「外国人規制か共生か」続く議論、高齢化率全国2位の地でイスラム教徒の女性が感じた「壁」 向けられる厳しい視線、受け止めながら取り組むこととは

イスラム教の礼拝所「モスク」の設立に奔走したインドネシア出身の看護師マユミ・セティアワティさん
7月の参院選で、在留外国人政策が争点の一つになった。参政党が「日本人ファースト」を打ち出して議席を大きく伸ばし、「規制か共生か」は国会だけでなく、交流サイト(SNS)などで今も議論が続く。
そんな中、高知市の病院で看護師として働くインドネシア人のマユミ・セティアワティさん(32)が、イスラム教の礼拝所「モスク」の運営に奔走している。昨年11月、市中心部の観光名所「はりまや橋」に近い5階建てビルを1棟丸ごと使って誕生したモスク。その設立の中心を担った女性だ。
高知県は都道府県別の高齢化率が全国2位で、外国人材の受け入れが進む。だがマユミさんはモスクの立ち上げを通じて、外国人や異文化に向けられる厳しい視線を、身をもって感じてきた。願うのは「日本人と外国人が暮らせる社会」。マユミさんの歩みをたどった。(共同通信=杉村千依)
▽「母のルーツ」日本へ、最高難度の能力試験にも合格

高知市で新たに開設された5階建てビルのモスク=7月
マユミさんはスマトラ島の都市メダンの出身。母方の祖父が日系人で、母親は日本に短期留学した経験があった。自身も日本の演歌を耳にしながら育ち、自然と日本への留学を志すように。2010年の高校卒業後、高知のNPO法人が受け入れる看護師候補奨学生として来日した。
来日後は明徳義塾高校日本語コース(高知県土佐市)を経て高知市の専門学校へ。最高難度の日本語能力試験「N1」を取得し、2015年に看護師国家試験に合格。現在は高知市内の病院で看護師として働く。
▽土佐弁に苦労、「外国人」としての見方に打ちのめされる

日本語能力試験でも長文読解には苦労したが、高知で生活する上で大変だったのは方言だ。今では流ちょうな土佐弁を操るマユミさんだが「『いぬる』が帰る、とか。周りの人に一つずつ聞いていた」と振り返る。
しかし、努力を重ねてもうまくコミュニケーションできず、悔しい思いをしたことも。看護師になって7、8年たったころ、日本人の同僚にこう言われた。「あんた分からないでしょ、他の人呼んで」。どうしても「外国人だから」という見方をされてしまう現実に、打ちのめされた。
▽宗教面でのハードル…草むらで礼拝せざるを得ないことも

モスク内で祈りをささげるイスラム教徒の男性たち=7月、高知市
さらに苦労したのは宗教面だ。インドネシアでは国民の9割近くがイスラム教徒で、1日5回礼拝する。至る所にモスクがあるが、日本ではわずか。勤務先に礼拝スペースはなかった。
信仰上、勤務中であっても礼拝は必要だ。理解を得るため、同僚や上司に説明を重ねた。仕事の合間に病院内の空き部屋を探すなど全て手探り。礼拝中の姿を同僚に偶然見られ、驚かれたこともあったが「今はみんな慣れてくれた。職場の人に感謝しています」と語る。
ただ、職場の外での礼拝はそれでも大変だった。イスラム教では、集団で礼拝することで徳を多く積むことができるとされている。他の人と一緒に礼拝するためには広い場所が必要だ。公民館や体育館などをその都度借りてきたが、思わぬアクシデントもあった。
イスラム教徒は礼拝前、身体を清めるため、手や顔、腕、頭、足などを水で洗う。せっかく貸してもらえた施設でトイレの洗面台の床を水浸しにしてしまい、施設に迷惑をかけてしまったのだ。新型コロナウイルスの感染が拡大した時期には施設の貸し出し自体がストップ。草むらで礼拝することもあった。
その後コロナ禍が落ち着き、入国制限の緩和で技能実習生が増加。礼拝で苦労を重ねたマユミさんは、自分でその場所を作ろうと思い立った。「みんなで安心してお祈りできる場所があったら」。モスク設立を目指すコミュニティーとして2023年4月、同じインドネシア出身の夫と「高知ムスリムファミリーインドネシア会」を立ち上げた。
こだわったのはモスクの場所だ。「高知は観光客も多いし、日本人も気軽に寄れるようにしたい」。観光ついでに来てもらえるようなアクセスの良さを重視した。SNSで寄付を呼びかけ、知り合いのインドネシア料理店にも募金箱を置いてもらった。今年2月までに700万円以上を集め、現在のビルを契約した。
▽高齢化先進地の高知で増える外国人…「迷惑」と言われた

モスク内で祈りをささげるインドネシアから来日したイスラム教徒の女性たち=7月、高知市
内閣府によると、2024年の高知県の65歳以上人口割合は、秋田県に次ぐ36・6%。高知県は外国人の受け入れ促進に取り組み、県のまとめでは、昨年10月末時点の県内の外国人労働者数は5293人で過去最多となった。県担当者は「人口減少が進む中、外国人材は非常に重要。定着してもらえる環境づくりをしたい」と話す。
こうした流れを背景に、県は6月、外国人に選ばれる町づくりを進めるため「多文化共生推進会議」の初会合を開いた。
委員を務めるインドネシア人のキエル・イェヘスキエルさん(38)は母国で長らく日系企業に勤め、2019年に来日。現在は高知にある野球独立リーグチームのスタッフとして留学生をサポートしている。キエルさんは「高知は都市圏に比べて外国人と触れ合う機会が少ない。でも、外国人というだけで線を引かないでほしい。一緒に高知の未来を作る存在として見てほしい」と願う。
しかし現実には、外国人や異文化に対する一部の視線は厳しい。マユミさんはモスクの物件探しで「宗教目的で貸すことはできない」「近所迷惑になる」などと言われ、内見も断られ続けた。
日本ではインドネシアほど宗教になじみがないと改めて痛感したマユミさん。ショックだったが、今は現実を冷静に受け止める。「外国人といえば物を盗むとか良くないニュースばかり。宗教と言えば『変な生き方』みたいなイメージもあるのかもしれない」
▽「外国人」だからと線を引かず、一緒に未来を作る仲間として互いの風習を学べれば

モスク内で談笑するマユミ・セティアワティさん(左端)らインドネシアから来日したイスラム教徒の女性たち=7月、高知市
日本社会における外国人やイスラム教徒に対する視線、厳しい現実を肌で感じてきたマユミさん。それでも前を向き、少しでも「壁」を壊そうと取り組みを続けている。
モスクを設立するために立ち上げた「高知ムスリムファミリーインドネシア会」は今、モスクを飛び出し、公民館などでさまざまなイベントの企画に関わっている。
聖典コーラン(クルアーン)の読誦や、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフ「ヒジャブ」の着用体験ができる日本人との交流会。土佐弁の難しさなど、外国人特有の悩みを日本人と共有する場面もみられたという。
イベントを通じ、少しずつ手応えを感じているマユミさんはこう語る。「完全に差別をなくすのは難しい。互いの風習や習慣を学び、日本人と外国人が安心して暮らせる社会をどうやったらつくれるか考えていきたい」。高知から、これからも外国人と日本人をつないでいく。