣が口をそろえて高く評価したのは、正捕手をつかんだ坂本誠志郎の存在だった。セ・リーグ球団の打撃コーチが語る。
「一番厄介だった選手を挙げるなら、坂本です。もちろん佐藤、森下には痛打を食らいましたし、才木や村上も好投手ですが、阪神のキープレーヤーは坂本です。内角を果敢に突き、緩急をうまく使う。打者の狙いを察知して裏を欠く配球が絶妙で、打者は投手との対戦に集中できず、坂本のリードに神経を使わされていました。守備面で言えば、古田敦也(元ヤクルト)、谷繁元信(元横浜、中日)に匹敵する選手だと思います」
別の球団の捕手も、この見方に同意する。
「坂本さんは捕球技術が凄い。際どい球をストライクにするフレーミングは球界トップクラスでしょう。リードも投手の良さを引き出しながら、打者の考えていることの上をいく。個人的にいえば、今年の阪神のMVPは坂本さんだと思います」
坂本は打撃が課題だったが、今年は下位打線の核になった。打率.239、2本塁打、22打点は平凡な数字だが、出塁率は.355と一気にはね上がる。規定打席に到達していないが、この出塁率はチームトップ。2ストライクに追い込まれてもファウルで際どい球をカットし、ボール球を見極めて四球で出塁する。坂本がチャンスメークし、上位打線で返すことで、どこからでも得点が奪える切れ目のない打線が実現している。

■注目されたFA権行使をせず残留
坂本はアマチュア時代から、より注目される存在が近くにいた。履正社高では1学年上に山田哲人(ヤクルト)、明大では同学年に大学№1野手の呼び声が高い高山俊(オイシックス新潟)がいた。坂本は2015年のドラフト2位で阪神から指名されたが、1位で入団した高山のほうが注目度ははるかに高かった。
アマチュア時代から坂本を見てきたパ・リーグ球団のスカウトがこう話す。
「坂本は『勝つチームの捕手』という印象が強いですね。明大で1年秋から正捕手の座をつかみ、4年の時は日本代表の正捕手を務めています。打撃はプロのレベルに対応するのに時間が掛かるかなと感じましたが、インサイドワーク、ブロッキング技術、スローイングなど捕手としての能力はアマチュア球界で抜けていました。ドラフトではウチも坂本を上位でリストアップしていましたが、阪神が2位で指名したのは驚きでした。その後の活躍を見れば、正解でしたね」
阪神では梅野隆太郎との併用が続いたが、23年には8月に梅野が故障で離脱した後に先発マスクをかぶり続け、18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一の原動力になった。昨年、国内FA権を取得した際は去就が注目されたが、権利を行使せずに3000万円増の推定年俸1億円プラス出来高払いで4年契約を結んでいる。
「FA権を行使していたら、複数球団の争奪戦になったことは間違いないでしょう。昨オフは大山がFA権を行使して阪神残留か巨人移籍かで去就が注目されましたが、大山だけでなく、坂本が残留したことが阪神の優勝には欠かせなかったと思います。チームの司令塔として今後も不可欠な存在です」(スポーツ紙デスク)
坂本は現場の評価が高い「玄人好み」という表現が当てはまる。記者投票で決まるMVPは獲得できなくても、他球団には、坂本の存在がなかったら阪神の優勝はなかったと考えている人が多い。阪神の黄金時代構築へ、不可欠な司令塔だ。
(ライター・今川秀悟)